【完結】転生先で出会ったのは前世の恋人――ではありませんでした

伊藤あまね

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 僕らが辿り着いた場所は、なんと展望室だった。
 まさかサボりの常習者が集う所に連れてこられるなんて思っていなかったので、その意外さに僕は驚きを隠せない。
 そしてもっと驚いたことに、彼はとても慣れた様子で展望室の明り取りの窓の下に腰を下ろしたのだ。

「フィス、君、僕にはここに来るなんて信じられない、なんて言ってたじゃないか。なのに、なんだかすごく慣れている感じだね」
「そう? 気のせいだよ」

 それよりこっちに来て、話をしようよ、とフィスに手招きされ、僕はおずおずと傍に歩み寄り、隣に腰を下ろす。
 いつも当たり前のように隣り合っていたはずの彼と、こうして改めてこんな秘密めいた場所で、二人きりになったことなんて、いままであっただろうか。向かい合ってバタートーストを頬張ることはあっても、陽だまり並んで座ることなんてなかった気がする。
 それに、並んで座りながらも、フィスは僕に寄り添うようにしているのだ。まるで、恋人同士がそうするように。
 恋人同士、という単語が浮かんですぐに、昨日言われた、言葉を思い出し体が熱くなってくる。そして同時に、ハイターとのキスの感触も蘇る。
 そうだ、昨日自分は二人から想いを告げられ、まだ何も答えを伝えていないままだ。重大なことに気づいた途端、じんわりと手に汗がにじむほどの緊張が走り始める。

「そんなに緊張しないでよ、リヒト。俺は別に取って食ったりなんてしないよ」

 身体を無意識に強張らせていたのが伝わったのか、フィスがくすくすと苦笑する。僕はごめん、とか、そういうつもりは、とか言いながら居ずまいを正そうとするも、逆効果と言わんばかりにかえって緊張が増していく。
 ひとりで泡を食っている僕の頭から頬を、フィスはそっと撫でながら呟く。

「昨日のこと、考えてるんでしょう?」
「え、あ……その……」
「俺の気持ちはそのまま伝えたつもりだよ。俺は、リヒトが親友よりも大事だ」
「フィス……」
「君の緑色の美しい瞳も、可愛らしい栗色のくせっ毛も、わがままで自分が一番だって思っちゃうとこも、全部」

 まるで口説き落とすような甘い言葉に、僕はどう返していいかわからない。ただの幼馴染の延長で大事だということとは違う、なにかもっとねっとりとした、絡みつくような感情が渦巻いている気がしてならい。
 その感情に、僕はひどく違和感を覚えてしまう。何かが違う気がする……でも、その何かが見えてこない。
 それでなくとも、フィスの手はずっと僕から離れず、頬や髪をやたらと触れてくる。最近過剰なスキンシップだと言い切るにはあまりに粘着質で、距離もいつになく近い。
 心持ち後退りしそうになっている僕に、フィスはくすりと笑ってこう言った。

「それとも、そういうのとは違う何かで、リヒトは元気がないんじゃない? 違う?」

 フィスにどういう返事をしようかと考えこんでいる僕に、彼はまるで胸中を見透かすようなことを告げてくる。
 僕からではなく、彼の方から口火を切ってもらった方が、僕としては話がしやすい気がしていたのだけれど、そう仕向ける方法がわからないこともあって、黙り込んでいたのだ。
 それと同時に、やたらと触れられてくる違和感を覚えながらも、フィスの視線から目を反らせないのが不思議でならなかった。見透かすような目が怖い、とか、なんだか不気味だ、とか、それだけではない、やはりどろりとした何かが彼の眼差しには込められている。

(いや、きっとこれは昨日も今日も告白みたいなことをされたからだよ……そうに決まっている)

 だから、胸中を見透かされた驚きよりも、安堵感の方が強いんだと思うようにし、僕はつい、表情をほころばせる。

「フィスには敵わないな……さすが、幼馴染だね」
「そうだよ、伊達に君の傍にいないよ。いつだってね」

 得意げな顔をして胸を軽く拳で叩くフィスの仕草がおかしくて、僕が思わず苦笑すると、フィスもまた照れ臭そうに笑う。穏やかな瞬間に、緊張の糸がほどけていくのを感じる。
 ひとしきり笑ったあと、僕はぽつりぽつりと昨日あったこと――この場所であのハイターに想いを告げられ、キスをされたこと、そして……それは、僕の妄想による出来事ではないか、という話をした。

「つまり、俺を含めたこの世界は、すべてリヒトが望むように出来ているって言うの? この前言っていたみたいに、リヒトが神だ、って言うこと?」
「神、って言うのかな……とにかく、何でも僕にとって都合のいい展開になってばかりなんだ。ダンスの優勝にしても、先生の休職にしても、この前のサーカスのことだって、この前の試験の結果やポーカーで勝ちまくったことにしても、全部、そうなんじゃないか、って」
「すべてが、リヒトが望んだとおりになっている?」

 確かめるように繰り返し訊ねてくるフィスの言葉の一つ一つにうなずき返していると、フィスは先程までの穏やかな顔を曇らせて考え込んでしまった。
 もし、本当にこの世界が僕の妄想であるなら、きっと数秒後には彼はあっけらかんと笑い、「大丈夫だよ、リヒト」と言ってくれるはずだ。
 そのはず……きっと、そうだ……そう、自分に言い聞かせるようにフィスの言葉を待っていたその時、不意に彼が顔をあげ、こちらを向いた。
 その目は怖いくらいに真っすぐで迷いがなくて、まるで獰猛な獣のようだ。喰われる……と、反射的に思った瞬間、僕は手首を掴まれて陽だまりの石畳の上に組み敷かれていた。


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