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アキとユズ*最終章
はなまるをあげよう*14
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「――――俺、新人賞貰ってから、本当にどんなに書いても書いても誰にも認めてもらえなくってね。認めてもらってたのかもしれないけど…なんだか全然信じられなくってね。何書いても全然だめで、さっぱりで、ああ、こんなはずじゃなかったのになぁって毎日思ってたんだ。そんな時にね、アキくんが、俺の書いたのがすごく好きだって言ってくれて、あれが良かったよーとか、ここが好きだったーとか、感想も言ってくれたりして…そういうのがすごく、すごくすごく嬉しくて…なんか、枯れ掛けてたとこにすごくおいしい水をじゃんじゃんかけてもらえたみたいに嬉しくて…ああ、まだもう少し物書きやってけそうだなぁって思ってたんだ…」
ちいさくちいさく吐き出され、丁寧に丁寧に並べられていく言葉は、どれも涙の色をした宝石のように煌めいていた。部屋の灯かりを受けて、整然と並ぶそれらを、俺はじっと見つめていた。
差し出された言葉はどれも綺麗で、純真で、俺はとても大切な儀式を間近で見ているような厳かな気分でユズの声に耳を傾けていた。
言葉が途切れて、少しまた、ユズの目許が潤んだ。目許が揺れて、はたりと大粒の涙がいくつか零れ落ちていった。
唇だけが動いて、空の言葉だけが宙をいくつか漂った。息を、また深く吸う。苦しそうに、悔しそうにすら見える表情で、ユズは途切れた言葉の続きを紡ぎ始めた。
「―――…でも、そういうのだけじゃ、ダメみたいで、さ……商業ベース、って言えばいいのかな…そういうのだとさ、なんか、俺、あんまウケないみたいで……ホント、この先食べてけるのかなって、不安になっちゃって……。そしたらさ、なんか、馬越くんが、こういう仕事あるんだけど、どう?みたいに声かけてくれて……俺、アキくんに支えられてることなんかすっかり忘れて…目先の事しか考えてなくって……ごめんね、アキくんの期待とかなんか色々裏切ちゃってる気がして…言えなかったんだ……」
そう、彼は消えそうな声で呟き、また俯いて顔を覆ったまま声もなく泣いた。肩を震わせて、自らに課した罰の重圧に耐えているようだった。
痛々しい、あまりに憐れな姿に、俺の頬にも涙が伝っていた。息を吸うと、ひどく熱くて苦しいほどだった。
彼は、何一つ俺を裏切ってなんかいなかった。それどころか、新しい本が出た時にくれた言葉とも、出会ったころとも変わらない心で俺を必要としてくれていた。真実を話すに値しないなんとことよりもはるかに超えた感情で俺を想っていてくれた。
それを浮気だとかなんだとか……俺は、なんて自分が愚かなんだろうと恥ずかしくて仕方がなかった。本当に、ユズになんて詫びていいのかわからなかった。深い深い絶望のような悲しみが、触れているユズの背から滲み出て俺を浸食し始めていた。
ユズから流れてくる悲しみは、昼間俺が馬越くんの話を聴いて受けた悲しい重たい衝撃にも似ていて、だけど、それとは少しだけ悲しみの種類が違っていた。
たぶん、根っこにある成分が違っているからかもしれない。俺のは悔しさからくる悲しみで、ユズのは罪悪感からくる悲しみ、と言う違いだ。どちらも悲しくて重たいのだけれど、全体を包む色が違っていた。
俺のはひどく沈んだ黒色で、ユズのは深い深い青色をしているように感じられた。そしてどちらも、とても冷たかった。やわらかな、だけど、ぬくもりのきっかけを見つけられない冷たさだった。
ユズが、俺を裏切ってしまったという思いで深く深く悲しんで傷ついているのが、痛いぐらいに伝わってくる冷たさに、俺はその背中を撫でることもできずに、ただ手を宛がって共に蹲るようにじっとしているばかりだった。
ちいさくちいさく吐き出され、丁寧に丁寧に並べられていく言葉は、どれも涙の色をした宝石のように煌めいていた。部屋の灯かりを受けて、整然と並ぶそれらを、俺はじっと見つめていた。
差し出された言葉はどれも綺麗で、純真で、俺はとても大切な儀式を間近で見ているような厳かな気分でユズの声に耳を傾けていた。
言葉が途切れて、少しまた、ユズの目許が潤んだ。目許が揺れて、はたりと大粒の涙がいくつか零れ落ちていった。
唇だけが動いて、空の言葉だけが宙をいくつか漂った。息を、また深く吸う。苦しそうに、悔しそうにすら見える表情で、ユズは途切れた言葉の続きを紡ぎ始めた。
「―――…でも、そういうのだけじゃ、ダメみたいで、さ……商業ベース、って言えばいいのかな…そういうのだとさ、なんか、俺、あんまウケないみたいで……ホント、この先食べてけるのかなって、不安になっちゃって……。そしたらさ、なんか、馬越くんが、こういう仕事あるんだけど、どう?みたいに声かけてくれて……俺、アキくんに支えられてることなんかすっかり忘れて…目先の事しか考えてなくって……ごめんね、アキくんの期待とかなんか色々裏切ちゃってる気がして…言えなかったんだ……」
そう、彼は消えそうな声で呟き、また俯いて顔を覆ったまま声もなく泣いた。肩を震わせて、自らに課した罰の重圧に耐えているようだった。
痛々しい、あまりに憐れな姿に、俺の頬にも涙が伝っていた。息を吸うと、ひどく熱くて苦しいほどだった。
彼は、何一つ俺を裏切ってなんかいなかった。それどころか、新しい本が出た時にくれた言葉とも、出会ったころとも変わらない心で俺を必要としてくれていた。真実を話すに値しないなんとことよりもはるかに超えた感情で俺を想っていてくれた。
それを浮気だとかなんだとか……俺は、なんて自分が愚かなんだろうと恥ずかしくて仕方がなかった。本当に、ユズになんて詫びていいのかわからなかった。深い深い絶望のような悲しみが、触れているユズの背から滲み出て俺を浸食し始めていた。
ユズから流れてくる悲しみは、昼間俺が馬越くんの話を聴いて受けた悲しい重たい衝撃にも似ていて、だけど、それとは少しだけ悲しみの種類が違っていた。
たぶん、根っこにある成分が違っているからかもしれない。俺のは悔しさからくる悲しみで、ユズのは罪悪感からくる悲しみ、と言う違いだ。どちらも悲しくて重たいのだけれど、全体を包む色が違っていた。
俺のはひどく沈んだ黒色で、ユズのは深い深い青色をしているように感じられた。そしてどちらも、とても冷たかった。やわらかな、だけど、ぬくもりのきっかけを見つけられない冷たさだった。
ユズが、俺を裏切ってしまったという思いで深く深く悲しんで傷ついているのが、痛いぐらいに伝わってくる冷たさに、俺はその背中を撫でることもできずに、ただ手を宛がって共に蹲るようにじっとしているばかりだった。
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