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アキとユズ*第二章

ランチボックス*9

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 午後からの新入生の説明会の会場の設営を手伝ってて食いそびれてた昼メシを食いに事務室へ向かう。その足取りは心なしか、軽い。空腹な上に春先なのに冷たい日陰の風も気にならないほどに。
 自席に着いてそわそわと弁当の包みを広げる。現れた本日のメニューは鮭弁当ってところか(メインおかずが塩鮭っぽいから)。あとは人参とピーマンのキンピラ、芋の煮たのに、卵焼き。ちなみにこの前は鶏の照り焼きで、その前はサバ味噌(もちろんどれも前日の残りもんだ)。
 早速卵焼きに箸をつけて一口で頬張っていると、隣の方からこっちを覗く視線を感じた。
 横目で見ると、ニコニコと微笑んでる葉山さんが、やっぱり自作であろう弁当を、同じくつつきつつ俺を見ていた。

「……なんすか?」
「ん、いつもおいしそうだなって思って。あと、ホントにしあわせそうに食べるのねーって。」

 他意はないんだろうけど、何か子供扱いされたなぁって思いはしつつも、特にむっとすることもなった。だって目の前の昼飯は紛れもなく美味かったし、それをひとり占めできるのはしあわせの何者でもないからだ。俺は素直に言われた言葉に頷いて笑い返す。「美味いっすよ、」って。

「仲直り、したんだ?」
「何の話でしょ?」
「あら、違うの? ホントに弁当男子だったんだ」
「ま、そういうとこですね。」

 間違ってはないだろ、作り手は男子なんだからさ。俺じゃないけど。
 ニコニコ笑って真相をはぐらかす俺の答えに、やっぱり葉山さんも腑に落ちない顔をしてはいたけど、それ以上突いてくることはなかった。そしてそれぞれの昼メシに戻った。
 週末、天気が良かったら、早咲きの桜を見に行こうかなんて、ふと思い付く。弁当を持って、早起きをして。そんで帰り道、どっかで食ってくのもいいなぁとか色々と想い巡らせていると、事務室の眼の前の中庭に降り注ぐやらかい陽の光が急に煌めいて見えてきた。あたらしい季節が芽吹いて始まりだしている、その過程を垣間見た気がした。
 いつもと同じようにあたたかでやらかい、それでいていつもよりもずっと甘やかな空気を含んだ、俺らのあたらしい季節が始まろうともしていた。
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