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アキとユズ*第五章
uneasy night*5
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「アキくーん、お風呂どうす…」
片付けを終えてアキくんの許へ行くと、ベッドの上で壁に寄り掛かったまま、彼は転寝をしていた。痛み止めの所為かも知れないし、単純に仕事と、突然の怪我に遭った疲れが入り混じったせいかもしれない。
無防備に口半開きにして、陽に焼けた肌と髪をそのままに眠る姿は、病院で見た時とは違う雰囲気のちいさな子どもを彷彿とさせた。愛しくて可愛い、胸を突くような。
点けっぱなしのテレビをそのままに、そっと俺は彼の隣によじ登って座った。晒された項の辺りに鼻先をやると、ふわりと彼の肌の匂いがした。
匂いを辿るようにほんの少しだけ、舌先をそこに這わせてみる。じわっと濡れて消える俺の唾液の痕をまた舌でなぞる。ちいさな動物が傷を癒すように、俺は暫くそうしていた。そうしたところで、アキくんの腕がすぐに治るわけでもないのに。
何度もそんな事をしていたら、くすくすと忍び笑いをする声がした。俺以外にそんな声をたてられるのは限られているから、たちまちに俺は顔を起こして離れた。
案の定、こっそり眼を醒ましていたアキくんが俺の方を見て物言いたげに笑っていた。
「…いつから、起きてたんだよ…」
「んー…2回目ぐらい?舐めてるの。」
「……止めてよ、恥ずかしいじゃん…」
「いいじゃん、気持ちかったんだもん。…ねぇ、ユズ…」
「…ん?」
「もっと、して欲しいって言ったら?」
悪戯っぽく笑う眼が、思い掛けない誘いに戸惑いを隠せない俺を見つめる。もっと、なんて言われて、そのまま応じていいものかわからなかったから。
俺の戸惑いなんて想定内だったのか、アキくんは特に気にすることなく、だけどとてもやさしく俺の頬や耳の辺りを右手で撫でたかと思うと、そのままグイッと俺の顎を持ちあげるようにして引き寄せ、そして少しだけ強引にキスをしてきた。
さっきまで彼の肌を味わっていた舌を絡み取って吸い、じわりとふたりの唾液が混じり合っていく。戸惑いを拭いきれないままにじわじわと甘い痺れに絆されていく理性の所為か、いつもよりずっと鼓動が速い気がした。
口付てる時間が随分と長く感じていたせいか、それとも少しのアルコールで俺が酔っていたりしたのか、息継ぎするように顔を離した時には随分と呼吸が荒くなっていた。
夕食の時とは全く違う意味で濡れた眼をした俺が、数センチ先のアキくんの瞳の中で彼を見つめていた。
彼が望む物を、望むだけ、あげたい――――単純な想いが一層俺の視界を潤ませていく。
「――――もっと、あげるね、アキくん…」
再びふたりの距離がゼロになって、ちいさく濡れた音が聞こえた。いつもと同じ、ふたりの夜のはじまり。違うのは、夜を迎える場所と、彼の片腕の自由が利かないことぐらいで。
片付けを終えてアキくんの許へ行くと、ベッドの上で壁に寄り掛かったまま、彼は転寝をしていた。痛み止めの所為かも知れないし、単純に仕事と、突然の怪我に遭った疲れが入り混じったせいかもしれない。
無防備に口半開きにして、陽に焼けた肌と髪をそのままに眠る姿は、病院で見た時とは違う雰囲気のちいさな子どもを彷彿とさせた。愛しくて可愛い、胸を突くような。
点けっぱなしのテレビをそのままに、そっと俺は彼の隣によじ登って座った。晒された項の辺りに鼻先をやると、ふわりと彼の肌の匂いがした。
匂いを辿るようにほんの少しだけ、舌先をそこに這わせてみる。じわっと濡れて消える俺の唾液の痕をまた舌でなぞる。ちいさな動物が傷を癒すように、俺は暫くそうしていた。そうしたところで、アキくんの腕がすぐに治るわけでもないのに。
何度もそんな事をしていたら、くすくすと忍び笑いをする声がした。俺以外にそんな声をたてられるのは限られているから、たちまちに俺は顔を起こして離れた。
案の定、こっそり眼を醒ましていたアキくんが俺の方を見て物言いたげに笑っていた。
「…いつから、起きてたんだよ…」
「んー…2回目ぐらい?舐めてるの。」
「……止めてよ、恥ずかしいじゃん…」
「いいじゃん、気持ちかったんだもん。…ねぇ、ユズ…」
「…ん?」
「もっと、して欲しいって言ったら?」
悪戯っぽく笑う眼が、思い掛けない誘いに戸惑いを隠せない俺を見つめる。もっと、なんて言われて、そのまま応じていいものかわからなかったから。
俺の戸惑いなんて想定内だったのか、アキくんは特に気にすることなく、だけどとてもやさしく俺の頬や耳の辺りを右手で撫でたかと思うと、そのままグイッと俺の顎を持ちあげるようにして引き寄せ、そして少しだけ強引にキスをしてきた。
さっきまで彼の肌を味わっていた舌を絡み取って吸い、じわりとふたりの唾液が混じり合っていく。戸惑いを拭いきれないままにじわじわと甘い痺れに絆されていく理性の所為か、いつもよりずっと鼓動が速い気がした。
口付てる時間が随分と長く感じていたせいか、それとも少しのアルコールで俺が酔っていたりしたのか、息継ぎするように顔を離した時には随分と呼吸が荒くなっていた。
夕食の時とは全く違う意味で濡れた眼をした俺が、数センチ先のアキくんの瞳の中で彼を見つめていた。
彼が望む物を、望むだけ、あげたい――――単純な想いが一層俺の視界を潤ませていく。
「――――もっと、あげるね、アキくん…」
再びふたりの距離がゼロになって、ちいさく濡れた音が聞こえた。いつもと同じ、ふたりの夜のはじまり。違うのは、夜を迎える場所と、彼の片腕の自由が利かないことぐらいで。
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