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「なん、でそんなこと言うんだよ……」
「なんでもなにも、唯人はディーヴァでもあるのに、身体を壊しちゃったら誰があの歌声を作るの? 俺以外にもディーヴァを必要としてくれる人はいっぱいいるんだから、俺の子どもが欲しいからなんて言って無茶して唄えなくなったら申し訳が……」
俺はディーヴァだけれど、朋拓にとっては唯人であるんだと思っていた。だからこそここに駆けつけてくれて、俺を抱きしめてくれているんだと思っていた。それは俺を愛しているからで、俺の愛を受け止めてくれているからだと思っていた。
なのに――目の前の景色が滲んで歪む。揺れる朋拓の姿を、俺はにらみ付けて言い返す。
「申し訳ないってなんだよ……朋拓は事務所の社長か何かなの? 俺がディーヴァであろうとなかろうと、朋拓は俺のことを愛してくれてるんじゃなかったの? それとも俺がディーヴァであることで価値があるから、子ども産ませるなんて無茶でバカなことを止めろって言うの?」
涙があふれて止まらない。頬を伝う熱い雫につられるように声が引きつり、ヒステリックな叫びになってしまう。そんな声で言ったって、何も伝わらないのはわかりきっているのに。
取り乱したという形容がぴったりな俺の様子に朋拓は目を見開いて呆然とし、やがて慌てて俺をなだめようと抱きしめてきた。
「そ、そういうわけじゃないよ、唯人! ただ、俺のせいでディーヴァがいなくなったりするようなことになったら申し訳ないって……」
「だからその申し訳ないってなんだよ! 朋拓は事務所の関係者なの? 俺と結婚してるわけでも本当の家族でもないのに? それに、ディーヴァであることは俺が一番わかってるよ!」
言い方が、あんまりだったとは言ってしまってから気づいたけれど遅かった。朋拓にディーヴァのことで口出しされることを普段から嫌がっていることで反射的に出た言葉ではあったけれど、言っていい言葉でないことは確かだ。
世界的ディーヴァだからこそ、いま子どもを作りたいと言う俺の意思をどう尊重していくかをパートナーである彼にもサポートしてもらわないといけない。そのために平川さんは再三話合いをしろと言っていたんだろう。
だけど俺は、自分はあのディーヴァに愛されているという優越感に似た傲慢さを、朋拓の言葉の端々に勝手に感じ取って、一方的に腹を立てたに過ぎない。普段の状態なら聞き流したり、せめてどういう意味だと問いただしたりするくらいはできるはずなのに、心身に余裕がない状態のせいでそれすらもできず冷静さを失ってヒステリーを起こしてしまったのだ。
投げつけた言葉が見えたのなら、それは確実に朋拓を弾丸になって撃ち抜いただろう。ぽっかりと開いた彼の胸の穴からは涙のように心の血が流れている。
「……ごめん、唯人。そういうつもりじゃ、なかったんだけど……」
小さくちいさく朋拓がそう呟いたけれど、俺は受け止めることができず膝を抱えて泣いた。震える肩に朋拓が触れようとしたけれど、俺は身を捩って拒んでしまった。拒絶というよりも、いまどんな言葉も行動も朋拓から差し出されてもちゃんとした意味で受け取れる自信がなかったからだ。
重たく圧し掛かるような沈黙が病室内に満ち、俺のすすり泣く声だけが隙間を縫うようにこぼれていく。
最悪な形で露呈したお互いの気持ちは、白々と明るい病室に散らばって拾い集めることもできない。ちゃんと向き合えていなかったツケがいまここで爆発してしまったのか、ひどく混乱していたのは確かだ。
もう取り返しがつかないかもしれない――そんな絶望感さえ覚えて俺は胸が潰れそうだった。
「なんでもなにも、唯人はディーヴァでもあるのに、身体を壊しちゃったら誰があの歌声を作るの? 俺以外にもディーヴァを必要としてくれる人はいっぱいいるんだから、俺の子どもが欲しいからなんて言って無茶して唄えなくなったら申し訳が……」
俺はディーヴァだけれど、朋拓にとっては唯人であるんだと思っていた。だからこそここに駆けつけてくれて、俺を抱きしめてくれているんだと思っていた。それは俺を愛しているからで、俺の愛を受け止めてくれているからだと思っていた。
なのに――目の前の景色が滲んで歪む。揺れる朋拓の姿を、俺はにらみ付けて言い返す。
「申し訳ないってなんだよ……朋拓は事務所の社長か何かなの? 俺がディーヴァであろうとなかろうと、朋拓は俺のことを愛してくれてるんじゃなかったの? それとも俺がディーヴァであることで価値があるから、子ども産ませるなんて無茶でバカなことを止めろって言うの?」
涙があふれて止まらない。頬を伝う熱い雫につられるように声が引きつり、ヒステリックな叫びになってしまう。そんな声で言ったって、何も伝わらないのはわかりきっているのに。
取り乱したという形容がぴったりな俺の様子に朋拓は目を見開いて呆然とし、やがて慌てて俺をなだめようと抱きしめてきた。
「そ、そういうわけじゃないよ、唯人! ただ、俺のせいでディーヴァがいなくなったりするようなことになったら申し訳ないって……」
「だからその申し訳ないってなんだよ! 朋拓は事務所の関係者なの? 俺と結婚してるわけでも本当の家族でもないのに? それに、ディーヴァであることは俺が一番わかってるよ!」
言い方が、あんまりだったとは言ってしまってから気づいたけれど遅かった。朋拓にディーヴァのことで口出しされることを普段から嫌がっていることで反射的に出た言葉ではあったけれど、言っていい言葉でないことは確かだ。
世界的ディーヴァだからこそ、いま子どもを作りたいと言う俺の意思をどう尊重していくかをパートナーである彼にもサポートしてもらわないといけない。そのために平川さんは再三話合いをしろと言っていたんだろう。
だけど俺は、自分はあのディーヴァに愛されているという優越感に似た傲慢さを、朋拓の言葉の端々に勝手に感じ取って、一方的に腹を立てたに過ぎない。普段の状態なら聞き流したり、せめてどういう意味だと問いただしたりするくらいはできるはずなのに、心身に余裕がない状態のせいでそれすらもできず冷静さを失ってヒステリーを起こしてしまったのだ。
投げつけた言葉が見えたのなら、それは確実に朋拓を弾丸になって撃ち抜いただろう。ぽっかりと開いた彼の胸の穴からは涙のように心の血が流れている。
「……ごめん、唯人。そういうつもりじゃ、なかったんだけど……」
小さくちいさく朋拓がそう呟いたけれど、俺は受け止めることができず膝を抱えて泣いた。震える肩に朋拓が触れようとしたけれど、俺は身を捩って拒んでしまった。拒絶というよりも、いまどんな言葉も行動も朋拓から差し出されてもちゃんとした意味で受け取れる自信がなかったからだ。
重たく圧し掛かるような沈黙が病室内に満ち、俺のすすり泣く声だけが隙間を縫うようにこぼれていく。
最悪な形で露呈したお互いの気持ちは、白々と明るい病室に散らばって拾い集めることもできない。ちゃんと向き合えていなかったツケがいまここで爆発してしまったのか、ひどく混乱していたのは確かだ。
もう取り返しがつかないかもしれない――そんな絶望感さえ覚えて俺は胸が潰れそうだった。
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