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アキとユズ*最終章
はなまるをあげよう*11
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「見かけただけだったらさ、見間違いとか気のせいかなとか思えたかもしれない。でもさ、さっき、家の前で馬越くんに遇っちゃってさ、バッタリ。んで、訊いてみたら、教えられないって言うじゃん?それでなくても、何か知らない誰かもいたから気になって仕方なかったし…ああ、これユズに訊いてみなきゃな、って。」
ユズに問いただす口調が自分でもきつくなっているのがわかる。緊張で上ずりそうだった声はいつの間にか苛立つ感情につられてぐらぐらと揺らいでいた。
視線を逸らすのは隠し事がある証拠。嘘をついている証拠。彼は俺を欺き通そうとしている。
――――ちいさな苛立ちは、そのまま感情のちいさな火種となってゆっくりと、しかし着実に俺から冷静さを奪っていった。
「仕事してたんだって、いつも通り頑張って原稿やってんだって思ってたのに…何してんの?」
「……仕事を、してた…」
「じゃあなんで馬越くんが絡んでんの?口止めまでして…そんなに俺に知られちゃまずい事でもしてんの?」
「…………」
「……黙ってるってことは…その通りってわけなんだ?馬越くん巻き込んで、俺の知らない誰かと、俺に知られちゃまずい“お仕事”してたんだ?」
「そういうワケ、じゃ…」
「じゃあなんでわざわざ口止めしとく必要があんだよ。近場で、共通の知り合い巻き込んで、俺に気付かれないとでも思ってたんだ?恋人に隠し事されても暢気に連絡待ってるおめでたい奴だって俺のこと思ってたんだ?」
「アキくん、そうじゃない…!聴いて!」
問い詰める俺に耐えかねたように、ようやくユズが顔をこちらに向けた。俺の言葉を遮るように叫んだユズの眼はとても怯えていた。猛獣の前に突き出された小動物のような眼が、俺を見据えていた。
震えて怯えていながらも、俺に向けられた眼差しには凛としたものが宿っていた。それが、彼を疑ってかかっている俺の憎悪――隠し事をされた、ただそれだけの事でこんな感情を抱いている自分の器のちいささに欠片も気づかずに――にも似た感情を怯ませた。
彼を疑うことが間違いであるかのような感覚に戸惑いすら抱いた。いつの間にか俺は、自分がユズから傷つけられた被害者の面をして彼と対峙していた。まだ何も本当の事は何一つ明らかになっていないのに。
「聴いてやるよ!いくらでも!ユズが本当のことを言う気があればの話だけどさ!」
怯んだ自分を奮い立たせるように口を吐いて出た言葉は、事の真相を追及するのに最も効果的でありながら、最もユズを傷つけてしまうものだった。向けられた眼差しをも振り払うような、無碍な言葉の刃を、俺は彼に付き返していた。
ユズは、俺の言葉にちいさく目を見開いて、俺からの遠慮のない言葉の衝撃に明らかに傷ついていた。そして一瞬、微かに表情を苦く崩した。
元々はユズが馬越くんに口止めしてまで何かを隠していることから来ている。けれど、それについて俺がユズを怯えさせるほどに怒鳴りつけてまで知ろうとする権利なんてあるのだろうか。しかも、ひどく厭味ったらしくあてつけるような言葉を吐いて。
自分の底意地の悪さを垣間見た気がして、身体の中がひどく冷たくなっていくのを止められなかった。
ユズに問いただす口調が自分でもきつくなっているのがわかる。緊張で上ずりそうだった声はいつの間にか苛立つ感情につられてぐらぐらと揺らいでいた。
視線を逸らすのは隠し事がある証拠。嘘をついている証拠。彼は俺を欺き通そうとしている。
――――ちいさな苛立ちは、そのまま感情のちいさな火種となってゆっくりと、しかし着実に俺から冷静さを奪っていった。
「仕事してたんだって、いつも通り頑張って原稿やってんだって思ってたのに…何してんの?」
「……仕事を、してた…」
「じゃあなんで馬越くんが絡んでんの?口止めまでして…そんなに俺に知られちゃまずい事でもしてんの?」
「…………」
「……黙ってるってことは…その通りってわけなんだ?馬越くん巻き込んで、俺の知らない誰かと、俺に知られちゃまずい“お仕事”してたんだ?」
「そういうワケ、じゃ…」
「じゃあなんでわざわざ口止めしとく必要があんだよ。近場で、共通の知り合い巻き込んで、俺に気付かれないとでも思ってたんだ?恋人に隠し事されても暢気に連絡待ってるおめでたい奴だって俺のこと思ってたんだ?」
「アキくん、そうじゃない…!聴いて!」
問い詰める俺に耐えかねたように、ようやくユズが顔をこちらに向けた。俺の言葉を遮るように叫んだユズの眼はとても怯えていた。猛獣の前に突き出された小動物のような眼が、俺を見据えていた。
震えて怯えていながらも、俺に向けられた眼差しには凛としたものが宿っていた。それが、彼を疑ってかかっている俺の憎悪――隠し事をされた、ただそれだけの事でこんな感情を抱いている自分の器のちいささに欠片も気づかずに――にも似た感情を怯ませた。
彼を疑うことが間違いであるかのような感覚に戸惑いすら抱いた。いつの間にか俺は、自分がユズから傷つけられた被害者の面をして彼と対峙していた。まだ何も本当の事は何一つ明らかになっていないのに。
「聴いてやるよ!いくらでも!ユズが本当のことを言う気があればの話だけどさ!」
怯んだ自分を奮い立たせるように口を吐いて出た言葉は、事の真相を追及するのに最も効果的でありながら、最もユズを傷つけてしまうものだった。向けられた眼差しをも振り払うような、無碍な言葉の刃を、俺は彼に付き返していた。
ユズは、俺の言葉にちいさく目を見開いて、俺からの遠慮のない言葉の衝撃に明らかに傷ついていた。そして一瞬、微かに表情を苦く崩した。
元々はユズが馬越くんに口止めしてまで何かを隠していることから来ている。けれど、それについて俺がユズを怯えさせるほどに怒鳴りつけてまで知ろうとする権利なんてあるのだろうか。しかも、ひどく厭味ったらしくあてつけるような言葉を吐いて。
自分の底意地の悪さを垣間見た気がして、身体の中がひどく冷たくなっていくのを止められなかった。
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