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「あらぁ、そう。でもそれはまあそうでしょうねぇ」
翌日、自分の部屋に戻りながらの道中、次の曲のコンセプトの話し合いをレコーディングスタッフとリモート会議の前に、平川さんと二人で話をする時間があったので昨日の話……というか、愚痴を言った。そしたらこの反応。
「それはそう、って……でもさぁ、もしかしたら俺がそういうのを望んでいるかもってチラッとでも想像してくれたって良くない?」
「まあそうではあるけれど、それはちゃんと口にしてみないとわからないことだしねぇ」
「事務所の社長だっていいっていてくれたし、平川さんだっていいと思ってくれてるし、何よりあいつは俺とのこと家族になりたいと思ってくれていると思ったのに……」
「仮定の話であっても彼は唯人のことが心配なんだよ、命がけなのは確かなんだから」
良い彼氏じゃない、と言う平川さんの言葉も、朋拓の考えも間違いだとは俺には言い切れないし、似たような理由でコウノトリプロジェクトに強く反対する人は多いし、断念する人たちもいる。それだって相手を想ってこその考えから来ている。
だからこその今回の公費の増額が決まったのだろうし、逆に言えばそうまでしないとこの国の人口減少は止められないとも考えられる。
じゃあ俺の望みはその人口減少を食い止めたいからプロジェクトに参加するという志なのか、と言うと、そうではなく、ただひたすらに個人的な望み――俺と血を分けた我が子を抱き、俺が唯一知る子守唄を歌い継ぎたい、という望みを叶えたいだけだ。それをワガママだと言われてしまえばそれまでの話になってしまうのだけれど。
単純に俺が朋拓を愛しているから、コウノトリプロジェクトにいますぐにでも朋拓の賛同得て妊娠出産を、と考えるのにはもう一つワケがある。
コウノトリプロジェクトには、自然妊娠が難しい女性の身体を妊娠させる治療と、男性の身体を母体としての妊娠と出産を行うために治療を施すことがあり、俺が挑みたいのは後者だ。
そのためには自分の細胞を採取して卵子を作り出し、相手の精子と体外受精で掛け合わせた受精卵を胎内となる腹腔に着床させることで妊娠とするらしい。妊娠の維持継続のためには女性ホルモンを常に投与し続けることが必要なのだが、それだけで済む話じゃないからだ。
「だって、卵子を作って、受精卵作って、妊娠……ってなるまでだって半年くらいかかるし、一度妊娠を失敗したら次の治療に取り組むまでに体を休ませなきゃいけない。そもそも妊娠できるにものタイムリミットがあるって言うし……そういうの考えたら、悠長に構えてられない。だからいますぐにって思ってるのに……」
「唯人の言い分もわかるけれど、そもそも相手の同意もなにもまだないじゃない」
「……だからどうしようって思ってるんだよ。時間も限られてるし」
「唯人が焦る気持ちもわかるけれど、急がば回れって言うでしょ?」
「じゃあ平川さんは、やっぱり反対?」
ミーティングルームの画面に表示されている平川さんに訴えかけるように問うと、彼女は困ったように苦笑する。
「個人的な話で言えば、私は唯人の親代わりをしているから、親としては唯人の気持ちを応援したくはあるよ」
「だったら……!」
「でもね、これは親だとかマネージャーだとかと言って私が口出しする話じゃないと思うの。唯人と、唯人のパートナーとの話。他人がどうこう言えることじゃないから」
だからちゃんとふたりで話合わなきゃ、と言われたのだけれど、それができる可能性があるならいまこうして愚痴は言っていないんだけれど……という思いを呑み込み、俺はひとまずうなずく素振りはした。
(やっぱり、精子だけもらうっていう手しかないのかな……子どもを産むというゴールは同じだろうけれど……ただ精子提供だけっていうのはなんか、違う気がするんだよなぁ……)
俺としては朋拓も同じ気持ちでいてくれた上で挑みたいから、精子だけくれたらそれでいい、という考えは最終手段でしかないのだけれど……果たして上手くいくのだろうか。
でもいま確実に子どもを宿せそうなのは、精子だけをどうにか提供してもらうしかない気がする……しかもそれさえも確約できない……その現実が俺を暗澹たる気持ちにさせていた。
(それとも、愛されているのを感じた上で子どもを産みたいっていうのは、俺みたいなやつには贅沢なワガママなんだろうか……)
他のカップルの事例を聞いたことがないから余計に俺は現状の困難さがわからずただ一人で思い悩むしかない。
翌日、自分の部屋に戻りながらの道中、次の曲のコンセプトの話し合いをレコーディングスタッフとリモート会議の前に、平川さんと二人で話をする時間があったので昨日の話……というか、愚痴を言った。そしたらこの反応。
「それはそう、って……でもさぁ、もしかしたら俺がそういうのを望んでいるかもってチラッとでも想像してくれたって良くない?」
「まあそうではあるけれど、それはちゃんと口にしてみないとわからないことだしねぇ」
「事務所の社長だっていいっていてくれたし、平川さんだっていいと思ってくれてるし、何よりあいつは俺とのこと家族になりたいと思ってくれていると思ったのに……」
「仮定の話であっても彼は唯人のことが心配なんだよ、命がけなのは確かなんだから」
良い彼氏じゃない、と言う平川さんの言葉も、朋拓の考えも間違いだとは俺には言い切れないし、似たような理由でコウノトリプロジェクトに強く反対する人は多いし、断念する人たちもいる。それだって相手を想ってこその考えから来ている。
だからこその今回の公費の増額が決まったのだろうし、逆に言えばそうまでしないとこの国の人口減少は止められないとも考えられる。
じゃあ俺の望みはその人口減少を食い止めたいからプロジェクトに参加するという志なのか、と言うと、そうではなく、ただひたすらに個人的な望み――俺と血を分けた我が子を抱き、俺が唯一知る子守唄を歌い継ぎたい、という望みを叶えたいだけだ。それをワガママだと言われてしまえばそれまでの話になってしまうのだけれど。
単純に俺が朋拓を愛しているから、コウノトリプロジェクトにいますぐにでも朋拓の賛同得て妊娠出産を、と考えるのにはもう一つワケがある。
コウノトリプロジェクトには、自然妊娠が難しい女性の身体を妊娠させる治療と、男性の身体を母体としての妊娠と出産を行うために治療を施すことがあり、俺が挑みたいのは後者だ。
そのためには自分の細胞を採取して卵子を作り出し、相手の精子と体外受精で掛け合わせた受精卵を胎内となる腹腔に着床させることで妊娠とするらしい。妊娠の維持継続のためには女性ホルモンを常に投与し続けることが必要なのだが、それだけで済む話じゃないからだ。
「だって、卵子を作って、受精卵作って、妊娠……ってなるまでだって半年くらいかかるし、一度妊娠を失敗したら次の治療に取り組むまでに体を休ませなきゃいけない。そもそも妊娠できるにものタイムリミットがあるって言うし……そういうの考えたら、悠長に構えてられない。だからいますぐにって思ってるのに……」
「唯人の言い分もわかるけれど、そもそも相手の同意もなにもまだないじゃない」
「……だからどうしようって思ってるんだよ。時間も限られてるし」
「唯人が焦る気持ちもわかるけれど、急がば回れって言うでしょ?」
「じゃあ平川さんは、やっぱり反対?」
ミーティングルームの画面に表示されている平川さんに訴えかけるように問うと、彼女は困ったように苦笑する。
「個人的な話で言えば、私は唯人の親代わりをしているから、親としては唯人の気持ちを応援したくはあるよ」
「だったら……!」
「でもね、これは親だとかマネージャーだとかと言って私が口出しする話じゃないと思うの。唯人と、唯人のパートナーとの話。他人がどうこう言えることじゃないから」
だからちゃんとふたりで話合わなきゃ、と言われたのだけれど、それができる可能性があるならいまこうして愚痴は言っていないんだけれど……という思いを呑み込み、俺はひとまずうなずく素振りはした。
(やっぱり、精子だけもらうっていう手しかないのかな……子どもを産むというゴールは同じだろうけれど……ただ精子提供だけっていうのはなんか、違う気がするんだよなぁ……)
俺としては朋拓も同じ気持ちでいてくれた上で挑みたいから、精子だけくれたらそれでいい、という考えは最終手段でしかないのだけれど……果たして上手くいくのだろうか。
でもいま確実に子どもを宿せそうなのは、精子だけをどうにか提供してもらうしかない気がする……しかもそれさえも確約できない……その現実が俺を暗澹たる気持ちにさせていた。
(それとも、愛されているのを感じた上で子どもを産みたいっていうのは、俺みたいなやつには贅沢なワガママなんだろうか……)
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