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「だから俺、ここまですっごく順調に来てるんだよ? それでも考え直せっていうの?」
『だって、やっぱそこまでして子どもを、って……。そもそもさ、唯人、そんなにしてまで子ども欲しいんだったら養子もらおうよ。俺はそれでもいいって思ってるよ』
「…………」
『そりゃ、自分の本当の子どもがいたらいいなとは思うけど……でも、確実に安全に出来るかどうかもわからないのに危険なことして、更に妊娠してからも危険で……とかって、そんなの、唯人の身に何かあったら、俺、いやだよ』

 泣きだしそうな顔をしてそう訴える朋拓の姿に、ジリッと胸が焼けるように痛む。

『ディーヴァは俺に創作のインスピレーションをくれるミューズだし、唯人自身としても俺にとっては大切で掛け替えがない。心から愛してるって言えるよ。でもさ、俺らの関係を繋げておくのにどうしても唯人が命をかけてまで何かを産み出さなきゃいけないのかな? 俺らの関係ってそんなに弱い? 違うよね? 唯人だけに負担を押しつけなきゃ成り立たない関係ではないって俺は思ってる』

 彼が俺を愛してくれているのはわかる。わかるからこそ、危険を伴う治療を止めようとしていることもわからなくもない。
 でも、それを承知の上でも、俺は彼との子どもが欲しいことをわかってもらえないのが悲しくて、俺は目の前が滲んでいく。

「朋拓、家族がいたらなって言ってたじゃん……実家と仲が良いから、そういうのいいなぁって……」
『言ったかもしれないけど……でもだからって、唯人の命かけてまで作って欲しいなんて思ってないよ。もし俺に同じ事をしろって言われてもできないと思うから、そんなことを唯人にしろって言えないよ』
「じゃあ俺がやってるのはバカなことだからもうやめろって言うの?」
『バカって言うか、そうじゃなくて……考え直したらって言ってるんだよ。冷静に、ちゃんと考えて……』
 俺がどれだけ考えて、治療のことを調べて、そして薬の副作用に苦しみながらここまで来たと思っているんだろう。そのすべてを、ちゃんと考えてないバカなことで片づけようと言うんだろうか。
「考えたよ! 朋拓に言われなくても、ずっとずっと俺は考えてたよ! 俺だって好きな人との家族が欲しいんだよ! ずっとひとりだったから、血を分けた家族が見てみたいってずっと思ってて……だから、この治療があるって知って、嬉しくて……やっと願いが叶うって思って……それが、なんでちゃんと考えてないバカなことって言われなきゃなんだよ……」
『……唯人』
「俺だって、好きな人と自分に似た子どもとか抱いてみたい……そういうの、出来るかもしれないのに、叶えちゃダメなの……?」

 滲んだ視界が滴って頬を伝っていくのが止まらない。喜んで受け止めてくれると思っていたことをことごとく否定されて粉々にされていく感じがして、痛くて悲しい。
 ただ彼のことが好きで、愛していて、その命の証しが欲しいだけなのに。それが手にできるかもしれないのにあたまから拒絶されることが悲しくて悔しい。そんなことをされるために俺はここまで来たわけじゃないのに。
 ホログラム表示の朋拓の上に滴り落ちていく雫が朋拓をすり抜けて俺のひざに降り注ぐ。浴びるようにしている朋拓もまた戸惑いと苦しみの狭間にいるような顔をしている。

『唯人、そういうつもりじゃ……』
「じゃあどう言うつもりなんだよ……要するに、俺がやってることがイヤってことなんでしょ?」
『だって唯人が死んじゃうかもしれないことを、そんな簡単に賛成できないよ! 唯人の命は俺との命と同じくらい……いや、それ以上に大事だから、亡くすかもしれない事なんてさせたくない!』

 揺れるホログラムの向こうから朋拓が顔を歪めて叫ぶように訴えてくる。痛いほどに彼が俺を想っているのはわかる。わかるけれど、もう一歩こちらに踏み込んできて欲しい。ためらっているのがわかるから、苛立たしいし、悲しくて仕方ない。
 俺にとって自分の中にある子守唄と彼と愛し合って生きてきた証しを命をかけてでも命を産み出したいと思っているし、そう決意しているし、それは決して譲れない望みでもあるから、彼にもまた同じように向き合って欲しいだけだ。
 だから俺は、滲む視界の中で泣き崩れた顔をしている朋拓にこう告げる。

「俺は、命がけでもいいから、自分と朋拓との子どもが欲しい。それだけは、なんて言われようと叶えたいんだ」

 伝い落ちる雫を拭うこともせずに告げた言葉に朋拓の表情が痛々しく歪むのを見つめながら、俺は改めて心を決めていた。


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