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「ねえ、リヒト。君、実はこの所ポーカーで負け知らずで、ボスたちをカモにしているって本当なの?」
ある晩、珍しくフィスから僕の部屋を訪ねてきて、部屋に入るなりそう問われた。
――ああ、ついにバレてしまったか。僕は明日の外国語の予習をするために広げていた教科書などをそのままに、ドアの前に佇むフィスの方を向き直る。見つめ合う目は複雑な感情の色に揺れている。悲しいのか腹立たしいのか、彼がいまなにを考えているのが汲み取れない色をしている。
「カモって言うか……まあ、負けてはいない、かな」
「じゃあ何で俺から銀貨をいつも借りていたの? 噂で聞いたけど、リヒト、かなり勝ってるって話じゃないか」
「……それは、まあ……」
なんて言い訳すればいいだろうか。素直に、この世界の在り方を確かめるために、キミの親切心を試したんだ――なんて言って、誰が信じるだろうか。フィスからしてみれば、ただ嘘をつかれて金を巻き上げられたにすぎないのに。
親友だとか何とか言いながら、僕は彼から少なくない額の金を巻き上げた。それは許されることではない。
「そんなにポーカーに勝ってたのに、それでも俺からお金を借りなきゃだったの? 何か別なことに使ってるとか?」
「えっと、それは……」
「親友の俺にも、言えない事?」
その言葉に、僕は思わず小さくうなずいてしまう。世界を確かめる、そのための嘘と借金。その本当の理由を、いくら長年の付き合いのある彼に話したところで、信じてもらえるとは思えない。
「もしかしてそれって、ハイターといかさましてるってことじゃないよね?」
「それは違う! ハイターは僕を助けてくれただけで、いかさまを唆したわけじゃない!」
「ふぅん……随分ハイターの肩を持つんだね、リヒト。ウラで先生を買収してるとかって言われてるのに」
「なんでフィスはそんなこと言うんだよ。いくら彼がシュテルン常連だからって……」
「常連だから、だよ。いままでいないって話だもの。ありえないんだよ」
決してフィスを疑っているわけではないけれど、僕の妄想から創られているなら、こんな悲しいことを言って欲しくない。
だからと言って、ハイターについて何も知らない僕に、これ以上何をどう言えばいいだろう。何を言っても全て嘘になってしまうかもしれないのに。
言葉が継げない僕の様子を、フィスはどう思っていたのだろうか。重苦しい沈黙が漂う。
その内に、くすりと笑う声がして、伏せていた目をあげると、困ったように苦笑するフィスがこちらを見ていた。
「そんなこの世の終わりみたいな顔しないでよ、リヒト」
「だって……フィス、いやなこと言うし……僕のこと、怒ってるんじゃないかって……」
「まあね、いやな事っていうか、俺だけが言ってる話じゃないからね、ハイターのことは」
「でも、僕のことを怒ってるのは本当なんでしょう?」
「親友に嘘つかれていたのは悲しかったよ」
「ごめん……」
だからもう絶交しよう、と切り出されるかと内心怯えていた僕に、フィスは信じがたいような言葉を口にし、よりやわらかく笑い、そっと肩を抱いてくる。
「いいんだよ、リヒト。俺たち親友だろ。困ったことがあったら助け合うもんだよ」
「フィス……ごめん、ありがとう」
「もういいよ、リヒト。その代わり、明日の朝、バタートーストご馳走してよ。それで許してあげる」
「もちろん、そんなのお安い御用だよ」
親友に嘘をついてまでわかったのは、彼が僕に都合よくやさしい親友でいてくれること、そして、ハイターのことを徹底的に嫌っているということだ。
大切な親友の好意を踏みにじるような事をして、僕はこの世界の在り方を確かめることができた。
この世界は――僕の妄想でできている可能性が高い……かもしれない、と。
ある晩、珍しくフィスから僕の部屋を訪ねてきて、部屋に入るなりそう問われた。
――ああ、ついにバレてしまったか。僕は明日の外国語の予習をするために広げていた教科書などをそのままに、ドアの前に佇むフィスの方を向き直る。見つめ合う目は複雑な感情の色に揺れている。悲しいのか腹立たしいのか、彼がいまなにを考えているのが汲み取れない色をしている。
「カモって言うか……まあ、負けてはいない、かな」
「じゃあ何で俺から銀貨をいつも借りていたの? 噂で聞いたけど、リヒト、かなり勝ってるって話じゃないか」
「……それは、まあ……」
なんて言い訳すればいいだろうか。素直に、この世界の在り方を確かめるために、キミの親切心を試したんだ――なんて言って、誰が信じるだろうか。フィスからしてみれば、ただ嘘をつかれて金を巻き上げられたにすぎないのに。
親友だとか何とか言いながら、僕は彼から少なくない額の金を巻き上げた。それは許されることではない。
「そんなにポーカーに勝ってたのに、それでも俺からお金を借りなきゃだったの? 何か別なことに使ってるとか?」
「えっと、それは……」
「親友の俺にも、言えない事?」
その言葉に、僕は思わず小さくうなずいてしまう。世界を確かめる、そのための嘘と借金。その本当の理由を、いくら長年の付き合いのある彼に話したところで、信じてもらえるとは思えない。
「もしかしてそれって、ハイターといかさましてるってことじゃないよね?」
「それは違う! ハイターは僕を助けてくれただけで、いかさまを唆したわけじゃない!」
「ふぅん……随分ハイターの肩を持つんだね、リヒト。ウラで先生を買収してるとかって言われてるのに」
「なんでフィスはそんなこと言うんだよ。いくら彼がシュテルン常連だからって……」
「常連だから、だよ。いままでいないって話だもの。ありえないんだよ」
決してフィスを疑っているわけではないけれど、僕の妄想から創られているなら、こんな悲しいことを言って欲しくない。
だからと言って、ハイターについて何も知らない僕に、これ以上何をどう言えばいいだろう。何を言っても全て嘘になってしまうかもしれないのに。
言葉が継げない僕の様子を、フィスはどう思っていたのだろうか。重苦しい沈黙が漂う。
その内に、くすりと笑う声がして、伏せていた目をあげると、困ったように苦笑するフィスがこちらを見ていた。
「そんなこの世の終わりみたいな顔しないでよ、リヒト」
「だって……フィス、いやなこと言うし……僕のこと、怒ってるんじゃないかって……」
「まあね、いやな事っていうか、俺だけが言ってる話じゃないからね、ハイターのことは」
「でも、僕のことを怒ってるのは本当なんでしょう?」
「親友に嘘つかれていたのは悲しかったよ」
「ごめん……」
だからもう絶交しよう、と切り出されるかと内心怯えていた僕に、フィスは信じがたいような言葉を口にし、よりやわらかく笑い、そっと肩を抱いてくる。
「いいんだよ、リヒト。俺たち親友だろ。困ったことがあったら助け合うもんだよ」
「フィス……ごめん、ありがとう」
「もういいよ、リヒト。その代わり、明日の朝、バタートーストご馳走してよ。それで許してあげる」
「もちろん、そんなのお安い御用だよ」
親友に嘘をついてまでわかったのは、彼が僕に都合よくやさしい親友でいてくれること、そして、ハイターのことを徹底的に嫌っているということだ。
大切な親友の好意を踏みにじるような事をして、僕はこの世界の在り方を確かめることができた。
この世界は――僕の妄想でできている可能性が高い……かもしれない、と。
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