【完結】転生先で出会ったのは前世の恋人――ではありませんでした

伊藤あまね

文字の大きさ
上 下
44 / 46

*22 目覚めた先に、待っていたものは

しおりを挟む
「……っう、ん? あれ? ここは……」

 強く白い光に包まれて目がくらみ、自分の輪郭すらわからなくなったと思っていたら、気が付けばそれは段々と弱くなっていき、僕の目の前には真っ白な天井と、僕を覗き込む人影が見え始めてきた。
 ゆっくりと見開いた視界に飛び込んできたのは、白い天井の他に、どこからか伸びている透明の管の数々。それから、規則的に響く高い電子音――そこに、あの涼しげな目元をした黒い短髪の彼が映り込む。
 泣き濡れた目をした彼の表情に、僕の胸が痛む。彼の名を、呼ばなくては――

「……晴、斗?」

 掠れる声で呟いた僕の声に、その彼は、晴斗は、闇色の瞳を潤ませて抱き着いてきた。晴斗の肩は震えていて、顔を見ずとも彼がいま声もなく泣いているのがわかる。
 やさしく、しかしそっと力を込めながら、晴斗が僕を抱きしめてくれる。その想いのこもったぬくもりが懐かしく、僕もまた目を潤ませる。

「光! わかるか? 俺だよ、晴斗だよ!」

 僕はとても長く眠ったままだったらしく、そのことでひどく大切な人である彼を心配させてしまったようだ。
 ごめんね、と僕が言うと、晴斗は子どものように僕が横になっているベッドの布団に顔を押し付けるようにしながら首を振る。

「良かった……本当に、良かった……もう、目覚めないかと……」

 震える声と指先で僕の頬に触れる晴斗の様子からして、僕は随分と大変な状況にあるらしいことがうかがえる。現に今、僕は自分の手足が自由に動かすことができないのだから。

「晴斗……僕、一体、何があったの?」

 濡れる視界を瞬きで拭いながら訊ねると、僕に顔をうずめるようにしていた晴斗が顔をあげ、痛みを堪えるような苦しげな顔をする。
 そんなに、ひどいことが僕の身に起きたのだろうか……その先の言葉を訊くのをためらってしまいそうにもなったが、僕はもう一度彼を呼ぶ。

「教えて、晴斗。僕に、僕らに何が起こったの?」

 僕が長く眠り続け、晴斗をひとりにしてしまった理由を、思い出さなくてはいけない。それはきっと、僕が眠っている間に見てきた長いながい夢にも通じている気がするからだ。
 晴斗と看護師さん達の話によると、僕はとある事件に巻き込まれてから半月ほど、意識がなかったらしい。
 半月の間、晴斗は身寄りのない僕に付き添っていたらしく、その間、ほとんど僕の眠る傍を離れなかったという。

「そんなに待たせてたんだ……ごめんね、晴斗」
「謝らないでくれ、光。もとはと言えば、俺がお前のこんな事態にさせてしまったのだから」
「晴斗の、せいなの?」
「半月前の夜、光は、お前に執着していたストーカーとも言える、慎夜と一緒に7階の部屋から落ちたんだ」

 あの世界で、ハイターであった晴斗が話していたことだ、と僕は気付いた。リヒトとして暮らしていた世界で、幼馴染だと思っていたフィスが、実は僕を殺しかけた慎夜という、僕と同じ20代前半の男だったのだ。
 元々慎夜は僕のバイト先のカフェの常連で、一方的に僕に惚れ込んでいたらしい。そこまでは、まだ許容の範囲だった。

「でもまさか、家まで突き止められていて、俺の存在を知って逆上して押しかけてくるなんて……」
「それで、僕、一緒に落とされて、大ケガを?」
「ああ、そうなるな……全治3カ月ほどと言われている。本当に、何と謝ればいいか……光、本当に、ごめんな。俺が、油断していたばかりに」

 不審な電話や郵便物の盗難なんかが相次いだりして、警察に相談して対応してもらおうとしていた矢先、晴斗の留守中に慎夜が押しかけて来たのだ。それが、半月前のあの夜だった。
 勝手に押しかけてきて、お前は俺のものだとか、晴斗なんかがつり合うわけがないだとか、いますぐ一緒に行こうだとか、ナイフを手にしつこく迫られながら、僕は部屋のベランダへと追いやられていったのだ。

「もしあの時、俺があともう5分早く帰っていれば……光が、こうはならなかったはずだ……」

 ベランダの柵のギリギリまで追いやられている僕の姿を、ちょうどその時バイト先から帰宅した晴斗が目撃し、慌てて止めに入ったのだけれど……間に合わず、僕は、慎夜と共にそのまま落下し、半月も生死をさまようほどの大ケガを負った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

処理中です...