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*6 きらめく青春の力と想い
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二カ月近くの特別授業の日々を経て、ついにグランツ祭当日を迎えた。
僕のクラスが『花の環』を踊るように、ダンスの曲目に同じ曲を選ぶクラスが多い。かつてこの曲で断トツの点数をたたき出して優勝したクラスがあったらしく、以来8年生では多くのクラスで採用されるんだそうだ。
つまりそれは、比較対象が多い、ということでもある。ダンスの審査は学院長先生、副学院長、ダンス担当の教師、そして、来賓が二名ほどで行われる。一人当たり10点満点の合計50点が最高点とされている。
「競技時間は5分。それぞれのペアの足並みがそろっていることもだけど、表情も大事、か……」
10クラスあるうちの、僕のクラスは最後から4番目なので、他のクラスのダンスを客席で眺めながら対策を練ることができる。
とは言っても、僕一人があれこれ思いを巡らせたところであまり意味はない。パートナーであるハイターとの息を合わせることは勿論、これはクラス対抗なのだから、クラス全体の心も合わせていないといけないのだ。
だけど……と、僕がちらりと周囲を見渡してみても、今日のグランツ祭に際して意気込んでいるような生徒は見受けられない。教師の目があるからこそこそと小声ではあるけれど、そこに真剣みや気概も感じられないのだ。
「あー、すげーなあのターン。おれら無理じゃね?」
「言えてる。そもそもさ、1組と同じ曲選んだ段階で負け確定だよな」
(……無理もないのかな、毎回あらゆる協議イベントで首位を掻っ攫っていく1組が同じ花の環をやるって言うんだもの)
学院のクラス分けは学力や運動能力、そして品格なども合わせて優秀な順で組まれていると言う噂がある。だから、1組と言うのはすなわち最優秀生徒が量産されるようなクラスと言っても過言ではない。
ただ不思議なのは、ハイターはその1組の生徒ではなく、4組の生徒なのだ。優秀な生徒がいなくはないが、シュテルンが出るのは稀と言われている。その中で、彼は入学当初から最優秀生徒の座をキープしているとフィスから聞いた。
「4組なのにシュテルンなんて。きっとウラでなんかやってるに決まってるよ。ありえないもの」
ハイターの話をすると、必ずおしまいにフィスはそう言って締めくくる。それも、すごく不愉快そうな顔をして。
確かに、クラス編成の考えから言ったら、ハイターのシュテルン常連なのは珍しいのかもしれない。でもだからって、頭ごなしに汚い手を使っていると決めつけるのはどうなんだろう、とも思う。
そう、フィスに言ってみたんだけれど、フィスは大袈裟に眉をあげて驚き、そして僕が何もわかっていない子どもでもあるかのように言い返してきたんだ。
「リヒト、いくらダンスのパートナーになったからって、あんな奴の肩持つことないんだからね」
「そういうつもりじゃないよ、フィス。ただ僕は、ハイターはちゃんと自分で努力して……」
「その努力してる証拠、リヒトは見たことあるの? ないでしょ?」
「でも、努力は人知れずするものだし……きっと、僕らが知らないところで頑張ってるんだよ」
「ふーん……随分仲良くなったんだね、シュテルン様と」
フィスの思い掛けない刺々しい言葉に、僕は、「フィス、何怒ってるの?」と、眉根を寄せる。彼らしくない、なんだかイライラした言い方が引っ掛かったからだ。
するとフィスはあからさまにムスッと唇を尖らせちらりと僕をにらんで呟く。
「親友より、そんないかさまシュテルン様の方がリヒトは良いって言うからだよ」
「言ってないよ! ハイターがいかさまとも、ハイターの方が親友よりいいとも言ってない!」
つい、大声をあげてしまって、周りの生徒が僕らの方を振り向く。慌てて小さくなりながらフィスの方を見たのだけれど、やっぱり何だか機嫌が悪い。
フィスは、僕がハイターの話を――たとえ褒めるような内容でなくても――すると、ものすごく機嫌が悪くなる。なんだか、拗ねるような態度も取るし。
僕にとって、フィスは大事な幼馴染であり、親友だ。そんな誤解をされたくない。
だから僕は、「フィンスターニス」と、彼の名を呼ぶ。
「……なんだよ」
「君は僕の何?」
「……親友」
「じゃあ、僕を信じてよ。フィスが僕をいつも信じてくれているようにさ」
小声で顔を覗き込みながら僕が言うと、フィスはバツが悪そうな顔をしてうなずき、やがてむず痒そうな顔をして僕の方を振り向く。その表情はもう、拗ねてイヤな事ばかり言う彼ではなく、親友の彼だった。
「頑張って、今日優勝して、日頃の汚名を晴らそうぜ、リヒト」
「そうだね、頑張ろう」
そう言いながら僕らは拳骨の先と先を軽くぶつけ合い、ニヤッと笑って今日のダンスへの意気込みを新たにする。
ひとまずフィスとのわだかまりは解決したけれど、クラス全体が団結しているとは言い難い。社交ダンスは個別の評価も大事だけれど、クラス全体が一糸乱れぬ踊りを披露することも見ものと言われている。そしてそれが出来るほど、評価も高いのも事実だ。
僕のクラスが『花の環』を踊るように、ダンスの曲目に同じ曲を選ぶクラスが多い。かつてこの曲で断トツの点数をたたき出して優勝したクラスがあったらしく、以来8年生では多くのクラスで採用されるんだそうだ。
つまりそれは、比較対象が多い、ということでもある。ダンスの審査は学院長先生、副学院長、ダンス担当の教師、そして、来賓が二名ほどで行われる。一人当たり10点満点の合計50点が最高点とされている。
「競技時間は5分。それぞれのペアの足並みがそろっていることもだけど、表情も大事、か……」
10クラスあるうちの、僕のクラスは最後から4番目なので、他のクラスのダンスを客席で眺めながら対策を練ることができる。
とは言っても、僕一人があれこれ思いを巡らせたところであまり意味はない。パートナーであるハイターとの息を合わせることは勿論、これはクラス対抗なのだから、クラス全体の心も合わせていないといけないのだ。
だけど……と、僕がちらりと周囲を見渡してみても、今日のグランツ祭に際して意気込んでいるような生徒は見受けられない。教師の目があるからこそこそと小声ではあるけれど、そこに真剣みや気概も感じられないのだ。
「あー、すげーなあのターン。おれら無理じゃね?」
「言えてる。そもそもさ、1組と同じ曲選んだ段階で負け確定だよな」
(……無理もないのかな、毎回あらゆる協議イベントで首位を掻っ攫っていく1組が同じ花の環をやるって言うんだもの)
学院のクラス分けは学力や運動能力、そして品格なども合わせて優秀な順で組まれていると言う噂がある。だから、1組と言うのはすなわち最優秀生徒が量産されるようなクラスと言っても過言ではない。
ただ不思議なのは、ハイターはその1組の生徒ではなく、4組の生徒なのだ。優秀な生徒がいなくはないが、シュテルンが出るのは稀と言われている。その中で、彼は入学当初から最優秀生徒の座をキープしているとフィスから聞いた。
「4組なのにシュテルンなんて。きっとウラでなんかやってるに決まってるよ。ありえないもの」
ハイターの話をすると、必ずおしまいにフィスはそう言って締めくくる。それも、すごく不愉快そうな顔をして。
確かに、クラス編成の考えから言ったら、ハイターのシュテルン常連なのは珍しいのかもしれない。でもだからって、頭ごなしに汚い手を使っていると決めつけるのはどうなんだろう、とも思う。
そう、フィスに言ってみたんだけれど、フィスは大袈裟に眉をあげて驚き、そして僕が何もわかっていない子どもでもあるかのように言い返してきたんだ。
「リヒト、いくらダンスのパートナーになったからって、あんな奴の肩持つことないんだからね」
「そういうつもりじゃないよ、フィス。ただ僕は、ハイターはちゃんと自分で努力して……」
「その努力してる証拠、リヒトは見たことあるの? ないでしょ?」
「でも、努力は人知れずするものだし……きっと、僕らが知らないところで頑張ってるんだよ」
「ふーん……随分仲良くなったんだね、シュテルン様と」
フィスの思い掛けない刺々しい言葉に、僕は、「フィス、何怒ってるの?」と、眉根を寄せる。彼らしくない、なんだかイライラした言い方が引っ掛かったからだ。
するとフィスはあからさまにムスッと唇を尖らせちらりと僕をにらんで呟く。
「親友より、そんないかさまシュテルン様の方がリヒトは良いって言うからだよ」
「言ってないよ! ハイターがいかさまとも、ハイターの方が親友よりいいとも言ってない!」
つい、大声をあげてしまって、周りの生徒が僕らの方を振り向く。慌てて小さくなりながらフィスの方を見たのだけれど、やっぱり何だか機嫌が悪い。
フィスは、僕がハイターの話を――たとえ褒めるような内容でなくても――すると、ものすごく機嫌が悪くなる。なんだか、拗ねるような態度も取るし。
僕にとって、フィスは大事な幼馴染であり、親友だ。そんな誤解をされたくない。
だから僕は、「フィンスターニス」と、彼の名を呼ぶ。
「……なんだよ」
「君は僕の何?」
「……親友」
「じゃあ、僕を信じてよ。フィスが僕をいつも信じてくれているようにさ」
小声で顔を覗き込みながら僕が言うと、フィスはバツが悪そうな顔をしてうなずき、やがてむず痒そうな顔をして僕の方を振り向く。その表情はもう、拗ねてイヤな事ばかり言う彼ではなく、親友の彼だった。
「頑張って、今日優勝して、日頃の汚名を晴らそうぜ、リヒト」
「そうだね、頑張ろう」
そう言いながら僕らは拳骨の先と先を軽くぶつけ合い、ニヤッと笑って今日のダンスへの意気込みを新たにする。
ひとまずフィスとのわだかまりは解決したけれど、クラス全体が団結しているとは言い難い。社交ダンスは個別の評価も大事だけれど、クラス全体が一糸乱れぬ踊りを披露することも見ものと言われている。そしてそれが出来るほど、評価も高いのも事実だ。
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