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*4 彼のお陰で得た白星とコイン
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「さーて、今日は一体いくら貢いでくれるんだろうな、リヒト」
ボスと呼ばれる大柄な生徒は、ニヤニヤとそう言いながらブレザーの胸ポケットから擦り切れたトランプの箱を取り出す。どうやら、これからトランプで賭け事でもすると言うのだろうか。
ボスの口ぶりからして、僕は常に負け越しているらしく、彼らにとっていいカモなんだろう。そしてまた僕もそれに懲りずに挑み続ける馬鹿だったのだろう。
僕らがやって来たのは例の展望室で、そこに車座に座ってカードを配る。
「何をするの?」
「何って、決まってるだろ。ポーカーだ」
ポーカー……って、どうやるんだったっけ? 特定のカードを揃える、という程度にしか憶えがないのだけれど……果たしてこれで太刀打ちできるのだろうか。
(どうしよう、ほとんどルールがわからない……誰か、フィス……この際あのハイターってやつでもいいから来てくれないかな……)
負けてしまったら何かきっと良くないことが起こるのは容易に想像できるので、藁をもすがるように胸中で祈ってしまう。そんなおとぎ話のように都合のいい展開なんてあるわけがないのに。
カードが配られ、いよいよゲームが始まろうとしたその時、「お前たち、ここで何をしている」と、思いがけない人物の声がし、僕らは振り返る。
視線が集まった先に立っていたのは、美しい銀髪に青い眼の長身のハイターが腕組みをして立っている姿だった。
「うるせぇな。“紳士の社交場”だ、野暮なことは言うなよな、シュテルン様よ。お前だってこの場にいれば同罪だろ」
ハイターの言葉に怯むことなくボスがそう言い返しても、ハイターも表情一つ変えることなく、「まあ、そうなるな」とうなずくのだ。
優等生で通っていると言うハイターがここで授業をサボるのか? と、一同が騒めいても、彼はやはり意に介する様子はなく奥に進み、何と僕のすぐ傍に腰を下ろしたのだ。僕の手持ちのカードが見えるか見えないかの距離に座られて、僕はなんだか居心地が悪い。
配られたカードを手に眺めていても、さっぱり役がわからない。どうしたものかと途方に暮れていると、「その右から二番目を交換」と、僕にだけ聞こえる声がした。
誰だろう? と辺りを見渡そうとする、「早く」と、せっつかれ、僕は慌ててカードを交換する。
続いてはそのままで、そのまた次は交換……ということ小声で支持されていく内に、声はすぐ傍のハイターの方から聞こえていることに気づいた。指示通りにカードを交換したり棄てたりしていくと、段々とあるマークが揃い始める。
そこまで来て、ようやくハイターがルールがわからない僕に勝たせようとしていることに気づいたのだけれど、だからと言って理由を問えるような状況になく、ゲームは進んでいった。
「スリーカード」
「えーっと……これ」
ボスの合図に僕らは揃って手持ちのカードを差し出す。その瞬間、傍らで見ていた取巻き達がどよめきの声をあげる。
ハイターの指示に従って揃えたものを差し出した僕を、ボスたちが目を見開いて見つめてくる。ちなみに僕が揃えたのはスペードのものを5枚。
「な……ロイヤルフラッシュだと……」
「いつもならツーペアもできないくせに……」
「ええい、まぐれだろ! もう一度だ!」
どうやら僕が勝ったようなのだけれど、いつもカモになる相手に負かされたことが悔しかったらしく、ボスは傍らにいる生徒にカードを配らせ始める。
次こそ有り金むしり取ってやる、と、ボスは苛立たし気に言い、僕、そしてハイターをにらみ付けてくる。
「おい、お前ハイターを使っていかさましてんじゃねえだろうな?」
「できるわけないだろう。そんなことをしたら俺まで賭け事に加担することになる。そんな愚かな真似はしないよ」
「……じゃあ、あれか? お前、リヒトとグルなのか?」
勝ち続ける僕に疑いを持ったボスは、ハイターを追求したけれど、冷静な返答に顔をしかめ、八つ当たりのようにカードを配った取巻きの生徒にいちゃもんをつける。いちゃもんを付けられた生徒は大きく首を横に振って否定したものの、ボスには信じてもらえず他の生徒に代わった。それでも、僕が勝ち続ける結果は変わらなかった。何故なら、やはりハイターが手助けしてくれたからだ。
「そろそろいままでの負けを取り戻せたんじゃないのか?」
「え?」
ハイターの呟きに思わず振り返って訪ねようとしたら、ハイターは人さし指を口許に中てて、「シィッ」と、口を封じた。
彼の口ぶりからするに、いままで、どれだけ僕はこいつらに有り金を巻き上げられてきたのか。そういうのもあって、フィスも僕のことを気に掛けていたのだろう。持つべきは幼馴染のお節介とやらなんだろうか。
でもそれ以上のお節介を、親友でもない筈のハイターがかけてくれるのはどうしてだろう?
そう考えている間にも何度かカードを切り、そうしてまた互いに差し出す。それを少なくともそれから10回は繰り返したと思う。実際はもっとあったかもしれない。その間もずっと、ハイターは僕だけに聞こえる声でヒントをくれ続けた。
カードを配る生徒はあれ以降3人ほど変わったけれど、やはり結果は同じだった。
1ゲームにつき銀貨一枚を賭けるのが暗黙のルールらしいのだけれど、ゲームを終えるごとにそれは僕の手許に増えていった。そして目に見えて、ボスの負けが嵩み、不機嫌に黙り込んでいく。
そんなボスの様子を見かねたように、ハイターがこう忠告した。
ボスと呼ばれる大柄な生徒は、ニヤニヤとそう言いながらブレザーの胸ポケットから擦り切れたトランプの箱を取り出す。どうやら、これからトランプで賭け事でもすると言うのだろうか。
ボスの口ぶりからして、僕は常に負け越しているらしく、彼らにとっていいカモなんだろう。そしてまた僕もそれに懲りずに挑み続ける馬鹿だったのだろう。
僕らがやって来たのは例の展望室で、そこに車座に座ってカードを配る。
「何をするの?」
「何って、決まってるだろ。ポーカーだ」
ポーカー……って、どうやるんだったっけ? 特定のカードを揃える、という程度にしか憶えがないのだけれど……果たしてこれで太刀打ちできるのだろうか。
(どうしよう、ほとんどルールがわからない……誰か、フィス……この際あのハイターってやつでもいいから来てくれないかな……)
負けてしまったら何かきっと良くないことが起こるのは容易に想像できるので、藁をもすがるように胸中で祈ってしまう。そんなおとぎ話のように都合のいい展開なんてあるわけがないのに。
カードが配られ、いよいよゲームが始まろうとしたその時、「お前たち、ここで何をしている」と、思いがけない人物の声がし、僕らは振り返る。
視線が集まった先に立っていたのは、美しい銀髪に青い眼の長身のハイターが腕組みをして立っている姿だった。
「うるせぇな。“紳士の社交場”だ、野暮なことは言うなよな、シュテルン様よ。お前だってこの場にいれば同罪だろ」
ハイターの言葉に怯むことなくボスがそう言い返しても、ハイターも表情一つ変えることなく、「まあ、そうなるな」とうなずくのだ。
優等生で通っていると言うハイターがここで授業をサボるのか? と、一同が騒めいても、彼はやはり意に介する様子はなく奥に進み、何と僕のすぐ傍に腰を下ろしたのだ。僕の手持ちのカードが見えるか見えないかの距離に座られて、僕はなんだか居心地が悪い。
配られたカードを手に眺めていても、さっぱり役がわからない。どうしたものかと途方に暮れていると、「その右から二番目を交換」と、僕にだけ聞こえる声がした。
誰だろう? と辺りを見渡そうとする、「早く」と、せっつかれ、僕は慌ててカードを交換する。
続いてはそのままで、そのまた次は交換……ということ小声で支持されていく内に、声はすぐ傍のハイターの方から聞こえていることに気づいた。指示通りにカードを交換したり棄てたりしていくと、段々とあるマークが揃い始める。
そこまで来て、ようやくハイターがルールがわからない僕に勝たせようとしていることに気づいたのだけれど、だからと言って理由を問えるような状況になく、ゲームは進んでいった。
「スリーカード」
「えーっと……これ」
ボスの合図に僕らは揃って手持ちのカードを差し出す。その瞬間、傍らで見ていた取巻き達がどよめきの声をあげる。
ハイターの指示に従って揃えたものを差し出した僕を、ボスたちが目を見開いて見つめてくる。ちなみに僕が揃えたのはスペードのものを5枚。
「な……ロイヤルフラッシュだと……」
「いつもならツーペアもできないくせに……」
「ええい、まぐれだろ! もう一度だ!」
どうやら僕が勝ったようなのだけれど、いつもカモになる相手に負かされたことが悔しかったらしく、ボスは傍らにいる生徒にカードを配らせ始める。
次こそ有り金むしり取ってやる、と、ボスは苛立たし気に言い、僕、そしてハイターをにらみ付けてくる。
「おい、お前ハイターを使っていかさましてんじゃねえだろうな?」
「できるわけないだろう。そんなことをしたら俺まで賭け事に加担することになる。そんな愚かな真似はしないよ」
「……じゃあ、あれか? お前、リヒトとグルなのか?」
勝ち続ける僕に疑いを持ったボスは、ハイターを追求したけれど、冷静な返答に顔をしかめ、八つ当たりのようにカードを配った取巻きの生徒にいちゃもんをつける。いちゃもんを付けられた生徒は大きく首を横に振って否定したものの、ボスには信じてもらえず他の生徒に代わった。それでも、僕が勝ち続ける結果は変わらなかった。何故なら、やはりハイターが手助けしてくれたからだ。
「そろそろいままでの負けを取り戻せたんじゃないのか?」
「え?」
ハイターの呟きに思わず振り返って訪ねようとしたら、ハイターは人さし指を口許に中てて、「シィッ」と、口を封じた。
彼の口ぶりからするに、いままで、どれだけ僕はこいつらに有り金を巻き上げられてきたのか。そういうのもあって、フィスも僕のことを気に掛けていたのだろう。持つべきは幼馴染のお節介とやらなんだろうか。
でもそれ以上のお節介を、親友でもない筈のハイターがかけてくれるのはどうしてだろう?
そう考えている間にも何度かカードを切り、そうしてまた互いに差し出す。それを少なくともそれから10回は繰り返したと思う。実際はもっとあったかもしれない。その間もずっと、ハイターは僕だけに聞こえる声でヒントをくれ続けた。
カードを配る生徒はあれ以降3人ほど変わったけれど、やはり結果は同じだった。
1ゲームにつき銀貨一枚を賭けるのが暗黙のルールらしいのだけれど、ゲームを終えるごとにそれは僕の手許に増えていった。そして目に見えて、ボスの負けが嵩み、不機嫌に黙り込んでいく。
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