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 そうして現場に着いて、いつものように別室でのレコーディングを開始する。いまレコーディングしている曲が昨日朋拓に見せられた絵のジャケットの曲でもある。
 曲の雰囲気はダークな雰囲気の漂うバラード調の失恋ソングだ。フラれて相手を呪うような曲みたいになった気もしたのだけれど、朋拓が描いた絵がその雰囲気を良い感じにゴシックな感じにしてくれたのでそのダークさがかえっていい感じに合っていると思う。
 今日はその歌入れの最終日で、これが出来上がればあとはミックスしてもらって音源としてはすることが終わってリリースを待つばかりだ。
 普段なら三回ほどテイクを重ねればOKが出るし、俺も納得がいくのだけれど、今日はなんだかうまく歌えない。それになんだかお腹が痛い気がする。

『ディーヴァ、さっきのテイクでもいいんじゃないかな』

 アレンジャーがそうブースの向こうから言うのだけれど、俺は首を縦に振る気はない。
 何かが変だった。声がいまいち伸びなくて高音域が突っかかる感じがして気持ちが悪いのだ。いつもならもっと気持ち良く声が出るのに。お腹に力が入らないせいで声が出ないんだろうか。

「唯人、ちゃんと唄えてるよ。そんなに無理しないで」
「ごめん、あと一回だけやらせて」
「でもいまのあんた、顔色真っ青だよ」
「え……?」

 汗もこんなにかいて、と平川さんからタオルを差し出されて受け取ろうとした時、足許が歪んだ気がした。地震かと思ってふんばろうとしたのに、それさえも床に沈み込むように崩れていく。
 どうにかタオルは掴んだけれど、その手は確かに汗をびっしょりかいている。スタジオはどこも快適な温度にコントロールされているのに。
 あ、ヤバい……そう思った次の瞬間、目の前が真っ暗になって背後から殴られたかのように体が揺れて崩れていった。

「唯人!!」

 平川さんが抱きとめるように支えてくれたけれど、それでは間に合わないほど全身の力が抜けていく――
 暗くなった視界の中で、お腹が痛いのだけがはっきりと解っていた。じんじんとベース音のように響く感じが気持ち悪い。
 それからスタジオは大騒ぎだったらしく、俺はすぐに救急車で病院へ――それで俺がかかりつけの帝都大医大へ搬送されることとなったのだ。
 朦朧もうろうとする意識の端で、「彼はコウノトリプロジェクトの患者なんです」と、平川さんが救急隊に説明する声がしたり、俺の荷物の中から投薬記録のコウノトリノートのアプリが入っているタブレットが引っ張り出されたりして騒然としているのがわかった。そういった経緯からも帝都大病院に運ばれたんだろう。
 投薬の関係で使える薬が限られているかもしれないと言うことがわかっている平川さんがすぐ近くにいてくれてよかった……そう思いながら、俺は意識が遠のいていくのを感じた。


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