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*13 愛がないはずの甘い懐かしいキス
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ハイターを利用して、この世界が僕の妄想で創られているかどうかを確かめる。
そう、決意してから、僕は展望室だけでなく、優等生だと言う彼が生きそうな場所――例えば、図書館とか、化学の資料室とか――に足を運ぶようになった。
「んー……やっぱりいないかぁ……」
優等生であるなら、勉強を四六時中していて、そういう場所にいるだろう……なんて安直な考えだったらしい。
足を延ばしてハイターのクラスの寮のフロアの方まで覗いてみたけれど、馴染みのない生徒がうろちょろしているのはかなり目立つようで、かえって人探しがしにくい。しかも155センチくらいの小柄な僕よりもはるかに背が高い生徒に下級生に間違われ、「何か用か?」と、問われると、その迫力に用件が言えなくなってしまう。
そもそも、用件自体もそれと呼んでいいのかわからない内容だから、やはりハイターを捜すのは容易ではなかった。
「ハイターが僕のこと好きかも、なんて思っていたけれど……だからって僕、ハイターのこと特に何も知らないんだよね……」
妙な噂はありつつも、事実、学院一と言って良いほど優秀な生徒であることは知っているけれど、それ以上のことは何も知らない。寮の部屋番号も、食堂でよく食べるメニューも、良くつるんでいる友達さえ知らないのだから。
そんなのでよく自分が好かれているなんて思えたな……と、我ながら呆れてしまう。自惚れもいい所だろう。
それでも、やはりあの僕の頬に触れてきた指先の熱さや、向けられる青い眼差しの強さには、友愛以上の何かが含まれている気がしてならない。
友愛以上の何か……それを、単純に恋愛感情として考えていいのだろうか。
「……いや、やっぱり、ハイターは僕のことが好きだよ。だって、絶対に連れて帰るって言うんだから」
どこにか、はわからないけれど。そう、口の中で呟きながら、僕は今日もまた展望室へ向かう。ハイターを一通り学内で探し回った後は、いつも自然と足がここへ向かってしまう。ここにハイターがいるとは限らないのに――
「……え、いた」
毎日捜しまわっていたのに、宛てにしていなかった今日に限ってこんなところで会うなんて。
しかも驚いたことに、ハイターはいま無防備で眠りこけているのだ。壁に寄りかかり、明かり取りの窓から降り注ぐ陽射しを受けながら寝息を立てている。その姿までも彫刻のように美しい。
陽を受けてきらめく銀髪、透けるほどのきめの細かい肌、閉じられた目許に並ぶ長い睫毛。その奥にはきっと湖よりも深い青い色の瞳が眠っているのだろう。
「すごく、綺麗だな……」
思わずため息が出るほどに美しい寝姿に見惚れながら、僕は傍らに膝をつき、そっと近づく。寝息も聞こえるほど近くに来ると、その美しさにはどこか見覚えがある気がしてきた。
いつかどこかで、こうして陽だまりで眠る彼――いや、彼に似た誰かの姿を、美しいと思いながら、同じくらい愛しいと思いながら見つめていた光景が浮かぶ。一つ違う点をあげるとすれば、その時の僕はリヒトではなく、別の誰かで、見つめる彼もまたこの姿ではなかった気がすることだ。。
(だけど、何故か知っている気がする……この長い睫毛の先に光が留まっているところとか、聞こえる寝息の、甘いにおいとか……)
微かに甘ささえ感じる吐息に、僕は心底とろけそうに、いつぞやの――それがいつどこなのかはわからない――彼を想っていた気がする。愛しいとか愛しているとか、そんな言葉では足りないほどに――そんな感情が、一気に胸を駆け巡り、苦しくなって僕は胸元を抑える。
ハイターが僕を好きかもしれない、と思って捜しまわっていたはずなのに……なんで、こんな切なく苦しくなるんだろうか。
呼吸さえ苦しくて大きく息を吐いた途端、それに反応するように眠っていたはずのハイターが目を開けた。
「ん……? わあ! なんだ!」
「ご、ごめん!」
そう、決意してから、僕は展望室だけでなく、優等生だと言う彼が生きそうな場所――例えば、図書館とか、化学の資料室とか――に足を運ぶようになった。
「んー……やっぱりいないかぁ……」
優等生であるなら、勉強を四六時中していて、そういう場所にいるだろう……なんて安直な考えだったらしい。
足を延ばしてハイターのクラスの寮のフロアの方まで覗いてみたけれど、馴染みのない生徒がうろちょろしているのはかなり目立つようで、かえって人探しがしにくい。しかも155センチくらいの小柄な僕よりもはるかに背が高い生徒に下級生に間違われ、「何か用か?」と、問われると、その迫力に用件が言えなくなってしまう。
そもそも、用件自体もそれと呼んでいいのかわからない内容だから、やはりハイターを捜すのは容易ではなかった。
「ハイターが僕のこと好きかも、なんて思っていたけれど……だからって僕、ハイターのこと特に何も知らないんだよね……」
妙な噂はありつつも、事実、学院一と言って良いほど優秀な生徒であることは知っているけれど、それ以上のことは何も知らない。寮の部屋番号も、食堂でよく食べるメニューも、良くつるんでいる友達さえ知らないのだから。
そんなのでよく自分が好かれているなんて思えたな……と、我ながら呆れてしまう。自惚れもいい所だろう。
それでも、やはりあの僕の頬に触れてきた指先の熱さや、向けられる青い眼差しの強さには、友愛以上の何かが含まれている気がしてならない。
友愛以上の何か……それを、単純に恋愛感情として考えていいのだろうか。
「……いや、やっぱり、ハイターは僕のことが好きだよ。だって、絶対に連れて帰るって言うんだから」
どこにか、はわからないけれど。そう、口の中で呟きながら、僕は今日もまた展望室へ向かう。ハイターを一通り学内で探し回った後は、いつも自然と足がここへ向かってしまう。ここにハイターがいるとは限らないのに――
「……え、いた」
毎日捜しまわっていたのに、宛てにしていなかった今日に限ってこんなところで会うなんて。
しかも驚いたことに、ハイターはいま無防備で眠りこけているのだ。壁に寄りかかり、明かり取りの窓から降り注ぐ陽射しを受けながら寝息を立てている。その姿までも彫刻のように美しい。
陽を受けてきらめく銀髪、透けるほどのきめの細かい肌、閉じられた目許に並ぶ長い睫毛。その奥にはきっと湖よりも深い青い色の瞳が眠っているのだろう。
「すごく、綺麗だな……」
思わずため息が出るほどに美しい寝姿に見惚れながら、僕は傍らに膝をつき、そっと近づく。寝息も聞こえるほど近くに来ると、その美しさにはどこか見覚えがある気がしてきた。
いつかどこかで、こうして陽だまりで眠る彼――いや、彼に似た誰かの姿を、美しいと思いながら、同じくらい愛しいと思いながら見つめていた光景が浮かぶ。一つ違う点をあげるとすれば、その時の僕はリヒトではなく、別の誰かで、見つめる彼もまたこの姿ではなかった気がすることだ。。
(だけど、何故か知っている気がする……この長い睫毛の先に光が留まっているところとか、聞こえる寝息の、甘いにおいとか……)
微かに甘ささえ感じる吐息に、僕は心底とろけそうに、いつぞやの――それがいつどこなのかはわからない――彼を想っていた気がする。愛しいとか愛しているとか、そんな言葉では足りないほどに――そんな感情が、一気に胸を駆け巡り、苦しくなって僕は胸元を抑える。
ハイターが僕を好きかもしれない、と思って捜しまわっていたはずなのに……なんで、こんな切なく苦しくなるんだろうか。
呼吸さえ苦しくて大きく息を吐いた途端、それに反応するように眠っていたはずのハイターが目を開けた。
「ん……? わあ! なんだ!」
「ご、ごめん!」
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