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「それ、は……どういうこと?」
「唯人がディーヴァのことで色々言ったりなんかするの嫌がるし、事務所の人からもオーディションで仮決定になるまでは唯人に黙っておいてねって言われてて。で、仮決定に決まったら作品を見てもらって、唯人がいいって言ってくれたらジャケに本採用されるかなって思ってさ。ごめん、色々黙ってて……」
朋拓の言い分は正しいし、事務所の言い分もあるのだろう。そもそも俺は彼の前では唯人でいたいから、ディーヴァの話をするなと言っているし、仕事を思い出すから、出来ることなら映像も音源も見たくも聴きたくもないと言っている。そんな奴にディーヴァとの仕事をすることになったなんて言いにくいだろう。それでも作品は見て欲しいからここには黙って連れてきた、というのも納得がいく。つまり、朋拓にはなんの非はない。
非と言うか、何が納得いかなかと言えば平川さんだ。彼女はこのことを既に知っていたんだろうか?
ディーヴァのジャケットのデザインなどでマネージャーである彼女が俺よりも先に事態を把握していることはあり得るとして、じゃあなんで独島唯人である俺がディーヴァであることも、そのディーヴァである俺の恋人が朋拓であることも知っている彼女がすべて黙っていたのだろうか。
事務所的に守秘義務があるから仕方ないにしても、さっきの言い方ってどうなんだろう? サプライズのつもりなのかもしれないけれど、俺はそういうやり方は好きじゃない。なんだか騙されているみたいで、イヤな気分がするから。
「……唯人? やっぱ、怒ってる?」
俺が絵を見つめたまま黙り込んでしまったからか、朋拓は不安そうに俺の顔を覗き込んでくる。その表情に俺はハッと我に返り慌てて首を横に振った。
「あ、いや……まさか、大きな案件っていうのがディーヴァの仕事なんて思わなかったから……ちょっと、びっくりして……」
「だよねぇ、俺もさ、話が来た時すっげーびっくりしてさぁ。話聞いた時一瞬、え? 詐欺? って思っちゃったもん」
朋拓はSUGARのポートフォリオで作品を公開しているし、それなりに名の知れたイラストレーターではあるから、事務所の誰かが目を付けたのかもしれない。偶然の中のすごい偶然が起こったんだろう。そう、思っていた。
だけど朋拓の次の言葉を聞いて俺は偶然を否定されたのだ。
「実はさ、マネージャーの平川さん、だっけ。その人から連絡があったんだよね、SUGARの俺のとこにメッセージ送ってくれてさ、ディーヴァの新曲のジャケットのコンペがあるから応募して見ないかって言われたんだよね」
まさかの彼女からのオファーだったことに俺は驚きを隠せなかったけれど、それを朋拓にぶつけるのは違うので何とか黙って話の続きを聞き続ける。
朋拓曰く、コンペ自体はすごく公正に行われたらしく、ラフ案からの審査を経て作品作りに入った上で完成させてつい昨日、コンペの最終審査を受け、仮決定に決まったんだそうだ。
「本当に採用されるかは俺もまだ知らないけれど、こうやって唯人にいいねって言われたら、唯人の……ディーヴァの新曲のジャケに本採用される気がしてきたよ」
ありがとう、と既に採用されたかのようににこやかにしている朋拓の顔を見ながら、俺は何とも言えない気持ちだった。
恋人であることを知りつつコンペに出させて、しかも本採用するかもしれないなんて。サプライズのつもりなのかもしれないけれど、こういう事をしないでただストレートに採用したいと言ってくれたらいいのに。
それとも、これは俺がまだ朋拓にコウノトリプロジェクトの話をできていない事の当てつけなんだろうか? とさえ思えてくるのは俺の根性が歪んでいるだろうか。
朋拓の作品を俺の作品のジャケットに使ってもらえるのは嬉しいことに変わりはない。本当なら抱き着いて喜びを表したいくらいなのに……俺は心の底から祝福できず曖昧に笑うしかできなかった。
「唯人がディーヴァのことで色々言ったりなんかするの嫌がるし、事務所の人からもオーディションで仮決定になるまでは唯人に黙っておいてねって言われてて。で、仮決定に決まったら作品を見てもらって、唯人がいいって言ってくれたらジャケに本採用されるかなって思ってさ。ごめん、色々黙ってて……」
朋拓の言い分は正しいし、事務所の言い分もあるのだろう。そもそも俺は彼の前では唯人でいたいから、ディーヴァの話をするなと言っているし、仕事を思い出すから、出来ることなら映像も音源も見たくも聴きたくもないと言っている。そんな奴にディーヴァとの仕事をすることになったなんて言いにくいだろう。それでも作品は見て欲しいからここには黙って連れてきた、というのも納得がいく。つまり、朋拓にはなんの非はない。
非と言うか、何が納得いかなかと言えば平川さんだ。彼女はこのことを既に知っていたんだろうか?
ディーヴァのジャケットのデザインなどでマネージャーである彼女が俺よりも先に事態を把握していることはあり得るとして、じゃあなんで独島唯人である俺がディーヴァであることも、そのディーヴァである俺の恋人が朋拓であることも知っている彼女がすべて黙っていたのだろうか。
事務所的に守秘義務があるから仕方ないにしても、さっきの言い方ってどうなんだろう? サプライズのつもりなのかもしれないけれど、俺はそういうやり方は好きじゃない。なんだか騙されているみたいで、イヤな気分がするから。
「……唯人? やっぱ、怒ってる?」
俺が絵を見つめたまま黙り込んでしまったからか、朋拓は不安そうに俺の顔を覗き込んでくる。その表情に俺はハッと我に返り慌てて首を横に振った。
「あ、いや……まさか、大きな案件っていうのがディーヴァの仕事なんて思わなかったから……ちょっと、びっくりして……」
「だよねぇ、俺もさ、話が来た時すっげーびっくりしてさぁ。話聞いた時一瞬、え? 詐欺? って思っちゃったもん」
朋拓はSUGARのポートフォリオで作品を公開しているし、それなりに名の知れたイラストレーターではあるから、事務所の誰かが目を付けたのかもしれない。偶然の中のすごい偶然が起こったんだろう。そう、思っていた。
だけど朋拓の次の言葉を聞いて俺は偶然を否定されたのだ。
「実はさ、マネージャーの平川さん、だっけ。その人から連絡があったんだよね、SUGARの俺のとこにメッセージ送ってくれてさ、ディーヴァの新曲のジャケットのコンペがあるから応募して見ないかって言われたんだよね」
まさかの彼女からのオファーだったことに俺は驚きを隠せなかったけれど、それを朋拓にぶつけるのは違うので何とか黙って話の続きを聞き続ける。
朋拓曰く、コンペ自体はすごく公正に行われたらしく、ラフ案からの審査を経て作品作りに入った上で完成させてつい昨日、コンペの最終審査を受け、仮決定に決まったんだそうだ。
「本当に採用されるかは俺もまだ知らないけれど、こうやって唯人にいいねって言われたら、唯人の……ディーヴァの新曲のジャケに本採用される気がしてきたよ」
ありがとう、と既に採用されたかのようににこやかにしている朋拓の顔を見ながら、俺は何とも言えない気持ちだった。
恋人であることを知りつつコンペに出させて、しかも本採用するかもしれないなんて。サプライズのつもりなのかもしれないけれど、こういう事をしないでただストレートに採用したいと言ってくれたらいいのに。
それとも、これは俺がまだ朋拓にコウノトリプロジェクトの話をできていない事の当てつけなんだろうか? とさえ思えてくるのは俺の根性が歪んでいるだろうか。
朋拓の作品を俺の作品のジャケットに使ってもらえるのは嬉しいことに変わりはない。本当なら抱き着いて喜びを表したいくらいなのに……俺は心の底から祝福できず曖昧に笑うしかできなかった。
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