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*21 深い闇色の真実
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慎夜――ハイターからその名を聞いた瞬間、僕は、自分が誰であるのか、そして、僕を庇うように抱きしめている彼が誰であるのかを思い出した。
瞳と髪の色こそ違うけれど、深く僕を愛してくれるのがわかる色合いのそれは、何物にも染まらない強い彼の意思の表れ。なにより僕は、その眼差しの強さと奥に秘められた優しさを知っている。
だからその名を、そっと口にしてみた。
「……晴斗?」
恐る恐る、確かめるようにその名を呼ぶと、ハイターであった彼、晴斗は、ゆっくりとこちらを振り返る。その目はようやく愛しいものに巡り会えた喜びに濡れて揺れていた。
僕はこの眼差しを知っている。誰よりも僕を愛してくれる、大切な人のそれだ。
晴斗は僕が名を呟くと感極まったかのように僕を抱きしめ、「……光」と、呻くように呟いた。
「このままあいつの意のままかと思っていた……よかった、光に戻って」
「なんで、僕は、ここに……? フィス……慎夜に殺されたの?」
「いま光は、あっちの世界で必死に生きようとしている。このままこの世界にい続けたら、きっと戻れなくなる」
「……どういうこと?」
告げられた言葉の意味を問うた瞬間、僕と晴斗の間を切り裂くように何かが割って入って来た。鋭くきらめくそれに、僕らはとっさに身を離す。
それは再び振りかざされ、ためらいなく晴斗へ振り下ろされる。反射的に飛びのいて避け、次はまっすぐに突き抜けようとしてくる。
右へ、左へ、後ろへと行き着く間もなく避けるそれは、それまでフィンスターニスとして僕の傍で幼馴染として寄り添っていてくれたはずの――慎夜と呼ばれた彼だった。
「この世界まで追いかけてきて、俺の邪魔するなんて……死ね、晴斗!」
「やめろ!」
「晴斗、逃げて!」
銀髪の晴斗に襲い掛かる慎夜を、僕は思わず背後から羽交い締めして止める。小柄な僕に食い止められる時間なんてそう長くはないだろう。でも、少しでも時間稼ぎして晴斗が助かる道を探りたかった。
だって彼は、僕の大切な、愛しい人だから。
だけどそれは、あっさりと腕をつかまれて足を払われて転がされ、再び慎夜に馬乗りにされたことで塞がれてしまった。
「くそ! 放せ!」
「自分から来るなんて。とんだマヌケだね、ヒカル……そういうとこもかわいくて、食べたくなっちゃうなぁ」
「何、言って……ッや! やめ……! やめろ! ッあぁ!」
リヒトである僕よりも体格がいい、フィスの姿をした慎夜から押さえつけられて身動きが取れない僕は、されるがままハイターの前で犯されてしまうかもしれない。
ようやく大切な人と巡り会えたのに、その人の前で愛してもいない、むしろ嫌悪している相手に彼の前でこんなことになるなんて……! 恐怖と悲しみで震える僕を、慎夜は舌なめずりをしながら見下ろしつつ、ねっとりとした声で呟く。
「その顔、すごくかわいいよ、ヒカル……ああ、あいつの前で君を食べられるなんて夢みたいだ」
「ッや、ヤダ……やめ……」
「さっきまでの強気はどうしたのかなぁ? 怯える顔も愛らしいよ、ヒカル……あの日と同じだね」
「あの、日?」
「君があいつの前で死んで、俺の世界に来た日のことだよ」
にたりと微笑みながら僕がこの世界にやって来た顛末を話すフィスの顔をした慎夜の言葉に、僕は心底憎悪と嫌悪を覚え、それは怒りの涙となってあふれ出す。
しかし彼が、それに心が痛むようなまともな神経を持ち合わせているはずもなく、嬉しそうに気味の悪い声でくすくすと笑うばかりだ。
「さあ、ヒカル……あいつの前で俺のものになろうね――」
無理矢理熱を昂らせた下腹部の秘所に、フィスの指が滑り込もうとしたその時、それまで慎夜の動向を探るように佇んでいたハイターが駆け寄り、フィスを吹き飛ばしていったのだ。
不意をつかれる形となったフィスの姿をした慎夜は、無様に転がっていく。その隙に僕は立ち上がり、すかさずハイターの姿の晴斗の元に駆け寄り、思わず身を寄せ抱き合う。
「ヒカル! 痛いところはないか?」
「うん……なんとか……」
ハイターの指が僕のスリ傷だらけの頬に触れ、やさしく撫でてくれる感触が嬉しい。ああ、やっぱり僕は彼が好きで仕方ないんだと実感する。
しかしその間にも慎夜であるフィスが頭を振りつつ呻きながら起き上がり、ゆらりとこちらをにらみ付けてきた。
「ふざけんな! 揃いも揃って俺をバカにしやがって!! 今度こそお前は俺に惹かれていたくせに!!」
「それは、フィスが慎夜だなんて思ってなかったからで、幼馴染として惹かれていただけだ!」
「そもそもは慎夜が、正体を隠し、名前を偽ってこの世界の光に近づこうとしていたのが悪いんだろう! そもそも、お前はもう既に……」
「黙れ! 黙れぇ! 光が俺のものにならないなら……もう、いっそ……」
常軌を逸した、焦点のあっていない視線を向けながら、フィスであった慎夜が手放していたナイフを掴んで構え直し、僕らの方へ突っ込んでくる。
尋常でない歪んだ愛憎が、全力で僕に向けられているのがわかる。恐ろしいほどに真っすぐに、ためらいもなく。
その気迫に恐怖を覚えた僕は、足がすくんで動けなくなってしまい、その場にへたり込みそうになる。
「光!」
晴斗の手にすがるようにしがみついて震える僕と、それを何とか奮い立たせようと抱きかかえる晴斗に向かって、慎夜が突進してくる。手許の刃は、僕を狙っているのか、彼を狙っているのかわからない。ただ、どちらの命も本気で奪うつもりでいることは確かだ。
「死ねぇ!!」
このままでは、どちらも無事ではいられない……そう思った僕は、次の瞬間に降りかかってくるだろう痛みに備えて観念するように硬く目を閉じた。ああ、またこの世界でも僕は慎夜に殺されるんだ――そんな諦めすら抱いていた。
しかしそんな僕を、ハイターが突き飛ばしフィスからより遠くへと逃がそうとしたのだ。
瞳と髪の色こそ違うけれど、深く僕を愛してくれるのがわかる色合いのそれは、何物にも染まらない強い彼の意思の表れ。なにより僕は、その眼差しの強さと奥に秘められた優しさを知っている。
だからその名を、そっと口にしてみた。
「……晴斗?」
恐る恐る、確かめるようにその名を呼ぶと、ハイターであった彼、晴斗は、ゆっくりとこちらを振り返る。その目はようやく愛しいものに巡り会えた喜びに濡れて揺れていた。
僕はこの眼差しを知っている。誰よりも僕を愛してくれる、大切な人のそれだ。
晴斗は僕が名を呟くと感極まったかのように僕を抱きしめ、「……光」と、呻くように呟いた。
「このままあいつの意のままかと思っていた……よかった、光に戻って」
「なんで、僕は、ここに……? フィス……慎夜に殺されたの?」
「いま光は、あっちの世界で必死に生きようとしている。このままこの世界にい続けたら、きっと戻れなくなる」
「……どういうこと?」
告げられた言葉の意味を問うた瞬間、僕と晴斗の間を切り裂くように何かが割って入って来た。鋭くきらめくそれに、僕らはとっさに身を離す。
それは再び振りかざされ、ためらいなく晴斗へ振り下ろされる。反射的に飛びのいて避け、次はまっすぐに突き抜けようとしてくる。
右へ、左へ、後ろへと行き着く間もなく避けるそれは、それまでフィンスターニスとして僕の傍で幼馴染として寄り添っていてくれたはずの――慎夜と呼ばれた彼だった。
「この世界まで追いかけてきて、俺の邪魔するなんて……死ね、晴斗!」
「やめろ!」
「晴斗、逃げて!」
銀髪の晴斗に襲い掛かる慎夜を、僕は思わず背後から羽交い締めして止める。小柄な僕に食い止められる時間なんてそう長くはないだろう。でも、少しでも時間稼ぎして晴斗が助かる道を探りたかった。
だって彼は、僕の大切な、愛しい人だから。
だけどそれは、あっさりと腕をつかまれて足を払われて転がされ、再び慎夜に馬乗りにされたことで塞がれてしまった。
「くそ! 放せ!」
「自分から来るなんて。とんだマヌケだね、ヒカル……そういうとこもかわいくて、食べたくなっちゃうなぁ」
「何、言って……ッや! やめ……! やめろ! ッあぁ!」
リヒトである僕よりも体格がいい、フィスの姿をした慎夜から押さえつけられて身動きが取れない僕は、されるがままハイターの前で犯されてしまうかもしれない。
ようやく大切な人と巡り会えたのに、その人の前で愛してもいない、むしろ嫌悪している相手に彼の前でこんなことになるなんて……! 恐怖と悲しみで震える僕を、慎夜は舌なめずりをしながら見下ろしつつ、ねっとりとした声で呟く。
「その顔、すごくかわいいよ、ヒカル……ああ、あいつの前で君を食べられるなんて夢みたいだ」
「ッや、ヤダ……やめ……」
「さっきまでの強気はどうしたのかなぁ? 怯える顔も愛らしいよ、ヒカル……あの日と同じだね」
「あの、日?」
「君があいつの前で死んで、俺の世界に来た日のことだよ」
にたりと微笑みながら僕がこの世界にやって来た顛末を話すフィスの顔をした慎夜の言葉に、僕は心底憎悪と嫌悪を覚え、それは怒りの涙となってあふれ出す。
しかし彼が、それに心が痛むようなまともな神経を持ち合わせているはずもなく、嬉しそうに気味の悪い声でくすくすと笑うばかりだ。
「さあ、ヒカル……あいつの前で俺のものになろうね――」
無理矢理熱を昂らせた下腹部の秘所に、フィスの指が滑り込もうとしたその時、それまで慎夜の動向を探るように佇んでいたハイターが駆け寄り、フィスを吹き飛ばしていったのだ。
不意をつかれる形となったフィスの姿をした慎夜は、無様に転がっていく。その隙に僕は立ち上がり、すかさずハイターの姿の晴斗の元に駆け寄り、思わず身を寄せ抱き合う。
「ヒカル! 痛いところはないか?」
「うん……なんとか……」
ハイターの指が僕のスリ傷だらけの頬に触れ、やさしく撫でてくれる感触が嬉しい。ああ、やっぱり僕は彼が好きで仕方ないんだと実感する。
しかしその間にも慎夜であるフィスが頭を振りつつ呻きながら起き上がり、ゆらりとこちらをにらみ付けてきた。
「ふざけんな! 揃いも揃って俺をバカにしやがって!! 今度こそお前は俺に惹かれていたくせに!!」
「それは、フィスが慎夜だなんて思ってなかったからで、幼馴染として惹かれていただけだ!」
「そもそもは慎夜が、正体を隠し、名前を偽ってこの世界の光に近づこうとしていたのが悪いんだろう! そもそも、お前はもう既に……」
「黙れ! 黙れぇ! 光が俺のものにならないなら……もう、いっそ……」
常軌を逸した、焦点のあっていない視線を向けながら、フィスであった慎夜が手放していたナイフを掴んで構え直し、僕らの方へ突っ込んでくる。
尋常でない歪んだ愛憎が、全力で僕に向けられているのがわかる。恐ろしいほどに真っすぐに、ためらいもなく。
その気迫に恐怖を覚えた僕は、足がすくんで動けなくなってしまい、その場にへたり込みそうになる。
「光!」
晴斗の手にすがるようにしがみついて震える僕と、それを何とか奮い立たせようと抱きかかえる晴斗に向かって、慎夜が突進してくる。手許の刃は、僕を狙っているのか、彼を狙っているのかわからない。ただ、どちらの命も本気で奪うつもりでいることは確かだ。
「死ねぇ!!」
このままでは、どちらも無事ではいられない……そう思った僕は、次の瞬間に降りかかってくるだろう痛みに備えて観念するように硬く目を閉じた。ああ、またこの世界でも僕は慎夜に殺されるんだ――そんな諦めすら抱いていた。
しかしそんな僕を、ハイターが突き飛ばしフィスからより遠くへと逃がそうとしたのだ。
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