51 / 68
*25
しおりを挟む
朋拓の両親と顔を合わせて色々と話をした日から三日後、俺はコウノトリプロジェクトの治療を始めてから密かに考えていた企画を実行に移すべく都内某所のレコーディングスタジオに入っていた。
密かにとは言いつつも、ちゃんと企画書も書いてリモート会議で平川さんはじめ社長もディーヴァのレコーディングスタッフたちを前にプレゼンをしてちゃんと協力を仰いでの話だ。
企画は俺が朋拓とコウノトリプロジェクトの話合いをしている頃に並行して始まった、ディーヴァ初のベストアルバムの作成だった。しかも今回は関係者が選ぶというのではなくてファン投票で選ばれた真のベスト盤だ。
世界的アーティストでありながら管理問題はじめ様々な懸念事項からファンクラブらしいものも公式にはなく、これまでライブ以外にほとんどファンと接点らしいものを持ってこなかったディーヴァの突然の企画に世間は騒然とした。
投票資格は専用サイトに登録をしたファンだけが一ヶ月の投票期間内に三曲選んで投票することができるようにしていて、一気に三曲選んでもいいし、期間内であれば三回に分けてもいい。とにかくファンも納得のいく選曲になって欲しいと俺たっての希望でそういうちょっとややこしいシステムになってしまった。
「ええー、三曲かぁ……同じのに三票ってダメなんでしょ?」
「それはエラーになって弾かれるかもね」
スマホのホログラム表示されたディーヴァのベスト盤投票サイトを見ながら朋拓が唸っている。本当にこいつは俺……というかディーヴァが好きなんだな、と改めて思い、そのガチぶりに感心すらしてしまう。
頭を抱えたり唸ったりしながら小一時間と投票する曲を迷って悩んでいる朋拓の傍らに座り、肩に頭をもたげて甘えるようにしながら俺は昨日病院で聞いてきた話を報告しようと思った。
そんなあまりしない事をしたからか、朋拓もなにか察したらしくホログラム画面から視線を外して俺の方を見てくる。
「どうしたの?」
「んー……今日、病院だったんだけどさ」
「うん、なんかあった?」
小さな子どもが親に甘える時ってこんな風なんだろうかと思いながら、頬ずりするように朋拓に引っ付いたまま、俺はうなずいて訊かれたことに答える。
「あのさー、卵子、出来てきたって」
そう、俺が今日病院に行ったのは先日採取した細胞から卵子が作られたかどうかの確認だった。オンライン診療でもいいと言われたんだけれど、折角だからちゃんと話を聞きたいと思って病院まで出向いたのだ。
出向くのは通行アプリを使うからちょっと面倒ではあるのだけれど、実際に行ってみて良かったと思う。ちゃんと形になっている俺の細胞から作られた卵子の画像を見せてもらえたから。
「これなんだけどさ」と言いながらもらった画像データを見せると、朋拓は寝ころんでいたソファから飛び起きて俺の手首ごと掴んで引き寄せる。
「これ、唯人の卵子?! 一つ、二つ……四つも?!」
「うん、予備も含めてって。この中から特に元気な卵子を選ぶんだって」
「そっかぁ……かわいい……」
「は? 卵子だよ? まだ俺の方しか遺伝しないんだよ? っていうか細胞じゃん」
「唯人のものだからかわいいに決まってる。細胞なんてミクロ単位でかわいい」
どういうヘキの持ち主だよお前は……と若干退いていたのだけれど、子どもになる前段階でこれなら、いざ妊娠しただけでも大喜びしてくれるんじゃないだろうか。それほどまでに俺と子どもを作ることを心待ちにしてくれているのかと思うと俺も嬉しくなってくる。
「卵子ができたってことは、俺の精子を採るってこと?」
「あ、うん、そうなんだよね。朋拓、来週いつなら都合良い?」
「そうだなぁ……来週は週末なら大丈夫だと思うけど」
「そっか。じゃあ、金曜の午後に部屋の予約入れてもらうね」
部屋というのは、病院内にある精子を採取する際に使われる個室のことで、コウノトリプロジェクトの治療に際しての精子の採取もだけれど、不妊治療の際の精子の採取なども行われるらしい。
昔は自宅で自慰をして採取してケースに入れて……なんてしてたらしけれど、それだと精子の鮮度が落ちるためにあまり意味がないという事で、専用の個室を用意している病院が殆どだ。
密かにとは言いつつも、ちゃんと企画書も書いてリモート会議で平川さんはじめ社長もディーヴァのレコーディングスタッフたちを前にプレゼンをしてちゃんと協力を仰いでの話だ。
企画は俺が朋拓とコウノトリプロジェクトの話合いをしている頃に並行して始まった、ディーヴァ初のベストアルバムの作成だった。しかも今回は関係者が選ぶというのではなくてファン投票で選ばれた真のベスト盤だ。
世界的アーティストでありながら管理問題はじめ様々な懸念事項からファンクラブらしいものも公式にはなく、これまでライブ以外にほとんどファンと接点らしいものを持ってこなかったディーヴァの突然の企画に世間は騒然とした。
投票資格は専用サイトに登録をしたファンだけが一ヶ月の投票期間内に三曲選んで投票することができるようにしていて、一気に三曲選んでもいいし、期間内であれば三回に分けてもいい。とにかくファンも納得のいく選曲になって欲しいと俺たっての希望でそういうちょっとややこしいシステムになってしまった。
「ええー、三曲かぁ……同じのに三票ってダメなんでしょ?」
「それはエラーになって弾かれるかもね」
スマホのホログラム表示されたディーヴァのベスト盤投票サイトを見ながら朋拓が唸っている。本当にこいつは俺……というかディーヴァが好きなんだな、と改めて思い、そのガチぶりに感心すらしてしまう。
頭を抱えたり唸ったりしながら小一時間と投票する曲を迷って悩んでいる朋拓の傍らに座り、肩に頭をもたげて甘えるようにしながら俺は昨日病院で聞いてきた話を報告しようと思った。
そんなあまりしない事をしたからか、朋拓もなにか察したらしくホログラム画面から視線を外して俺の方を見てくる。
「どうしたの?」
「んー……今日、病院だったんだけどさ」
「うん、なんかあった?」
小さな子どもが親に甘える時ってこんな風なんだろうかと思いながら、頬ずりするように朋拓に引っ付いたまま、俺はうなずいて訊かれたことに答える。
「あのさー、卵子、出来てきたって」
そう、俺が今日病院に行ったのは先日採取した細胞から卵子が作られたかどうかの確認だった。オンライン診療でもいいと言われたんだけれど、折角だからちゃんと話を聞きたいと思って病院まで出向いたのだ。
出向くのは通行アプリを使うからちょっと面倒ではあるのだけれど、実際に行ってみて良かったと思う。ちゃんと形になっている俺の細胞から作られた卵子の画像を見せてもらえたから。
「これなんだけどさ」と言いながらもらった画像データを見せると、朋拓は寝ころんでいたソファから飛び起きて俺の手首ごと掴んで引き寄せる。
「これ、唯人の卵子?! 一つ、二つ……四つも?!」
「うん、予備も含めてって。この中から特に元気な卵子を選ぶんだって」
「そっかぁ……かわいい……」
「は? 卵子だよ? まだ俺の方しか遺伝しないんだよ? っていうか細胞じゃん」
「唯人のものだからかわいいに決まってる。細胞なんてミクロ単位でかわいい」
どういうヘキの持ち主だよお前は……と若干退いていたのだけれど、子どもになる前段階でこれなら、いざ妊娠しただけでも大喜びしてくれるんじゃないだろうか。それほどまでに俺と子どもを作ることを心待ちにしてくれているのかと思うと俺も嬉しくなってくる。
「卵子ができたってことは、俺の精子を採るってこと?」
「あ、うん、そうなんだよね。朋拓、来週いつなら都合良い?」
「そうだなぁ……来週は週末なら大丈夫だと思うけど」
「そっか。じゃあ、金曜の午後に部屋の予約入れてもらうね」
部屋というのは、病院内にある精子を採取する際に使われる個室のことで、コウノトリプロジェクトの治療に際しての精子の採取もだけれど、不妊治療の際の精子の採取なども行われるらしい。
昔は自宅で自慰をして採取してケースに入れて……なんてしてたらしけれど、それだと精子の鮮度が落ちるためにあまり意味がないという事で、専用の個室を用意している病院が殆どだ。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
今日も武器屋は閑古鳥
桜羽根ねね
BL
凡庸な町人、アルジュは武器屋の店主である。
代わり映えのない毎日を送っていた、そんなある日、艶やかな紅い髪に金色の瞳を持つ貴族が現れて──。
謎の美形貴族×平凡町人がメインで、脇カプも多数あります。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる