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 朋拓の両親と顔を合わせて色々と話をした日から三日後、俺はコウノトリプロジェクトの治療を始めてから密かに考えていた企画を実行に移すべく都内某所のレコーディングスタジオに入っていた。
 密かにとは言いつつも、ちゃんと企画書も書いてリモート会議で平川さんはじめ社長もディーヴァのレコーディングスタッフたちを前にプレゼンをしてちゃんと協力を仰いでの話だ。
 企画は俺が朋拓とコウノトリプロジェクトの話合いをしている頃に並行して始まった、ディーヴァ初のベストアルバムの作成だった。しかも今回は関係者が選ぶというのではなくてファン投票で選ばれた真のベスト盤だ。
 世界的アーティストでありながら管理問題はじめ様々な懸念事項からファンクラブらしいものも公式にはなく、これまでライブ以外にほとんどファンと接点らしいものを持ってこなかったディーヴァの突然の企画に世間は騒然とした。
 投票資格は専用サイトに登録をしたファンだけが一ヶ月の投票期間内に三曲選んで投票することができるようにしていて、一気に三曲選んでもいいし、期間内であれば三回に分けてもいい。とにかくファンも納得のいく選曲になって欲しいと俺たっての希望でそういうちょっとややこしいシステムになってしまった。

「ええー、三曲かぁ……同じのに三票ってダメなんでしょ?」
「それはエラーになって弾かれるかもね」

 スマホのホログラム表示されたディーヴァのベスト盤投票サイトを見ながら朋拓が唸っている。本当にこいつは俺……というかディーヴァが好きなんだな、と改めて思い、そのガチぶりに感心すらしてしまう。
 頭を抱えたり唸ったりしながら小一時間と投票する曲を迷って悩んでいる朋拓の傍らに座り、肩に頭をもたげて甘えるようにしながら俺は昨日病院で聞いてきた話を報告しようと思った。
 そんなあまりしない事をしたからか、朋拓もなにか察したらしくホログラム画面から視線を外して俺の方を見てくる。

「どうしたの?」
「んー……今日、病院だったんだけどさ」
「うん、なんかあった?」

 小さな子どもが親に甘える時ってこんな風なんだろうかと思いながら、頬ずりするように朋拓に引っ付いたまま、俺はうなずいて訊かれたことに答える。

「あのさー、卵子、出来てきたって」

 そう、俺が今日病院に行ったのは先日採取した細胞から卵子が作られたかどうかの確認だった。オンライン診療でもいいと言われたんだけれど、折角だからちゃんと話を聞きたいと思って病院まで出向いたのだ。
 出向くのは通行アプリを使うからちょっと面倒ではあるのだけれど、実際に行ってみて良かったと思う。ちゃんと形になっている俺の細胞から作られた卵子の画像を見せてもらえたから。
 「これなんだけどさ」と言いながらもらった画像データを見せると、朋拓は寝ころんでいたソファから飛び起きて俺の手首ごと掴んで引き寄せる。

「これ、唯人の卵子?! 一つ、二つ……四つも?!」
「うん、予備も含めてって。この中から特に元気な卵子を選ぶんだって」
「そっかぁ……かわいい……」
「は? 卵子だよ? まだ俺の方しか遺伝しないんだよ? っていうか細胞じゃん」
「唯人のものだからかわいいに決まってる。細胞なんてミクロ単位でかわいい」

 どういうヘキの持ち主だよお前は……と若干退いていたのだけれど、子どもになる前段階でこれなら、いざ妊娠しただけでも大喜びしてくれるんじゃないだろうか。それほどまでに俺と子どもを作ることを心待ちにしてくれているのかと思うと俺も嬉しくなってくる。

「卵子ができたってことは、俺の精子を採るってこと?」
「あ、うん、そうなんだよね。朋拓、来週いつなら都合良い?」
「そうだなぁ……来週は週末なら大丈夫だと思うけど」
「そっか。じゃあ、金曜の午後に部屋の予約入れてもらうね」

 部屋というのは、病院内にある精子を採取する際に使われる個室のことで、コウノトリプロジェクトの治療に際しての精子の採取もだけれど、不妊治療の際の精子の採取なども行われるらしい。
 昔は自宅で自慰をして採取してケースに入れて……なんてしてたらしけれど、それだと精子の鮮度が落ちるためにあまり意味がないという事で、専用の個室を用意している病院が殆どだ。

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