【完結】転生先で出会ったのは前世の恋人――ではありませんでした

伊藤あまね

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「え? アーベル先生が休職?」

 朝起きて一時限目の授業である作法の教室に行くと、ドアに張り紙がされていたのだ。
 張り紙によると、アーベル先生は今日から無期限で学校を休み、実家に帰ることになった、と書かれている。それ以上に詳しい話は書かれておらず、僕らはぽかんと口を半開きにして張り紙を見ているばかりだ。

「リヒトが言ったとおりになったね……」
「……え?」
「言ってたじゃんか、昨日。もう来なくてもいいのに、って」

 フィスが呆然とした顔で僕の方を見やりながら呟き、僕もハッとして昨日の言葉を思い出す。
 確かにそう言った。でもあれは冗談で、叶う事のない他愛ない戯言で……まさか、こんなことになるなんて思っているわけがない。
 だけど、僕にとってこの展開は都合がいいとも言えるんじゃないか? と、ふと、考える。
 これだけじゃなくて、やはり今までの出来事――助けを求めて祈ったらハイターが現れ、その上ポーカーに勝ちまくるとか、試験のヤマが当たるとか、僕の振る舞いに誰も怒らない、とか――は、僕にとって偶然でなく、都合がいいように展開していたとも言えるんじゃないだろうか。

「……じゃあ、この世界って、やっぱり、僕が創った?」

 ならば、僕はこの世界で言う“神”と言えるのではないだろうか。仕組みはわからないけれど、僕が願えばあらゆることが僕の意のままになるのと同意なのだから。
 そう、考えに合点が言った途端、僕は言いしれない力のようなものが、体内の奥から湧いて来るのを感じる。そして同時に、わけもなく目の前の光景が滑稽に見えておかしくてたまらない。
 ふつふつと湧いてくる笑い噛み締めることもせず、僕がひとり笑いだしたのを、フィスが不気味そうな顔をしてみている。

「……リヒト? どうしたの?」
「ふふふ……フィス、僕、わかったんだよ」
「何が?」
「この世界は僕のものだ、ってね」
「どういうこと?」

 何を言っているんだ? と言いたげに眉間にしわを寄せ、首を傾げているフィスの姿さえおかしくて、僕は笑いが止まらない。

(なんだ……じゃあ、僕はただこの世界を楽しんでいけばいいんだ、思いのままに)

 はじめからこうしていれば良かったんだ……僕がこの世界の“神”なのだから。
 “神”であると言うならば、この世界は僕のものだし、なんだってできるし、なんだって叶う。

「リヒト、なにさっきからニヤニヤしてんの? 大丈夫?」
「大丈夫、いつだって僕は万全だよ、フィス」

 狐につままれたような顔をしているフィスの顔を眺めながらぼくは高笑いし、教室のドアに貼ってあった張り紙を引き剥がし、くしゃくしゃに丸め床にたたきつける。
 周囲にいた生徒たちがどよめき、引いていく気配がする。それさえも、僕には気分が良かった。

「リヒト! そんなことはしない方が……」
「何そんな怖がってるの? アーベル先生なんてもう来ないんだよ?」
「そう、かもしれないけれど……」
「さ、食堂でバタートーストを好きなだけ食べようよ、フィス」
「え? いまから? 授業は?」
「そんなもの、もう受けなくていいんだよ」
「リヒト? 何を言って……」

 僕は、なにを言っても良いし、やってもいい。何故ならこの世界を創ったものなのだから。
 事態がわからずうろたえるフィスの手を牽き、僕は騒めく教室をあとにし、まだ開いていないはずの食堂へ向かう。
 開いていない? ううん、そんなことはない。だって僕が開いていると言えば、どこでも開く。

「何故なら僕はこの世界を創ったんだからね」



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