【完結】転生先で出会ったのは前世の恋人――ではありませんでした

伊藤あまね

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「リヒトは、いっつも先生たちにいたずらしてたじゃんか。そのせいで、ぼくらがどれだけ怒られたと思う?」
「え? 僕が、したことで?」
「それだけじゃねーよ。お前が授業中の態度が悪いせいで、おれらのクラスは連帯責任で、みんなマイナス10点されてるんだぞ? そのせいで、落第すれすれだったりするんだからな」
「それは……」

 それは、僕の記憶にないことだ、と言いたかったけれど、彼らにとって僕はリヒトであり、記憶がどうのと言われても知った事ではないと言うのだろう。でも、僕にそんなことをした憶えはないのだ。
 そんなこと知らない、と言い返そうにも、彼らの視線があまりに怒気を含んだ冷たいもので、その口を塞がれてしまう。
 言いよどむ僕に、彼らは更に言葉を重ねる。

「だいたいさ、自分が赤点でピンチだから助けてくれってさ、虫が好すぎるんだよ。いつもはおれらに迷惑かけまくってるくせに」
「で、でも! 僕らは同じクラスで、友達で……」

 それでも必死に弁明しようとした僕に、彼らは顔を見合わせて鼻先で嗤い、それまで座っていたソファなどから立ち上がった。
 そして僕に背を向けるように肩を組み、突き放すような冷たい言葉を投げつけて去って行った。

「友達? それってリヒトにとって都合のいい存在のこと?」
「悪いけど、おれらそういうお前の言うこと聞くための“友達”じゃねーから」
「じゃあね、リヒト」

 背を向けられ、呆然としている僕を嘲笑うように、彼らは文字通り徒党を組んで談話スペースを去っていく。くすくすと囁くような笑い声が、すごく神経に障って苛立ちが増していく。
 こんなことってあるだろうか。僕が一体何をしたって言うんだろうか。僕が彼らに何かひどいことをした覚えなんてないのに。

「なんだよ、クラスメイトは友達で、助け合うものじゃないのかよ……」

 苛立ち紛れにそう呟いてみても、僕の窮地を救ってくれるような助けがない事実に変わりはない。このままでは僕は、落第することになってしまいかねない。
 ならば、と思い、僕は急ぎ足で下の階へ向かい、隣の棟の学年担当の教師たちの許へ向かうことにした。生徒に頼れないなら、直接教師に訊けばいいのだ。
 早速僕は数学のバルツァーという教師の部屋を訪ねることにし、ドアをノックする。

「誰だね?」
「先生、僕です。リヒトです。試験範囲のことでお聞きしたいことが……」

 暑い重厚な気の扉の前で僕が声を張り上げながら名乗っていると、微かに、扉の向こうで嗤う声がした気がした。
 え? いま、嗤われた? と、気になって僕が口をつぐむと、その答えがすぐに示されたのだ。

「君が試験勉強? いまさら? っははは……この期に及んで命乞いをする敵役みたいだな」
「せ、先生?」
「君が私にしてきたことを省みても、まだそんな図々しいことを言えると思っているのかね?」
「えっと、それは……先生、それは……」

 まただ。また、僕の知らないことで相手から僕を恨まれるか嫌われるかしている。僕は全くあずかり知らない事なのに……一体、僕は彼らに何をしたと言うんだ?
 あまりに理不尽と思える態度に、はらわたが煮えるような怒りを覚える。でも、彼らからしてみれば、とんだ逆ギレなんだろうか。

「先生! それは誤解です! 僕は、そんなつもりでは……」
「じゃあ訊くが、どういうつもりで、君は私の教卓にヒキガエルを週に一回のペースで忍ばせるんだね? 皆が喜ぶからか? 連帯責任で減点されるしかないのに?」
「そ、それは、僕ではなくて……」
「君が授業前に嬉々としてヒキガエルを捕まえてきて忍ばせている姿を、クラスの何人も目撃している。それでもしらばっくれるのかね?」
「…………」
「それとも、落第がかかっているから、都合よく尻尾を振って取り入ろうという魂胆なのかな?」
「そういうわけでは……」
「じゃあ、他にどういう理由が? 普段の君の振る舞いから推測されるのはその一点のみだ」

 普段の僕、と言ういまの僕には推測すらできないことを盾にされ、それ以上何も言い募れなかった。「これ以上は時間の無駄だ。自室に戻りなさい」と、とどめのように言われ、すごすごと先生の部屋の前を後にするしかなかった。


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