アキとユズ~いただきますを一緒に~

伊藤あまね

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アキとユズ*第二章

ランチボックス*6

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 流石に唐揚重とか特大海老フライ御膳とかばっか食ってると、本気で調子が悪くなってき出した。
 まず肌荒れが酷い。元々そんな自慢できるほどのもんじゃないけど、「なに、笹井君、荒れてるねぇ」なんて、事務のおばさま方に目ざとく見つけられてしまう辺りがもうダメだろ。最近、朝髭剃ってると微妙に痛いしな、ローションとか塗ってんのに。
 あと、口内炎が出来た。しかもデカイのが二つ。舌先も荒れてきてるから実質3つ?
 とにかくメシが食いにくいわ、食う気失せるわ……なんとか無理やり弁当(これは学校からまとめて頼む仕出しのね、すっげー高いの)を完食はするけど、それが夕飯まで響いてることもなくはない。
 そうなると酒ばっかになってー、ぐだぐだぐだぐだしちゃってさぁテレビ観ながら。んでそのまま寝ちゃったりー……っていう、何だこの廃人予備軍みたいな生活。そもそも野菜なんて付け合わせのポテトサラダぐらいしか口にしないと云う不健康さ!仕出しの煮物が有難く思えてしまうと貧相な食生活に我ながら呆れる。
 べつにさ、行ってもいいと思うんだ、ユズのとこに。栄養補給目当てでなく、気持ち的にすっきりするためにさ。陣中見舞いだとか何とか口実作って、手土産に何か持ってってさ。
 ガッツリ仕事中でない限り、茶ぐらいは淹れてくれるのを俺は知ってる筈なのに、そんなことも構わないで(俺なりには構ってたつもりだけど、一般的に見たら違くないかって思いはするんで一応ね)不躾に上がり込んでたことだってかつてはあるのに、ちゃんと付き合ってるって自覚がある筈のいまなのに……メールを軽く打つことすらできなくなっていた。あんなに、くだらないことをやり取りするべきだって、いつでも俺はそういうのが出来るって思ってたのに。
 硬い何かが俺とユズの間にあって、行く手を阻んでる気がする。
 でもユズは全然構ってなくて、気付いてもない感じなんだよな、それに。俺だけが阻まれてることにもがいてる。
 声を上げようにも全てをその阻んでる壁のようなものに吸い込まれてしまって、彼に届く前に消えてしまう。名前すら、彼の鼓膜を震わすことはないのか……ポツリと浮かんだ言葉が、ぎゅっと胃とか心臓の辺りを掴んで、痛い。

「――――逢いたい、なぁ……」

 誰もいない中庭の倉庫の屋根の修理をしながら、ひとり呟いた言葉はあまりにストレート過ぎた。紛れもない感情でもあった。
 金槌を叩きつける途端の金属音が、縦長の狭い中庭に響く。俺の呟きなんてとっくに踏み潰されてしまっていた。彼に届くどころか、風に吹かれる前に。
 ツライ。なんでこんな辛いんだろう。俺もユズも、それぞれにほどほどに毎日仕事で忙しい。特にユズの場合は「波」があるから、下手に俺がつっ込んでいいワケじゃないと思う。一度苦しめてたことを自覚した事実があるだけに、そういうのって取り扱いが慎重になる。だから、メールすることすらためらうと云うのは当然かなとは思うんだけど……それでも、辛くて仕方ない。
 なんでだろう。あと何日かすればきっと、彼の仕事はきっと一区切りつくだろうとかそういう流れも予測できてるのに。こんなの、まるで信じ切れてないみたいじゃんか、俺がユズのことを。
 そこまで考えが至った時、何かが引っ掛かった。引っ掛かったつーか、何だろ、軽く肩と肩が当たったみたいな感じがしたんだ。あれ?っていう感じの。痛みとか哀しいとかに隠れてて見えなかった、結構重大っぽいものの影がちらついた。
 その正体を確かめるべく、帰り、ユズの部屋に行ってみようかと思った。呟いてしまった本音の手前、やっぱ自分を誤魔化してくのは難しい気がしたからだ。

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