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「ねえ唯人、俺との子ども欲しいってことはさ、家族になるってことでしょう? 家族なら、分かち合おうよ。ツラいことも悲しいことも、しあわせなことも。そのために一緒にいるんだから。確かに俺はコウノトリプロジェクトのことをほとんど知らないし、頼りにならないかもしれない。でも唯人を愛して大切に想う気持ちと守りたい気持ちは誰よりも強いと思う。なにができるかわからないけど、そばにいさせて欲しい」
ただのワガママかもしれないけれど、と朋拓は苦笑したけれど、俺はようやく彼の本音を知れたような気がした。
家族というものに憧れつつもその家族という存在とどう向き合って行けばいいのか俺は解っていなかったのかもしれない。頼るとか信じるとか、他人と家族の違いがわからずに自分から線を引いてしまっていたから、治療のことも子どもを産むこともすべて俺が背負わなくてはいけないと思い込んでいたところがどこかにあったのだろう。
でも、そういうワケじゃないんだ。子どもという存在がなくても、ふたりであっても、もう既にそこには家族としての意味が生まれているんだということに俺は気付かされた。ふたりの人間がいれば、そこに家族の種ができるんだということを知った。
「朋拓、一人で決めてごめん。でも、俺は朋拓以外の誰かとの子どもは欲しくない。朋拓と愛し合って来たから、どうしても朋拓との子どもを産みたい。ワガママに聞こえるかもしれないけれど、それが、俺なりの朋拓への最大級の愛情表現なんだ」
俺は物事を軽く考えているんじゃないか、そう以前平川さんから怒られたことを改めて思い返す。俺が考えているよりもずっと現実の物事は複雑で混み合っていて、慎重に考えなきゃいけない。
「朋拓は、俺がディーヴァでありながらも朋拓との子どもを作って、その子に子守唄を唄ってあげたいことも許してくれる?」
朋拓に言えなかったことが露呈してからずっと問いたかったことを恐る恐る確かめるように口にすると、朋拓は泣きそうな顔でやさしく微笑んでこう答えた。
「唯人が俺を家族として認めてくれるなら、一緒に考えていきたい」
差し出された言葉を、膝に置かれた手のひらごと手に取ってそこに口付ける。見つめ合った瞳に映し出された痩せっぽちの俺もまた、泣き出しそうな顔をして返した。
「俺、朋拓と、家族になりたい。家族になって、ふたりの子どもを産んで一緒に育てたい」
口付けた俺の手ごと朋拓から抱き寄せられ、腕の中に納まっていた。久々に間近に感じるぬくもりは、思っていた以上に俺の心に沁みて涙腺を刺激する。潤んでいく視界には小さく震える朋拓の肩が見えた。
「唯人、俺との子どもを産んで欲しい。そのためなら、俺はなんだってする。俺だって命かけるよ」
震える声で笑う朋拓の言葉を聞きながら、俺は頬伝う涙も拭わずに「ありがとう」とつぶやく。
そっと抱擁を緩めて向かい合うとお互いに泣いていた。濡れたお互いの頬を拭いながら苦笑すると、久しぶりに朋拓のことが心から愛しくて仕方なくて胸が痛んだ。
この痛みは、俺が彼についてきた嘘への報いだ。刻み込むように憶えておこう。この痛みを抱えて、俺は命を身ごもって産み出すんだ。
俺と朋拓が挑むことは、以前朋拓が言っていたように神様に挑むような事とも言えるだろう。人間は神様にはなれない、なってはいけない、と。
だけど、それでも神様に歯向かいかねないことを願い、望み、挑もうとしてしまう――それが人間なのかもしれない。
なんて愚かなんだろう。神様になってなれるがわけないのに、わかりきっているのに……どうしても手にしたい、この腕に抱きたいものがある。それはきっと罪にも近い。
それでも、彼は俺と共に居てくれるという。それが何よりも嬉しかった。
「朋拓、ずっとすっと愛してる。誰よりも、愛してる」
「うん、俺も愛してるよ、唯人」
――だからいっしょに“罪”を犯してくれる? そう言いそうな口を、朋拓に塞がれる。絡み合う唇は甘く苦く、いまのふたりの心情にすごく近い気がした。
ただのワガママかもしれないけれど、と朋拓は苦笑したけれど、俺はようやく彼の本音を知れたような気がした。
家族というものに憧れつつもその家族という存在とどう向き合って行けばいいのか俺は解っていなかったのかもしれない。頼るとか信じるとか、他人と家族の違いがわからずに自分から線を引いてしまっていたから、治療のことも子どもを産むこともすべて俺が背負わなくてはいけないと思い込んでいたところがどこかにあったのだろう。
でも、そういうワケじゃないんだ。子どもという存在がなくても、ふたりであっても、もう既にそこには家族としての意味が生まれているんだということに俺は気付かされた。ふたりの人間がいれば、そこに家族の種ができるんだということを知った。
「朋拓、一人で決めてごめん。でも、俺は朋拓以外の誰かとの子どもは欲しくない。朋拓と愛し合って来たから、どうしても朋拓との子どもを産みたい。ワガママに聞こえるかもしれないけれど、それが、俺なりの朋拓への最大級の愛情表現なんだ」
俺は物事を軽く考えているんじゃないか、そう以前平川さんから怒られたことを改めて思い返す。俺が考えているよりもずっと現実の物事は複雑で混み合っていて、慎重に考えなきゃいけない。
「朋拓は、俺がディーヴァでありながらも朋拓との子どもを作って、その子に子守唄を唄ってあげたいことも許してくれる?」
朋拓に言えなかったことが露呈してからずっと問いたかったことを恐る恐る確かめるように口にすると、朋拓は泣きそうな顔でやさしく微笑んでこう答えた。
「唯人が俺を家族として認めてくれるなら、一緒に考えていきたい」
差し出された言葉を、膝に置かれた手のひらごと手に取ってそこに口付ける。見つめ合った瞳に映し出された痩せっぽちの俺もまた、泣き出しそうな顔をして返した。
「俺、朋拓と、家族になりたい。家族になって、ふたりの子どもを産んで一緒に育てたい」
口付けた俺の手ごと朋拓から抱き寄せられ、腕の中に納まっていた。久々に間近に感じるぬくもりは、思っていた以上に俺の心に沁みて涙腺を刺激する。潤んでいく視界には小さく震える朋拓の肩が見えた。
「唯人、俺との子どもを産んで欲しい。そのためなら、俺はなんだってする。俺だって命かけるよ」
震える声で笑う朋拓の言葉を聞きながら、俺は頬伝う涙も拭わずに「ありがとう」とつぶやく。
そっと抱擁を緩めて向かい合うとお互いに泣いていた。濡れたお互いの頬を拭いながら苦笑すると、久しぶりに朋拓のことが心から愛しくて仕方なくて胸が痛んだ。
この痛みは、俺が彼についてきた嘘への報いだ。刻み込むように憶えておこう。この痛みを抱えて、俺は命を身ごもって産み出すんだ。
俺と朋拓が挑むことは、以前朋拓が言っていたように神様に挑むような事とも言えるだろう。人間は神様にはなれない、なってはいけない、と。
だけど、それでも神様に歯向かいかねないことを願い、望み、挑もうとしてしまう――それが人間なのかもしれない。
なんて愚かなんだろう。神様になってなれるがわけないのに、わかりきっているのに……どうしても手にしたい、この腕に抱きたいものがある。それはきっと罪にも近い。
それでも、彼は俺と共に居てくれるという。それが何よりも嬉しかった。
「朋拓、ずっとすっと愛してる。誰よりも、愛してる」
「うん、俺も愛してるよ、唯人」
――だからいっしょに“罪”を犯してくれる? そう言いそうな口を、朋拓に塞がれる。絡み合う唇は甘く苦く、いまのふたりの心情にすごく近い気がした。
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