上 下
50 / 68

*24-2

しおりを挟む
「そうなんですね……話は朋拓から聞いてはいたのですが、唯人さんは本当にご苦労をされて、いまはご立派になられたんですね」

 翌日の午後、朋拓の両親が訪ねてきた。リビングのソファにL字に並んで座り、挨拶も自己紹介も一通り終わって、俺と朋拓の関係を改めて説明する。
 それからどうして俺が朋拓との子どもが欲しいのか、そのためになんで養子を迎えることや代理出産でなくあえてコウノトリプロジェクトの治療を受けることを決めたのかを話した。
 ディーヴァであることは朋拓が昨日前もって話してくれていたから俺が改めて話しても驚かれなかったけれど、歌を唄っていることが俺の生い立ちに関係していることを話すと、必然的に施設での話とかになって朋拓の両親は驚いているようだった。家族がいないとは聞いていてもそこまでとは思わなかったのかもしれない。
 でも、否定はされなかった。朋拓のおかあさんは特に彼にそっくりな目許を潤ませて聞いてくれて、話し終えるとそう言ってくれたのだ。

「朋拓から子どもをパートナーと――それも、同性との――作ろうと思っている、と言われた時、正直信じられなかったんです。ニュースで聞くような治療に我が子が関わることになるなんて夢にも思っていませんでしたから」
「養子を迎えるでもなく、何故そんな危険なことをお相手にさせるんだろう、とも思いました。朋拓はちゃんとわかっているのか、と」
「それは……」

 朋拓が両親の言葉に戸惑うようにしつつも何かを返そうとした時、ふたりは困ったように苦笑し、こう言葉を続ける。

「私たちも、なかなか子どもを授からなくて……流産や死産の末にようやく授かったのが朋拓だったんです」
「え、そうなの? 初めて聞いた……」

 思いがけない話に朋拓は目を丸くする。家族だからなんでも解り合って知っているわけではない、という彼の言葉がこんな形で示されるなんて思ってもいなかった。
 朋拓のおかあさんは驚きを隠せない俺らを見て、「まあ、楽しい話ではないからね」と、苦笑する。

「だから、どうしても我が子が欲しい気持ちはよくわかるんです。幸い私たちは朋拓のあとにも子どもを授かれましたが、それはきっととても運が良かったんでしょう。そして同時に、子どもを授かることがどれだけ大変であるかも、状況は全く違いますが、わかるつもりです」
「母さん……」

 おかあさんからの言葉に俺と朋拓が心打たれて泣きそうになっている中、おとうさんが朋拓の方を真っすぐに見つめてこう問うてくる。

「朋拓、父親は、母親になる人の代わりにはなれないし、痛みを一緒に感じてあげることも悲しみを完全に理解することもできないだろう。だからこそ、責任が重いんだ。唯人さんにこの先どんなことがあっても、ちゃんとそばにいて支えられるかい?」

 おとうさんからの言葉に、朋拓は表情を硬くして力強くうなずく。
 朋拓に覚悟がないわけがないのは俺もわかっている。これまで何度も話し合いをしてきて言葉を重ねて積み上げてきて築いてきた俺らの関係の強さが試されている気がした。

「俺は、唯人のそばにいて出来ることは何でもするし、出来ないこともできる限りできるようにするつもりでいる」

 朋拓がまっすぐにおとうさんを見つめ返して答え、俺の方を確かめるように見てうなずき合う。視線を交わして、俺がそのあとを継ぐように言葉を続ける。

「俺にとって、朋拓さんは何よりの支えで、希望なんです。彼がいてくれたからこそ、俺はここまで治療にも耐えてこられましたし、この先も耐えられると思います。誰よりも愛し合えているから。だから、俺に朋拓さんとの子どもを産ませてください。俺は朋拓さんと家族になりたいんです」

 お願いします! そう、俺と朋拓が頭を下げると、リビングはしんと静まりかえった。
 俺と朋拓の関係を認めて欲しいこと、ふたりの子どもを作って産んで育てることを認めて欲しい、その一心で頭を下げたまま、時が停まったようになっていた。

「――まあまあ、とりあえず顔をあげて、ふたりとも」

 そう、ふたりに促されて恐る恐る顔をあげると、朋拓の両親はふたりとも真っ赤な顔をして泣いていた。
 俺は何か泣くほど怒らせるようなことを言ってしまったかと内心焦ったのだけれど、そうではなく、ふたりは涙で濡れた目許を拭いながらこう言ってくれた。

「そこまで覚悟を決めて下さってありがとう、唯人さん。こんなに一心に愛されて、朋拓はしあわせだと思います」
「もし朋拓だけで頼りなかったら、いつでも私たちを呼んでください。いつでも駆け付けますので」
「あの、それって……」
「息子のことを、よろしく頼みます、唯人さん」
「どうか、お身体大事にして。元気な赤ちゃんを授かれますように」

 そう言って、おかあさんが「気が早いけれど」と言いながら朋拓の実家の近くにあるという子宝の神社のお守りを差し出してくれた。やわらかいピンク色の小さなそれは本当に赤ん坊の頬みたいに丸くて、さわるとふわふわしている。

「ありがとうございます、本当に、ありがとうございます……」

 これ以上にない賛同を得られた俺と朋拓は、頂いたお守りを手に嬉しくて手を取り合って泣いて互いを抱きしめた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...