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「なんか、変じゃないか? あまりに、僕に都合がいい奇跡が起きている……」
偶然だろう、とやり過ごすにはあまりに幸運な状況が招かれすぎていると思えてならない。
まるで僕の意のままで、想像通りになってしまう世界――妄想世界の中にいるような気分だった。
僕の妄想で成り立つ世界……脳裏に過ぎった言葉に、僕は背筋をぞくりとさせる。そんな、自分が神にでもなったようなことがありうるのだろうか、と。
もしそうなら、もっとすごいことが起こせるとでも言うんだろうか、この僕に。
「……まさかそんな、おとぎ話みたいなことが……」
苦笑しつつも、何事もないようにはできず、思わず自分の頬をつねってみても、ちゃんと痛みを感じるし、つねった所はほんのり赤く染まる。
どうやら、夢を見ているわけではないらしいことはわかったけれど、だからと言ってそれがいま立っているこの世界を妄想世界ではないと言う証明にはならない。何より、僕が人間であるかどうかの証明にもならない。
――じゃあ、なにをもって、この世界が現実か、そうでないかを知ればいいのだろう?
記憶の片隅に、生物学か地理学かの授業の話を思い出す。この世界の成り立ちの話だ。
大昔は、この世界は平らなお盆のようなものの上に載っていて、それを4頭のゾウが支えていて、その下にはさらに大きなカメが……なんて言っていたと言う話を聞いた。でも世界はどこまでも平らではなくて球体で、その外側には宇宙と言う果てしないものが広がっていると言う話だった。
もし、それが真実なら、僕がいまいる世界も同じはずだろう。見上げる展望室の窓の外に広がる空の向こうには、宇宙がある、と。
「でもだからって、僕がいまから世界の果てに行くようなことは出来ないし……行ったところで、僕が本当に現実に生きているかどうかなんてわからないよな」
それならば、なにをもってこの世界が妄想かどうかを確かめればいいのか。目に映るのは、消灯時間で明かりを消して暗い天井と、どこからか聞こえる見回りの教師の足音。そして代わり映えのない小さくて古臭い部屋の様子。
目を閉じ、朝が来て再び開いてもそこにはいつもと同じ景色が広がっているんだろうか?
わからない。でも、ここが本物の世界なのかどうか、確かめてみたい気持ちも強くある。
でももし、ここが妄想による世界だったとしたら、どうしたらいいんだろう? もうそうならば何もかもが思い通りなんだろうか? そんなことが可能だとしたら、僕はこの先どうやって生きていくといいのだろう。
ここでどう生きるか考える……その時、ふと、あの言葉が過ぎる。
「ヒカル! こんなところにいたのか! いい加減目を覚ませ!」
初めてハイターに会った時、はっきりと、僕のことをリヒトではない、知らない国の名前で呼ばれた。しかも、目を覚ませ、とも言うのだ。それ以外にも僕の態度がヒカルじゃない、みたいな言い草もしたし、逆に、ヒカルのままだな、みたいなことも言われた。まったく意味が解らないし、それが僕の知りたいことの鍵になるのかもわからない。
それでも不意にあの銀髪の彼の腕に抱かれた感触とぬくもりを思い出し、僕はじっとわが身を抱くように腕を絡める。あの感触が、妙に心地よく、懐かしく思えてしまったからだ。
「あれって、どういうことなんだろう。この世界がどういうものなのかということと関係あるのかな……」
疑問ばかりが浮かぶ脳内に思考を巡らせながら、僕は色々なことがあった一日を終えるために目を閉じた。
偶然だろう、とやり過ごすにはあまりに幸運な状況が招かれすぎていると思えてならない。
まるで僕の意のままで、想像通りになってしまう世界――妄想世界の中にいるような気分だった。
僕の妄想で成り立つ世界……脳裏に過ぎった言葉に、僕は背筋をぞくりとさせる。そんな、自分が神にでもなったようなことがありうるのだろうか、と。
もしそうなら、もっとすごいことが起こせるとでも言うんだろうか、この僕に。
「……まさかそんな、おとぎ話みたいなことが……」
苦笑しつつも、何事もないようにはできず、思わず自分の頬をつねってみても、ちゃんと痛みを感じるし、つねった所はほんのり赤く染まる。
どうやら、夢を見ているわけではないらしいことはわかったけれど、だからと言ってそれがいま立っているこの世界を妄想世界ではないと言う証明にはならない。何より、僕が人間であるかどうかの証明にもならない。
――じゃあ、なにをもって、この世界が現実か、そうでないかを知ればいいのだろう?
記憶の片隅に、生物学か地理学かの授業の話を思い出す。この世界の成り立ちの話だ。
大昔は、この世界は平らなお盆のようなものの上に載っていて、それを4頭のゾウが支えていて、その下にはさらに大きなカメが……なんて言っていたと言う話を聞いた。でも世界はどこまでも平らではなくて球体で、その外側には宇宙と言う果てしないものが広がっていると言う話だった。
もし、それが真実なら、僕がいまいる世界も同じはずだろう。見上げる展望室の窓の外に広がる空の向こうには、宇宙がある、と。
「でもだからって、僕がいまから世界の果てに行くようなことは出来ないし……行ったところで、僕が本当に現実に生きているかどうかなんてわからないよな」
それならば、なにをもってこの世界が妄想かどうかを確かめればいいのか。目に映るのは、消灯時間で明かりを消して暗い天井と、どこからか聞こえる見回りの教師の足音。そして代わり映えのない小さくて古臭い部屋の様子。
目を閉じ、朝が来て再び開いてもそこにはいつもと同じ景色が広がっているんだろうか?
わからない。でも、ここが本物の世界なのかどうか、確かめてみたい気持ちも強くある。
でももし、ここが妄想による世界だったとしたら、どうしたらいいんだろう? もうそうならば何もかもが思い通りなんだろうか? そんなことが可能だとしたら、僕はこの先どうやって生きていくといいのだろう。
ここでどう生きるか考える……その時、ふと、あの言葉が過ぎる。
「ヒカル! こんなところにいたのか! いい加減目を覚ませ!」
初めてハイターに会った時、はっきりと、僕のことをリヒトではない、知らない国の名前で呼ばれた。しかも、目を覚ませ、とも言うのだ。それ以外にも僕の態度がヒカルじゃない、みたいな言い草もしたし、逆に、ヒカルのままだな、みたいなことも言われた。まったく意味が解らないし、それが僕の知りたいことの鍵になるのかもわからない。
それでも不意にあの銀髪の彼の腕に抱かれた感触とぬくもりを思い出し、僕はじっとわが身を抱くように腕を絡める。あの感触が、妙に心地よく、懐かしく思えてしまったからだ。
「あれって、どういうことなんだろう。この世界がどういうものなのかということと関係あるのかな……」
疑問ばかりが浮かぶ脳内に思考を巡らせながら、僕は色々なことがあった一日を終えるために目を閉じた。
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