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*22 目覚めた先に、待っていたものは
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「……っう、ん? あれ? ここは……」
強く白い光に包まれて目がくらみ、自分の輪郭すらわからなくなったと思っていたら、気が付けばそれは段々と弱くなっていき、僕の目の前には真っ白な天井と、僕を覗き込む人影が見え始めてきた。
ゆっくりと見開いた視界に飛び込んできたのは、白い天井の他に、どこからか伸びている透明の管の数々。それから、規則的に響く高い電子音――そこに、あの涼しげな目元をした黒い短髪の彼が映り込む。
泣き濡れた目をした彼の表情に、僕の胸が痛む。彼の名を、呼ばなくては――
「……晴、斗?」
掠れる声で呟いた僕の声に、その彼は、晴斗は、闇色の瞳を潤ませて抱き着いてきた。晴斗の肩は震えていて、顔を見ずとも彼がいま声もなく泣いているのがわかる。
やさしく、しかしそっと力を込めながら、晴斗が僕を抱きしめてくれる。その想いのこもったぬくもりが懐かしく、僕もまた目を潤ませる。
「光! わかるか? 俺だよ、晴斗だよ!」
僕はとても長く眠ったままだったらしく、そのことでひどく大切な人である彼を心配させてしまったようだ。
ごめんね、と僕が言うと、晴斗は子どものように僕が横になっているベッドの布団に顔を押し付けるようにしながら首を振る。
「良かった……本当に、良かった……もう、目覚めないかと……」
震える声と指先で僕の頬に触れる晴斗の様子からして、僕は随分と大変な状況にあるらしいことがうかがえる。現に今、僕は自分の手足が自由に動かすことができないのだから。
「晴斗……僕、一体、何があったの?」
濡れる視界を瞬きで拭いながら訊ねると、僕に顔をうずめるようにしていた晴斗が顔をあげ、痛みを堪えるような苦しげな顔をする。
そんなに、ひどいことが僕の身に起きたのだろうか……その先の言葉を訊くのをためらってしまいそうにもなったが、僕はもう一度彼を呼ぶ。
「教えて、晴斗。僕に、僕らに何が起こったの?」
僕が長く眠り続け、晴斗をひとりにしてしまった理由を、思い出さなくてはいけない。それはきっと、僕が眠っている間に見てきた長いながい夢にも通じている気がするからだ。
晴斗と看護師さん達の話によると、僕はとある事件に巻き込まれてから半月ほど、意識がなかったらしい。
半月の間、晴斗は身寄りのない僕に付き添っていたらしく、その間、ほとんど僕の眠る傍を離れなかったという。
「そんなに待たせてたんだ……ごめんね、晴斗」
「謝らないでくれ、光。もとはと言えば、俺がお前のこんな事態にさせてしまったのだから」
「晴斗の、せいなの?」
「半月前の夜、光は、お前に執着していたストーカーとも言える、慎夜と一緒に7階の部屋から落ちたんだ」
あの世界で、ハイターであった晴斗が話していたことだ、と僕は気付いた。リヒトとして暮らしていた世界で、幼馴染だと思っていたフィスが、実は僕を殺しかけた慎夜という、僕と同じ20代前半の男だったのだ。
元々慎夜は僕のバイト先のカフェの常連で、一方的に僕に惚れ込んでいたらしい。そこまでは、まだ許容の範囲だった。
「でもまさか、家まで突き止められていて、俺の存在を知って逆上して押しかけてくるなんて……」
「それで、僕、一緒に落とされて、大ケガを?」
「ああ、そうなるな……全治3カ月ほどと言われている。本当に、何と謝ればいいか……光、本当に、ごめんな。俺が、油断していたばかりに」
不審な電話や郵便物の盗難なんかが相次いだりして、警察に相談して対応してもらおうとしていた矢先、晴斗の留守中に慎夜が押しかけて来たのだ。それが、半月前のあの夜だった。
勝手に押しかけてきて、お前は俺のものだとか、晴斗なんかがつり合うわけがないだとか、いますぐ一緒に行こうだとか、ナイフを手にしつこく迫られながら、僕は部屋のベランダへと追いやられていったのだ。
「もしあの時、俺があともう5分早く帰っていれば……光が、こうはならなかったはずだ……」
ベランダの柵のギリギリまで追いやられている僕の姿を、ちょうどその時バイト先から帰宅した晴斗が目撃し、慌てて止めに入ったのだけれど……間に合わず、僕は、慎夜と共にそのまま落下し、半月も生死をさまようほどの大ケガを負った。
強く白い光に包まれて目がくらみ、自分の輪郭すらわからなくなったと思っていたら、気が付けばそれは段々と弱くなっていき、僕の目の前には真っ白な天井と、僕を覗き込む人影が見え始めてきた。
ゆっくりと見開いた視界に飛び込んできたのは、白い天井の他に、どこからか伸びている透明の管の数々。それから、規則的に響く高い電子音――そこに、あの涼しげな目元をした黒い短髪の彼が映り込む。
泣き濡れた目をした彼の表情に、僕の胸が痛む。彼の名を、呼ばなくては――
「……晴、斗?」
掠れる声で呟いた僕の声に、その彼は、晴斗は、闇色の瞳を潤ませて抱き着いてきた。晴斗の肩は震えていて、顔を見ずとも彼がいま声もなく泣いているのがわかる。
やさしく、しかしそっと力を込めながら、晴斗が僕を抱きしめてくれる。その想いのこもったぬくもりが懐かしく、僕もまた目を潤ませる。
「光! わかるか? 俺だよ、晴斗だよ!」
僕はとても長く眠ったままだったらしく、そのことでひどく大切な人である彼を心配させてしまったようだ。
ごめんね、と僕が言うと、晴斗は子どものように僕が横になっているベッドの布団に顔を押し付けるようにしながら首を振る。
「良かった……本当に、良かった……もう、目覚めないかと……」
震える声と指先で僕の頬に触れる晴斗の様子からして、僕は随分と大変な状況にあるらしいことがうかがえる。現に今、僕は自分の手足が自由に動かすことができないのだから。
「晴斗……僕、一体、何があったの?」
濡れる視界を瞬きで拭いながら訊ねると、僕に顔をうずめるようにしていた晴斗が顔をあげ、痛みを堪えるような苦しげな顔をする。
そんなに、ひどいことが僕の身に起きたのだろうか……その先の言葉を訊くのをためらってしまいそうにもなったが、僕はもう一度彼を呼ぶ。
「教えて、晴斗。僕に、僕らに何が起こったの?」
僕が長く眠り続け、晴斗をひとりにしてしまった理由を、思い出さなくてはいけない。それはきっと、僕が眠っている間に見てきた長いながい夢にも通じている気がするからだ。
晴斗と看護師さん達の話によると、僕はとある事件に巻き込まれてから半月ほど、意識がなかったらしい。
半月の間、晴斗は身寄りのない僕に付き添っていたらしく、その間、ほとんど僕の眠る傍を離れなかったという。
「そんなに待たせてたんだ……ごめんね、晴斗」
「謝らないでくれ、光。もとはと言えば、俺がお前のこんな事態にさせてしまったのだから」
「晴斗の、せいなの?」
「半月前の夜、光は、お前に執着していたストーカーとも言える、慎夜と一緒に7階の部屋から落ちたんだ」
あの世界で、ハイターであった晴斗が話していたことだ、と僕は気付いた。リヒトとして暮らしていた世界で、幼馴染だと思っていたフィスが、実は僕を殺しかけた慎夜という、僕と同じ20代前半の男だったのだ。
元々慎夜は僕のバイト先のカフェの常連で、一方的に僕に惚れ込んでいたらしい。そこまでは、まだ許容の範囲だった。
「でもまさか、家まで突き止められていて、俺の存在を知って逆上して押しかけてくるなんて……」
「それで、僕、一緒に落とされて、大ケガを?」
「ああ、そうなるな……全治3カ月ほどと言われている。本当に、何と謝ればいいか……光、本当に、ごめんな。俺が、油断していたばかりに」
不審な電話や郵便物の盗難なんかが相次いだりして、警察に相談して対応してもらおうとしていた矢先、晴斗の留守中に慎夜が押しかけて来たのだ。それが、半月前のあの夜だった。
勝手に押しかけてきて、お前は俺のものだとか、晴斗なんかがつり合うわけがないだとか、いますぐ一緒に行こうだとか、ナイフを手にしつこく迫られながら、僕は部屋のベランダへと追いやられていったのだ。
「もしあの時、俺があともう5分早く帰っていれば……光が、こうはならなかったはずだ……」
ベランダの柵のギリギリまで追いやられている僕の姿を、ちょうどその時バイト先から帰宅した晴斗が目撃し、慌てて止めに入ったのだけれど……間に合わず、僕は、慎夜と共にそのまま落下し、半月も生死をさまようほどの大ケガを負った。
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