上 下
42 / 68

*20-2

しおりを挟む
「ねえ唯人、俺との子ども欲しいってことはさ、家族になるってことでしょう? 家族なら、分かち合おうよ。ツラいことも悲しいことも、しあわせなことも。そのために一緒にいるんだから。確かに俺はコウノトリプロジェクトのことをほとんど知らないし、頼りにならないかもしれない。でも唯人を愛して大切に想う気持ちと守りたい気持ちは誰よりも強いと思う。なにができるかわからないけど、そばにいさせて欲しい」

 ただのワガママかもしれないけれど、と朋拓は苦笑したけれど、俺はようやく彼の本音を知れたような気がした。
 家族というものに憧れつつもその家族という存在とどう向き合って行けばいいのか俺は解っていなかったのかもしれない。頼るとか信じるとか、他人と家族の違いがわからずに自分から線を引いてしまっていたから、治療のことも子どもを産むこともすべて俺が背負わなくてはいけないと思い込んでいたところがどこかにあったのだろう。
 でも、そういうワケじゃないんだ。子どもという存在がなくても、ふたりであっても、もう既にそこには家族としての意味が生まれているんだということに俺は気付かされた。ふたりの人間がいれば、そこに家族の種ができるんだということを知った。

「朋拓、一人で決めてごめん。でも、俺は朋拓以外の誰かとの子どもは欲しくない。朋拓と愛し合って来たから、どうしても朋拓との子どもを産みたい。ワガママに聞こえるかもしれないけれど、それが、俺なりの朋拓への最大級の愛情表現なんだ」

 俺は物事を軽く考えているんじゃないか、そう以前平川さんから怒られたことを改めて思い返す。俺が考えているよりもずっと現実の物事は複雑で混み合っていて、慎重に考えなきゃいけない。

「朋拓は、俺がディーヴァでありながらも朋拓との子どもを作って、その子に子守唄を唄ってあげたいことも許してくれる?」

 朋拓に言えなかったことが露呈してからずっと問いたかったことを恐る恐る確かめるように口にすると、朋拓は泣きそうな顔でやさしく微笑んでこう答えた。

「唯人が俺を家族として認めてくれるなら、一緒に考えていきたい」
 差し出された言葉を、膝に置かれた手のひらごと手に取ってそこに口付ける。見つめ合った瞳に映し出された痩せっぽちの俺もまた、泣き出しそうな顔をして返した。
「俺、朋拓と、家族になりたい。家族になって、ふたりの子どもを産んで一緒に育てたい」

 口付けた俺の手ごと朋拓から抱き寄せられ、腕の中に納まっていた。久々に間近に感じるぬくもりは、思っていた以上に俺の心に沁みて涙腺を刺激する。潤んでいく視界には小さく震える朋拓の肩が見えた。
「唯人、俺との子どもを産んで欲しい。そのためなら、俺はなんだってする。俺だって命かけるよ」

震える声で笑う朋拓の言葉を聞きながら、俺は頬伝う涙も拭わずに「ありがとう」とつぶやく。
 そっと抱擁を緩めて向かい合うとお互いに泣いていた。濡れたお互いの頬を拭いながら苦笑すると、久しぶりに朋拓のことが心から愛しくて仕方なくて胸が痛んだ。
 この痛みは、俺が彼についてきた嘘への報いだ。刻み込むように憶えておこう。この痛みを抱えて、俺は命を身ごもって産み出すんだ。
 俺と朋拓が挑むことは、以前朋拓が言っていたように神様に挑むような事とも言えるだろう。人間は神様にはなれない、なってはいけない、と。
 だけど、それでも神様に歯向かいかねないことを願い、望み、挑もうとしてしまう――それが人間なのかもしれない。
 なんて愚かなんだろう。神様になってなれるがわけないのに、わかりきっているのに……どうしても手にしたい、この腕に抱きたいものがある。それはきっと罪にも近い。
 それでも、彼は俺と共に居てくれるという。それが何よりも嬉しかった。

「朋拓、ずっとすっと愛してる。誰よりも、愛してる」
「うん、俺も愛してるよ、唯人」

 ――だからいっしょに“罪”を犯してくれる? そう言いそうな口を、朋拓に塞がれる。絡み合う唇は甘く苦く、いまのふたりの心情にすごく近い気がした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

ヤクザに囚われて

BL
友達の借金のカタに売られてなんやかんやされちゃうお話です

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

イケメン幼馴染に執着されるSub

ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの… 支配されたくない 俺がSubなんかじゃない 逃げたい 愛されたくない  こんなの俺じゃない。 (作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...