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*1-2(R15)

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「……これに登録とか参加とかしたら、俺も子どもが持てるかもってことなのかな……」

 コウノトリプロジェクトの詳細をさらに調べようとしたら、その内に片付けを終えた朋拓が戻ってきて、画面から遮るように俺に抱き着いてくる。

「ゆーいと。何してんの?」
「んー、ちょっとね……」
「まだ怒ってる?」

 俺が嫌がるのに、結局最後までライブ映像を流していたことを言っているのだろう。
 コウノトリプロジェクトが気にかかって調べていて少し忘れかけていたけれど、朋拓はさっき俺を少し不機嫌にしたのだった。
 ここでもう機嫌よく愛想を振りまくのが何となく癪な気がして、スマホの表示を消しながらソファにうつ伏せて顔をうずめる。その背中を、朋拓は包むように抱き着いてくる。

「ねえ、こっち向いてよ、唯人」
「やーだ。俺が今日来るの知ってて、しかもいま横にもいるのに、ああいうの見てる朋拓がどうかしてる」
「だってさぁ、昨日も見たかったけど仕事忙しくてアーカイブ見れてなかったんだから仕方ないじゃん~」

 普段、俺に見せたり聞かせたりしている態度と声色より、緩く甘い雰囲気のそれが忘れかけていた苛立たしさを思い出させる。そうだった、朋拓は俺の恋人でありながらも、ディーヴァのガチ勢だった、と。
 イライラと背後を振り返りながら「本番も関係者席で見てたって言ってたじゃん。バカなの?」と、言うと、「恋人の最高な姿褒めてるのにバカ呼ばわりってひどくない?」と朋拓は言い返してくる。その顔に反省の色はない。
 だから余計に腹が立って、俺は払うように手を振り上げる。

「うるさい! バカはバカだ!」

 ああ、本当に腹立たしい。なにが悲しくて自分がバーチャルで作り上げたものに負けなきゃなんだろう。朋拓はリアルな俺に惚れて付き合っているんじゃなかったの? そう怒鳴りつけたいけれど、そうしてしまうとあまりにみじめでみっともないのは流石にわかるので、ただ顔を背けるしかない。そこまで俺だって恥知らずじゃないつもりだから。
 でも、朋拓には俺がディーヴァ絡みで不機嫌になるのは見透かされているし、あえてそれを利用して俺が拗ねるのを楽しんでいる節すら彼にはある気がして――だから、余計に俺は彼にディーヴァに夢中なられるのが腹立つんだ。そのままの俺だけを見て、触って、抱いてほしいのに。

「ゆーいと」

 リビングのスクリーンを消し、甘い声で俺の名を呼びながら、朋拓が俺の濃紺の長い襟足に触れてくる。きっとそのあとには、彼より痩せっぽちで頼りない肩を抱くつもりなんだろう。
 ソファに身を沈めるように顔を背けている俺に、朋拓は頬ずりするように身を寄せてくる。

「ごめん、いいライブだとすっごい作業がはかどるんだよね」
「……作業がはかどるんだったら、俺はほったらかしでもいいわけ? 恋人の俺が大事なんじゃないの?」
「それは……ごめん、唯人」
「…………」
「そんな怒んないでよ……ねえ、どうやったらこっち向いてくれる?」

 許しを請いながらも、ちゃっかり朋拓は俺の肩に触れている。耳元まで近づいて囁いてきた言葉の混じった吐息が俺の聴覚を震わせて過敏に反応するのを、朋拓は知っているのだ。
 小さな音を立てて朋拓が俺のうなじに口付ける。そこから許しを請うと言う名の甘い誘いを注ぎ込むようにしながら、刻むように。

「ん……っんぅ」
「ねえ唯人、ちゃんとキスしたいから、こっち向いてよ」
「……っや、だ」
「頑固だなぁ……こうしたら、いい?」
「ッあ、ん!」

 絶対に振り向くものかと思っていたのに、肩に触れていた手がするするとシャワーを浴びたあとルームウェアのパンツだけ身に着けていた背中に触れながら下へ降りていき、その中へと滑り込む。そっちだって期待していたんだろう? と言いたげな指先にまさぐられ溜め息しか出ない。
 大きくて骨っぽい朋拓の指がまるで拗ねた幼子をあやすように甘くまさぐりながら丁寧に俺の下腹部に触れてソファへと押し倒してくる。
 そうしてもう一つの手は何も身に着けていない曝け出されたままの胸元を摘まむ。

「っや、んぅ!」
「唯人の白い肌が赤ぁくなってきてる……きれいだね……細くて華奢きゃしゃだからいつも抱くのドキドキするよ。壊しちゃいそうで」
「……よ、く言うよ……このあと、めちゃくちゃ、に、突っ込んでくるくせ、に……ッあぁ!」
「ホントだよ。唯人は俺なんかよりうんと細くて小さくて、そこら辺の女の子なんかよりきれいでかわいい」

 きれいとかわいいが共存するもんか、と言いたいのに、口からこぼれるのは彼から与えられた快感にあえぐ声ばかり。本当はそんなことが言いたいわけじゃないのは自分でもわかりきっているので、ただされるがままになってしまう。

「一八〇の身長、じゃ……一六〇なんてかわいい、も、ンなん、で、しょ……ッあ、ん」

 身長とか筋肉量とか体格の差でそう見えるんじゃないかと主張する俺を黙らせるように、朋拓がキスを繰り返す。
 下腹部に触れられて扱かれていく内に朋拓の腕の中に納まってしまい、その内にぐずぐずとそちらへ向かされてまたキスをされていた。舌を挿し込みなぶってくる、容赦のないキスだ。

「ン、ンぅ……っは、あ」
「唯人、ごめんね。ディーヴァな唯人ばっかり観ちゃうけど、リアルの唯人が誰よりも好きだから」
「……信じて、いいの?」

 乱された息を弾ませながら、それでも強気を崩さないで問うと、朋拓はさっきのバツの悪そうな顔とは違った真剣な顔をして、力強くうなずいて正面からまた触れるだけのキスをしてきた。

「――信じて、唯人。俺が唯人をちゃんと愛してること」

 真剣で射貫くような眼差し。人懐っこいタレ気味な目許は笑うと線になってなくなってしまうのに、こういう時だけ何よりも鋭く見開かれる。
 この眼差しがあるから彼に抱かれたくなるし、もっと愛されたくなる。そして出来ることなら……彼との子どもが欲しいと思い、願う。叶うはずのない願いを、今日も愛しい彼の腕の中でしてしまう。

「誓って言える?」
「誓って言えるよ」

 あまりに真剣な表情過ぎて、頑なに拗ねているのが馬鹿らしくなってくる。だから誓うのかと問いながらも俺の声は笑い含みだ。それが、俺が朋拓を許した合図でもある。

「じゃあ、今日は信じてあげる」
「今日だけ? 明日からは?」
「どうしようかなぁ」

 こうなってくると、もう朋拓も射貫くような眼差しから、じゃれつくような懐っこさをまとうようになっている。下腹部や胸元に触れる指先にもその甘さがにじみ、先ほどまでとは違った快感を与えてくるのだ。
 覆い被さりながら下腹部の手はそのままさらに奥の秘所へと向かい、胸元の指はさらに激しくまさぐる。

「ん、ッは、あぁ、ん」
「ねえ、どうすんの、唯人……教えてよ」
「あ、ンぅ……信じ、るぅ! ッはぁう! 信じるからぁ!」

 だから、このまま俺に朋拓の精液をたっぷりと注いでよ……たとえ、この身に命が宿らないとわかりきっていても――
 言えない言葉を口伝えするように、俺から朋拓に抱き着いてキスをする。唯一お互いを愛している証明として存在する手段として、刷り込むように、強く激しく。
 そうして今夜も、俺は本当のことをなに一つ愛しい彼に言わないまま抱かれるのだった。


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