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「そうなんですね……話は朋拓から聞いてはいたのですが、唯人さんは本当にご苦労をされて、いまはご立派になられたんですね」
翌日の午後、朋拓の両親が訪ねてきた。リビングのソファにL字に並んで座り、挨拶も自己紹介も一通り終わって、俺と朋拓の関係を改めて説明する。
それからどうして俺が朋拓との子どもが欲しいのか、そのためになんで養子を迎えることや代理出産でなくあえてコウノトリプロジェクトの治療を受けることを決めたのかを話した。
ディーヴァであることは朋拓が昨日前もって話してくれていたから俺が改めて話しても驚かれなかったけれど、歌を唄っていることが俺の生い立ちに関係していることを話すと、必然的に施設での話とかになって朋拓の両親は驚いているようだった。家族がいないとは聞いていてもそこまでとは思わなかったのかもしれない。
でも、否定はされなかった。朋拓のおかあさんは特に彼にそっくりな目許を潤ませて聞いてくれて、話し終えるとそう言ってくれたのだ。
「朋拓から子どもをパートナーと――それも、同性との――作ろうと思っている、と言われた時、正直信じられなかったんです。ニュースで聞くような治療に我が子が関わることになるなんて夢にも思っていませんでしたから」
「養子を迎えるでもなく、何故そんな危険なことをお相手にさせるんだろう、とも思いました。朋拓はちゃんとわかっているのか、と」
「それは……」
朋拓が両親の言葉に戸惑うようにしつつも何かを返そうとした時、ふたりは困ったように苦笑し、こう言葉を続ける。
「私たちも、なかなか子どもを授からなくて……流産や死産の末にようやく授かったのが朋拓だったんです」
「え、そうなの? 初めて聞いた……」
思いがけない話に朋拓は目を丸くする。家族だからなんでも解り合って知っているわけではない、という彼の言葉がこんな形で示されるなんて思ってもいなかった。
朋拓のおかあさんは驚きを隠せない俺らを見て、「まあ、楽しい話ではないからね」と、苦笑する。
「だから、どうしても我が子が欲しい気持ちはよくわかるんです。幸い私たちは朋拓のあとにも子どもを授かれましたが、それはきっととても運が良かったんでしょう。そして同時に、子どもを授かることがどれだけ大変であるかも、状況は全く違いますが、わかるつもりです」
「母さん……」
おかあさんからの言葉に俺と朋拓が心打たれて泣きそうになっている中、おとうさんが朋拓の方を真っすぐに見つめてこう問うてくる。
「朋拓、父親は、母親になる人の代わりにはなれないし、痛みを一緒に感じてあげることも悲しみを完全に理解することもできないだろう。だからこそ、責任が重いんだ。唯人さんにこの先どんなことがあっても、ちゃんとそばにいて支えられるかい?」
おとうさんからの言葉に、朋拓は表情を硬くして力強くうなずく。
朋拓に覚悟がないわけがないのは俺もわかっている。これまで何度も話し合いをしてきて言葉を重ねて積み上げてきて築いてきた俺らの関係の強さが試されている気がした。
「俺は、唯人のそばにいて出来ることは何でもするし、出来ないこともできる限りできるようにするつもりでいる」
朋拓がまっすぐにおとうさんを見つめ返して答え、俺の方を確かめるように見てうなずき合う。視線を交わして、俺がそのあとを継ぐように言葉を続ける。
「俺にとって、朋拓さんは何よりの支えで、希望なんです。彼がいてくれたからこそ、俺はここまで治療にも耐えてこられましたし、この先も耐えられると思います。誰よりも愛し合えているから。だから、俺に朋拓さんとの子どもを産ませてください。俺は朋拓さんと家族になりたいんです」
お願いします! そう、俺と朋拓が頭を下げると、リビングはしんと静まりかえった。
俺と朋拓の関係を認めて欲しいこと、ふたりの子どもを作って産んで育てることを認めて欲しい、その一心で頭を下げたまま、時が停まったようになっていた。
「――まあまあ、とりあえず顔をあげて、ふたりとも」
そう、ふたりに促されて恐る恐る顔をあげると、朋拓の両親はふたりとも真っ赤な顔をして泣いていた。
俺は何か泣くほど怒らせるようなことを言ってしまったかと内心焦ったのだけれど、そうではなく、ふたりは涙で濡れた目許を拭いながらこう言ってくれた。
「そこまで覚悟を決めて下さってありがとう、唯人さん。こんなに一心に愛されて、朋拓はしあわせだと思います」
「もし朋拓だけで頼りなかったら、いつでも私たちを呼んでください。いつでも駆け付けますので」
「あの、それって……」
「息子のことを、よろしく頼みます、唯人さん」
「どうか、お身体大事にして。元気な赤ちゃんを授かれますように」
そう言って、おかあさんが「気が早いけれど」と言いながら朋拓の実家の近くにあるという子宝の神社のお守りを差し出してくれた。やわらかいピンク色の小さなそれは本当に赤ん坊の頬みたいに丸くて、さわるとふわふわしている。
「ありがとうございます、本当に、ありがとうございます……」
これ以上にない賛同を得られた俺と朋拓は、頂いたお守りを手に嬉しくて手を取り合って泣いて互いを抱きしめた。
翌日の午後、朋拓の両親が訪ねてきた。リビングのソファにL字に並んで座り、挨拶も自己紹介も一通り終わって、俺と朋拓の関係を改めて説明する。
それからどうして俺が朋拓との子どもが欲しいのか、そのためになんで養子を迎えることや代理出産でなくあえてコウノトリプロジェクトの治療を受けることを決めたのかを話した。
ディーヴァであることは朋拓が昨日前もって話してくれていたから俺が改めて話しても驚かれなかったけれど、歌を唄っていることが俺の生い立ちに関係していることを話すと、必然的に施設での話とかになって朋拓の両親は驚いているようだった。家族がいないとは聞いていてもそこまでとは思わなかったのかもしれない。
でも、否定はされなかった。朋拓のおかあさんは特に彼にそっくりな目許を潤ませて聞いてくれて、話し終えるとそう言ってくれたのだ。
「朋拓から子どもをパートナーと――それも、同性との――作ろうと思っている、と言われた時、正直信じられなかったんです。ニュースで聞くような治療に我が子が関わることになるなんて夢にも思っていませんでしたから」
「養子を迎えるでもなく、何故そんな危険なことをお相手にさせるんだろう、とも思いました。朋拓はちゃんとわかっているのか、と」
「それは……」
朋拓が両親の言葉に戸惑うようにしつつも何かを返そうとした時、ふたりは困ったように苦笑し、こう言葉を続ける。
「私たちも、なかなか子どもを授からなくて……流産や死産の末にようやく授かったのが朋拓だったんです」
「え、そうなの? 初めて聞いた……」
思いがけない話に朋拓は目を丸くする。家族だからなんでも解り合って知っているわけではない、という彼の言葉がこんな形で示されるなんて思ってもいなかった。
朋拓のおかあさんは驚きを隠せない俺らを見て、「まあ、楽しい話ではないからね」と、苦笑する。
「だから、どうしても我が子が欲しい気持ちはよくわかるんです。幸い私たちは朋拓のあとにも子どもを授かれましたが、それはきっととても運が良かったんでしょう。そして同時に、子どもを授かることがどれだけ大変であるかも、状況は全く違いますが、わかるつもりです」
「母さん……」
おかあさんからの言葉に俺と朋拓が心打たれて泣きそうになっている中、おとうさんが朋拓の方を真っすぐに見つめてこう問うてくる。
「朋拓、父親は、母親になる人の代わりにはなれないし、痛みを一緒に感じてあげることも悲しみを完全に理解することもできないだろう。だからこそ、責任が重いんだ。唯人さんにこの先どんなことがあっても、ちゃんとそばにいて支えられるかい?」
おとうさんからの言葉に、朋拓は表情を硬くして力強くうなずく。
朋拓に覚悟がないわけがないのは俺もわかっている。これまで何度も話し合いをしてきて言葉を重ねて積み上げてきて築いてきた俺らの関係の強さが試されている気がした。
「俺は、唯人のそばにいて出来ることは何でもするし、出来ないこともできる限りできるようにするつもりでいる」
朋拓がまっすぐにおとうさんを見つめ返して答え、俺の方を確かめるように見てうなずき合う。視線を交わして、俺がそのあとを継ぐように言葉を続ける。
「俺にとって、朋拓さんは何よりの支えで、希望なんです。彼がいてくれたからこそ、俺はここまで治療にも耐えてこられましたし、この先も耐えられると思います。誰よりも愛し合えているから。だから、俺に朋拓さんとの子どもを産ませてください。俺は朋拓さんと家族になりたいんです」
お願いします! そう、俺と朋拓が頭を下げると、リビングはしんと静まりかえった。
俺と朋拓の関係を認めて欲しいこと、ふたりの子どもを作って産んで育てることを認めて欲しい、その一心で頭を下げたまま、時が停まったようになっていた。
「――まあまあ、とりあえず顔をあげて、ふたりとも」
そう、ふたりに促されて恐る恐る顔をあげると、朋拓の両親はふたりとも真っ赤な顔をして泣いていた。
俺は何か泣くほど怒らせるようなことを言ってしまったかと内心焦ったのだけれど、そうではなく、ふたりは涙で濡れた目許を拭いながらこう言ってくれた。
「そこまで覚悟を決めて下さってありがとう、唯人さん。こんなに一心に愛されて、朋拓はしあわせだと思います」
「もし朋拓だけで頼りなかったら、いつでも私たちを呼んでください。いつでも駆け付けますので」
「あの、それって……」
「息子のことを、よろしく頼みます、唯人さん」
「どうか、お身体大事にして。元気な赤ちゃんを授かれますように」
そう言って、おかあさんが「気が早いけれど」と言いながら朋拓の実家の近くにあるという子宝の神社のお守りを差し出してくれた。やわらかいピンク色の小さなそれは本当に赤ん坊の頬みたいに丸くて、さわるとふわふわしている。
「ありがとうございます、本当に、ありがとうございます……」
これ以上にない賛同を得られた俺と朋拓は、頂いたお守りを手に嬉しくて手を取り合って泣いて互いを抱きしめた。
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