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 妊娠前最後になるだろうという事からかなりいつもより激しめにセックスをしたことで俺は意識を飛ばしてしまい、病院からの連絡に気付くのが遅れてしまった。
 病院からの連絡とは昼間採取して提出した精子の状態の報告であり、更に先日先に作成していた俺の卵子と受精するかどうかという話だ。

「病院、何だって?」

 伝言メモの音声を聞き終えた俺に朋拓がそわそわした様子で訊ねてくる。コウノトリプロジェクトで妊娠を希望していても、相手の精子が弱かったりなかったりして、不妊であることが発覚するケースが少なくはないと病院で聞いているので、朋拓がそわそわして病院からの話を気にするのも当然だろう。

「精子、良好だって。だからすぐにでも受精させるって」

 俺がそう言って朋拓の方を見ると、朋拓は心底ほっとしたように息を吐いてくたっとしなだれかかるように俺の隣に寝ころんだ。

「良かった~……ちゃんとした精子なんだ~」
「精子の健康状態なんてこういう機会でもないと知ることもないだろうしねぇ。卵子も良好みたいだから、たぶん大丈夫だよ」
「うん、そうだね……唯人、今度いつ病院行くの?」
「んー、病院から連絡きてからなんだけど、たぶん一週間以内に来てくれって言われると思う」
「そっか……そしたらいよいよ、なんだね」

 卵子に精を受精させるのはその日のうちに行われるらしいけれど、胎内(俺の場合は腹腔だけど)に戻すまでには数日程を要するらしく、着床させるのは更にその後になるという。
 着床して、さらに胎児の心音が確認できれば無事妊娠したと認められるのだけれど、そこまでの道のりは険しいし、そのあとも妊娠を維持させる努力をしなくてはいけない。

「んまあ、そうだけど、それまでにあれをやっちゃわないと」

 受精卵を入れてしまったら絶対安静になるので外出もできるかどうかわからないので、それまでに俺は急ピッチで仕上げてしまわないといけないことがある。
 俺がその件を口にすると朋拓は少し心配そうな顔をしていたけれど、すぐにやわらかく笑ってこう言った。

「そうだね。俺に手伝えることあったら何でも言って、ディーヴァ」

 そう、その動けなくなる妊娠までにやらなくてはならないことはディーヴァに関すること――例のベスト盤に収録するボーナストラックのレコーディングだ。
 ベスト盤に収録する曲は既にこれまでにあらたにレコーディングした音源をいまミックスしてもらっていて、残すのはそのボーナストラックの分だけ。
 元々は投票で選ばれた曲だけを収録してリリースの予定だったのだけれど、今回のリリース以降しばらくほぼ活動をしないことがファンのみんなに申し訳なく思えたので、急遽未公開の新曲を収録することを提案した。

「しかもそのレコーディングに俺が立ち会っていいなんてさぁ……ホントにいいの?」

 これまでのディーヴァの集大成を、ずっと応援し続けてくれた一番のファンであり、支えてきてくれたパートナーである朋拓に直に見て欲しかったのもあって、平川さんに頼み込んで特別にレコーディングスタジオに朋拓を招くことにしたのだ。
 朋拓は先日無事に俺と籍を入れたので正真正銘の家族でパートナーなので、事務所からの許可はすんなりと下りたのが幸いだった。
「平川さんからは“今までそうしなかったのが不思議だった”くらいに言われたから、良いんだよ。それに、朋拓は俺がディーヴァであってもその恋人であることを利用することはなかったから、今回呼んでもいいよって言われたんだよ」
「ありがとう、朋拓」と俺が彼の嬉しさで少し紅潮している頬に触れて囁くと、そこは更に赤く染まってほんのりと熱くなる。

「俺の方こそ、なんてお礼を言ったらいいんだろう……他のファンのみんなに悪い気がしちゃうよ」
「いいんだよ。朋拓は俺の大切なパートナーなんだから。胸張って堂々と来てよ」

 恐縮している朋拓に俺がくすくす笑いながら言うと、朋拓もまた苦笑してうなずく。
 レコーディングは明日の昼からで、平川さんから迎えの車が寄こされることになっているのでそれにふたりで乗ってスタジオに向かうことになっている。
 なんか久々にちょっとデートっぽいね、と言うと、朋拓は嬉しそうに笑っていた。

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