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「でもさ、コウノトリプロジェクトで男が子ども産むって本当に命懸けなんだってね。子ども産める女のひとでもお産に危険はつきものって聞くけど、そういうのと比じゃないとかっていうし」
「あ、う、うん……でもさ……」
「だからさ、俺が産めるかって言われたら、無理だなって思うし、もちろん唯人に産んでくれっていうの俺は出来ないなぁ……下手したら死んじゃうようなことを、大切な相手に押し付けてまで子どもをどうしても欲しいとは思わないよ」
「…………」
「コウノトリプロジェクトに頼らなくても、子どもなら代理出産もあるし、養子を迎えることだってできる。血の繋がりがすべてじゃないし、何より、命がけな危険なこと、俺はしたくないしさせたくはないな」

 朋拓の口調は穏やかではあったけれど言葉ははっきりとしていて、ただの出まかせでないことが俺にはわかった。だから、俺はそれ以上コウノトリプロジェクトに関する話を、推し進めることができなくてうつむくしかない。
 朋拓のような意見は依然世間でも根強いのは事実で、コウノトリプロジェクトに反対している人たちも一定数いるという。そういうのもあるから、国は治療にかかる費用とか補償とかも手厚くしようというのだろう。
 そうは言っても、環境劣悪になったこの惑星にいまどれほど健康で妊娠出産が可能な母体となる女性がいるというのだろう。そして妊娠出産にはタイムリミットがあっていつでも可能なことではない。それでなくとも、健康な現役世代も、人口そのものが少なくて社会を維持するためにぎりぎりの労力しかないとも言われている。
 それに、俺がこのプロジェクトに参加した理由は人口減問題と関係があるというよりも、むしろ俺の生い立ちに関係していることだから、その話もしなくてはならないんだけれど……そこまで話せる気がしない空気だ。
 朋拓の言葉に言い返したいのに、あらゆる情報が頭の中で錯綜して上手くまとまらない。どう言えばちゃんと朋拓を納得させられるかがわからず、途方に暮れてしまう。

「……なんで、そこまで言うの? コウノトリプロジェクトで男性でも子どもを産めば世界の人口が増えて社会が安定するっていうじゃん」

 ようやくの思いでそれだけを言い返したのだけれど、朋拓は少し考えて苦笑しながらこう更に返してきた。

「そうかもしれないけれどさ、もともと男には出来ないことを、無理やり身体を改造するみたいにしてまでしなきゃいけないのかな、って俺は思う。しかも命の危険を冒してまで、って。それって人口増やすことに矛盾してない? 命増やしたいのに命削るっていうの、余計にマイナスじゃん」
「それは……そうかもしれないけど……でも、」

 でも俺は、朋拓との子どもが欲しいんだよ。人口減の話もだけれど、なにより愛し合っている朋拓との子どもが欲しいし、家族になりたい。他の人たちだってきっとそうなんじゃないかな――そう言いたかったのに、朋拓の言葉を前にそれ以前の話で躓いてしまって、本当に一番伝えたい言葉の前に厚い壁が立ちはだかる。
 口ごもる俺の様子を知ってか知らずか、朋拓はこう畳みかけるように言って俺のうつむく頭を撫でてなだめてきた。

「出来ないことを無理矢理にする、させるっていうのはさ、神様にも反することで罰が当たるんじゃないかなって俺は思うよ。まあ、べつに何か宗教を信じているわけじゃないけど……それでも、人の命に関わることは簡単に扱ったりしちゃいけないと思うし、そういうのに俺は関わりたいと思えないし、唯人にも関わって欲しくない。そんな責任、俺は取れるかわからないし」

 つまりは、コウノトリプロジェクトそのものに賛同できないという事であり、仮に俺が賛同して協力して欲しいなんて言い出しても受け入れられないという事とも言える。
 さっきいだいた希望の光が、たちまちに陰り暗い雲に覆われていく。絶望の色をした心象風景に、俺は目の前が暗くなっていくほどのショックを受けていた。

「……そう、わかった」

 それだけを呟くのが精いっぱいで、俺はそれから特に何を話すでもなく朋拓の寝室のベッドに潜り込んで眠った。普段なら、リビングで他愛ない話をしながらどちらからともなく互いの身体に触れ合って、セックスになだれ込むような夜になるのに、そんな気分にはとてもなれなかったのだ。
 朋拓は心配そうに様子を伺いに何度も俺に声を掛けてきたけれど、俺は背を向けて応えなかった。応えられるほどの余裕さえも、拒まれた悲しみに呑み込まれていったからだ。


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