アキとユズ~いただきますを一緒に~

伊藤あまね

文字の大きさ
上 下
6 / 58
アキとユズ*第一章

シェア*6

しおりを挟む
 ほろ酔いで帰ったアキくんの後片付けをしながら、俺はぼんやり考えていた。書きかけの小説のことではなくて、アキくんといることと、そこから感じる妙な日常を嫌と思わない感情を。本来なら、他人が入り込むことを嫌がってたはずなのになぁって思いながら。
 自分が変わっていってるのがすごくよくわかって、おかしくてしかたなかった。
 毎日、毎日、学校の仕事の帰りに俺の家に寄ってくアキくん。「おなか減ったー」って言いながら、子どもみたいにさ。
 俺はそんな彼に空腹と、時には疲れた身体を癒してもらうために、食料買い出しに行ったり、部屋を掃除したり、ご飯作ったり。ひとつひとつはどれも苦じゃない。得意ではないけど、こなせないことはない。
 「ユズってさー、マジで料理うまいよねぇ」って、褒めてくれるアキくんの言葉も嬉しいし。それにやっぱご飯って誰かと食べるから作るんだと思う、おいしくなるから。
 だけど…………―――――泡だらけな鍋とスポンジと、それを握る手を見て思う。
 だけど、俺ひとりだったら、鍋なんてしないよな。めんどうだもん。買い溜めてるインスタント食いながらキーボード叩いたり資料見たりすればいいんだし。掃除だって週に一回くらいか、アレルギー出そうって時に掃除機かければいいんだし。
 だけど…………―――――洗い流した食器を籠に立て掛けながら、それが反射させる部屋の明かりを見ながら思う。
 だけど、やっぱアキくんが来てくれるからには、俺の作るの期待してるからには、それなりに食いでがあるのがいいだろうし、部屋が散らかってるなんてのは、流石にあの最初だけのにしたいし……なにより、喜んでくれるアキくん見るとこっちも嬉しくなるし……

「…………でもなんか、ウザいんだよなぁ…………」

 目の前の現実を口にしてしまうと、何でこうも冷たくなってしまうんだろう。出来ない仕事、真っ白なままの原稿、片付かない部屋、汚いままの俺、ご飯だけ食べにくるアキくん。挙げて並べてくどれもがもが俺の現実なのに……なんで、そんな冷たく言えるんだろう。
 どれも、大事にしたい筈なのに……時々、すごく時々、すべてを放り出して打ち壊したくなるのは、なんでなんだろう。ひとりぼっちになってしまえたらいいのに。ひとりになって、何も考えなくていいようになりたい、って思ってしまうのは。
 そしてそんなことを思って願いかけてしまう度に、胸の奥が苦しくて痛くなる。それって、俺が本当の望んでることなのかな、って。
 本当は、望んでるのかもしれない。こんな物書きなんて仕事、とっととやめてしまえって誰かに言って欲しいのかもしれない。何も片づかないから、アキくんに来ないでくれって言いたいのかもしれない。部屋もご飯もどうでもいい。ウザいよ、疲れた……って、言いたいのかもしれない。
 でも言えない。言ってしまったら、全部”ホント”なっちゃって…………俺は、本当に独りぼっちになってしまう気がして。そうなってしまうコトを、俺はすごくすごく恐れながら拒んでいた。
 それでも構わないって前なら言えたかもしれない。それは新人賞を獲ったばっかの頃? 小説を書き始めて物書きで食ってこうか迷ってた頃? それとも……アキくんに出会った頃? そのどれでもであるようで、どれでもでない気がする。わかんない。だけどいまの俺は、本当はどうしたらいんだろ………わかんないよ、なんにも………

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜

ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。 恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。 ※猫と話せる店主等、特殊設定あり

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

処理中です...