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第1章 幼少期
20話 姫初めてのスラム(中編)
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[コルラド王国城下 北西地区現スラム街]
教会前に着く三人。
一人の女の子がボロボロの門の塀の陰からヒョコっと顔を出す。
その女の子は薄い茶色い髪に、毛先が黒くボブカット風、歳はパッと見七歳ぐらいに見える。
そして、少し鼻が黒く見え、ヒクヒクしている。
最大の違いは、頭の上に垂れた耳が乗っていた。
(あれ!獣人の子じゃない!?)
マイは目をキラキラさせ興味深々である。
セイドに降ろしてもらい教会風の建物に近付く。
「こんにちは!言葉は分かるかな?もし良かったら大人の方とお話したいのだけど?」
マイが優しい声で、小さい獣人の女の子に聞く。
獣人の子は鼻をクンクンして小さく頷く。
そして小さな声で、
「こっち・・」
三人はすんなり教会の敷地内に入る。
「母さん・・誰かキタ・・」
獣人の子が畑で働く初老の女性の元に駆けていく。
初老の女性が顔をあげる。
少し頬がこけて、日焼けはしているが、若い時はとても綺麗だったと伺える。
「あら、セイドにソニアも!お帰り!久しぶりね!いつもお給金から寄付を貰って悪いわね、ありがとう」
初老の女性がセイドとソニアに頭を下げる。
「頭を上げて母さん!全然気にしないで!!」
「そうだよ母さん!俺達が好きでやってるんだから!」
二人が深々と頭を下げる。
目尻には薄っすらと涙を浮かべる。
(久しく来てなっかたけど母さんが元気でよかった・・でも少し痩せすぎ・・)
ソニアは育ての親が、痩せていってる事に敏感に気付き心配していた。
「それで、そこのお嬢様がマイ姫様かな?」
女性はマイに気付いていて、自分から声を掛け、綺麗な敬服のポーズをとる。
「どうぞ普通に接して下さい、今回はお忍びで来ているので、もし宜しければお名前を聞いても?
そしてお時間が有れば、わたしのお話を聞いて下さいませんか?」
マイが女性に親切な物言いで答える。
「分かりましたマイ姫様、私の名前はミルと言います。
皆さん一度教会に戻って、水分を取りましょう」
笑顔で答えるミル、そして畑で作業していた4名の子供達と、マイ達を連れて来てくれた獣人の子供に声を掛ける。
『はーい!』
そしてみんなで教会に入る。
そこは、聖堂は無く、居間ぽい空間(家具等は無い)に奥に扉の無い食堂が見え、寝室だろう部屋が二部屋しか無い。
「狭い所ですけどどうぞ、今白湯を用意しますね。
皆は食堂でお水を飲みましょう」
ミラが三人を案内する。
「母さん、今日は私が用意するから姫さまとお話して!みんな食堂に行きましょ」
ソニアが帽子を取り、バスケットを持って食堂に向かう。
子供達はバスケットの中身が気になっているのか、ぞろぞろ着いて行く。
先程の獣人は中身に気付いている様で、笑顔で我先に入っていった。
(やはり獣人は鼻が利くのね、この感じだと身体能力や、聴覚もかなり良さそう、精神力が人族より少なく感じる)
マイが獣人を特徴を見抜く。
マイの精神力の判別方法は色の感じと、精霊の量で分かる。
子供の場合精神力が駄々洩れなので分かりやすいが、マイの様に上手に隠す事ができる場合は分かりずらい。
騎士達や、ある一定の修練を受けている者は精神力の調整ができるので、一概に精神力が少ないとは判別できない。
マイは精霊を見れる目が有るので、その感覚で相手の得意属性が分かるのだ。
ミラがどうしましょうと言う感じでおろおろする。
「ミラ様どうかしましたか?」
マイが首を傾げながら聞く。
「ここの居間には座る場所すらなく、応接できる場所もございませんのでどうしたものかと・・」
ミラは王族がこんな辺鄙な所に来るとは思っていなかった。
ユリウスが何度も来ているが、あくまで玄関先までしか基本来ない。
この無法地帯に足を踏み入れた王族は、反社会勢力打倒に動いたコルラド王のみである。
ミラが困惑するのもうなずける。
マイはすっと帽子を取り綺麗な金髪がファサっと出る。
マイは首を振り、髪を整え居間の床に座る。
「マイ姫様!この様な場所に座るなんて!」
セイドがマイの行動にビックリし止めようとする。
「いいのセイド、ここで話しましょ、別に王族だから座る場所が決まっている訳では無いでしょ?
わたしが、ここに座りたいからここに座るの、立って話す内容では無いからここで話しましょ」
ミラはびっくりしてあわあわしている。
「ミラ様も座ってください、セイドもね」
マイが二人を座る様に促す。
マイにお願いされるとセイドは聞く事しか出来ず、しぶしぶマイの右後ろに座る。
ミラもコルラド王国の姫を上から見下ろす形になるので、マイの正面に座る。
そして、食堂に入っていたソニアが木の板をおぼんに見立て、ティーポットと4人分のティーカップを持って出てきた。
床に座るマイを見てソニアは、おぼんを落しそうになるが、何とか持ち応える。
「姫さまその様な所に座られましたら汚れてしまいます!」
ソニアがマイを立ってもらおうとするが、マイは立とうとはしない。
「ソニア、わたしがミラ様に会いに来たのよ、そしてお願いが有るのよ?
わたしが合わせるのが当然よ。
ましてやこの服だしね、汚れてもきにしないし
それに、建物は古びているけど掃除は行き届いてるわ
皆で綺麗にしている事が伝わるの、ソニアとセイドの実家だしね」
マイがはにかみながら上目遣いでソニアに伝える。
「姫さま・・本当にありがとうございます・・」
ソニアは笑顔で泣きながら三人に持ってきた紅茶を配る。
セイドとミラも笑顔で目尻に涙を溜めていた。
(マイ姫様は分け隔てなく民に接する事ができる人間なのね)
ミラが心の中でマイに感心する。
マイが食堂の方を見るとヒョコっと焼き菓子を頬張った子供達が顔を出している。
「ミラ様?子供達にも聞いてもらってもいいでしょうか?」
「え?聞いてもいい内容であれば私に断る理由は無いですが・・」
「みんな!こちらに来てわたしのお話聞いてくれない?」
マイが食堂にいる子供達五名を手招きする。
子供たちはおずおずと食堂から出てミラの後ろに並び座る。
「子供たちはこれだけでしょうか?」
マイがミラに問いかける。
「はい、コルラド王達のおかげで大分良くなりましたが、このような子たちが無くなる事は無い事だと思います。
私はこの子たちの母になり、自立していけるように教えて行くのが役目だと思っています」
ミラが正直にマイの目を見て思いを伝える。
マイは黙って頷きながら話を聞いていた。
そして、マイがミラが話し終わった後、ソニアに目配せする。
するとソニアは、持ってきていたバケットから小さい手の平程の袋を取り出しマイに渡す。
マイは袋からビー玉程の透明の玉を取り出す。
「これは、動物から採れる物を綺麗にした物なのだけど、これに属性の精神力を流すと・・」
そう言いマイは、透明な玉に水の精神力を流す。
イメージは空気中の水分を玉にゆっくり流し込む様に入れていく。
すると玉が真っ青に染まる。
マイが精神力を流すのを止める。
「これが水の玉になります。ちょっと呼びにくいのでわたしは、水玉と言っています。
そしてこの玉に水を出ろと想像して、微弱の精神力流すと・・」
玉からスラーと水が出てくる。
それをソニアが、空になったティーポットを即座に出し受ける。
セイド・ミラ・子供たちは驚愕していた。
マイがクスクスと笑いながら声を出す。
「この玉をこちらで作成してもらいたいのです。
この製法は秘匿とし、漏らさないと誓えるのであればこの玉をわたしが買い取ります。
出来れば指輪や、腕輪等に加工出来るといいのだけど、あくまでここの施設のみで作成してほしいの」
セイドとミラはマイの言葉と行動にビックリしていて声が出ない。
子供たちは?マークが出ている。
ソニアだけがうんうんと相槌している。
「細かく説明しますね、ですがここからの説明は他言できない内容となります。
みんなに、少し誓約をしてほしいのです。
ここで聞いたことを、他言しないと言う誓約。
どうします?
一方的なお願いなので、断ってもいいのです。
立場等は気にしないでくださいね」
「私は聞きます。
マイ姫様を信じます。
貴方様は、私達を不幸にするとは思えません、ですが、子供たちには誓約しないでほしいのです。
私は・・」
『ヤダ!!』
子供たちは全員ミラの言葉を拒否する。
獣人の子が答える。
「こ・・こは、みんなの、おうち・・母さんと、一緒だから・・」
子供達がミラを掴み見つめ頷く。
ミラが前に向き直りマイを見据えて答える。
「皆で聞きます」
マイは頭を急に下げる。
「解りました。
一つだけ謝ります。
誓約をすると言うのは、嘘です。
試す様な事を、してしまい御免なさい
ただ、この事が公になると、危険な事になると思います。
それだけは、肝に銘じて置いてください」
またまた皆がビックリする。
一国の姫が、庶民に頭を下げている事に。
今回はソニアもビックリしていた。
(姫さまは、何で誓約をしないのだろう?出来ない訳ではないのに?
でも何か意図があるにきまっています絶対に!)
この国での魔法とは精神力を使うものである。
その精神力を蓄え、発動させる魔法が陣である。
それを、各自に陣を焼きいれる事で縛る事ができるのだ。
奴隷等がその対象だったり、商売人の約束事など多岐に渡る。
騎士達も重要なポストの者は誓約している者が多い。
情報漏洩を防ぐ為である。
ミラが我に返りマイを起こす。
「マイ姫様!顔を上げて下さい。
姫がこんなところで頭を下げるなんてダメですよ!」
子供たちはよく解ってはいない。
王族の意味すら理解していないのだ。
マイは顔を上げミラたちににっこり笑顔で話し出す。
「では、話を進めましょ!
まず、先程の玉の希少性からお話します」
そう言いマイは水玉では無く、透明の方の玉を皆に見せる。
「これは空玉です。
何の属性の精神力も入れていない玉になります。
この玉は今の所、わたししか作れないのが分かっています。
説明すると」
マイは袋から、濁った何色とも言えない玉を取り出す。
「こちらが、この大陸で採れる動物から出て来る物です。
この玉に動物の精神力が蓄えられています。
なぜこの玉が動物の中に、有るのかは分かっていませんが、わたしの見解ですが、すべての生物に有るのかもしれません。
大きさは様々なのですが、わたし達にもあるかもしれません。
この玉の精神力を吸い取るのですが、とても危険なのであくまで空玉をこちらにお届けします」
そう言いマイは空玉をミラに手渡す。
「ミラ様、これに水入れる感じを、想像して握ってくれますか?
もし体がだるくなったり、疲れる様な事があったらすぐに止めてください。
無理をする必要は何も有りません」
ミラは空玉を握り胸の方に引き寄せ目を閉じる。
10秒程でミラは目を開け大きな溜息を吐きそっと掌を開く。
淡く青いかなと思う程度の玉が出てきた。
「どうかな?」
マイがミラの体調を気遣う。
「少し疲れが来ますが全然大丈夫です。
でも、どの程度まで入れればいいのでしょうか?
マイ姫様がお持ちの真っ青に出来るとは、とても・・」
「一月で毎回回収しに来るので、色は気にしないで下さい
これを皆で作って欲しいのです。
後、水だけでは無く、火や風等も別の空玉に入れて下さい。
そして報酬の件ですが」
マイはソニアに目配せする。
ソニアはそっとミラの前に子袋を置く。
「どうぞ開けて下さいミラ様」
ミラは子袋を拾い上げ袋の中身を見る。
子供たちも興味深々で覗き込む。
ジャラ
中身は金貨が8枚と銀貨が20枚入っている。
この国の通貨単位だと鉄貨10円、銅貨100円、銀貨1000円、金貨が10000円、純金貨100000円ほどの価値である。
これを、コルラド王国、ゼム王国で共通通貨として使用している。
ただ、物価は違う為買える物は各場所により違うのだ。
「これが一個の最低単価になります。
色が濃くなればそれ以上の金額で買い取らせて頂きます。
装飾品にして頂いた物も上乗せで買います。
毎月3個は、引き取るのでこの3倍になります
急に金貨を使うと目を付けられると思い銀貨に分けています。
どうでしょうか?足りますか?
わたしの今頂いてる金額だと、これが限界なのですが・・」
「マイ姫様!これは多すぎです!私たちの生活なんて毎月金貨1枚程なのです。
それが・・毎月30枚程の金貨を貰うなんて・・一日どんなに町で頑張っても銀貨一枚になるかどうかで生活しているのです。
子供達にも協力してもらってもこの程度なのです・・
このような大金・・」
ミラは涙を流してしまう。
色々な感情が渦巻いてしまう。
これまでの子供達の顔や、辛かった事を思い出してしまう。
報われないと何度も思ったことか。
そっとミラに抱き着くセイドとソニア。
「母さん・・姫さまは決して悪気があった訳では無いの!ここの施設を良くしたいと思って、している事なんだよ!」
「母さん、マイ姫様はここの運営を母さんに託したいんです。
もうお金に困ってほしくないと、これからも子供達を育ててほしいと・・」
「わかっているの・・私が悪いのは・・何もできなく沢山の子供達を不幸に・・」
ミラは、自分が何もできなかったと責めていたのだ。
後ろの子供達もミラに抱き着き泣く。
何でか分からないのだが泣く、自分達の育ての親が悲しんでいるのだからと。
(ミラさんは愛されているのね・・ずっと悲しい思いも沢山してきただろうに、それでも子供を育て続けている
こんなに強い人を見たことがないわ!
救わないと)
「わたしね、ここに普通の子供達が、住んで習える学園を作りたいのです。
その為に皆に協力してもらいたいの、それには、資産を増やさないと出来ない・・
皆の力が、わたしには必要なの、わたし何も出来ない、何もしないのは嫌なの!」
マイが感情的に皆に訴える。
皆がマイの言葉に仰天している。
「ミラ様に渡すお金は、ちゃんと計算して出す金額を決めているので是非受け取って下さい。
そして、皆により良い生活をさせて下さい」
「解りました!マイ姫様を応援させて下さい!そして子供達を任せて下さい!」
ミラの瞳に新たな光が宿る。
過去は戻らないが、未来は変えれるのだ。
子供達の瞳にもやる気が見られる。
セイドとソニアも力強く頷く。
「ありがとう・・」
マイが目尻に涙を溜め、笑顔でお礼を伝える。
(よかった・・伝わって)
「一つだけ約束して、無理は絶対にしない事、これだけは守ってね!
ソニア!昼食にしましょ!」
ソニアが待ってましたと言わんばかりにバスケットからナプキンを敷き、大量のクロワッサンが出てくる。
「王城で作ってもらった物を、持ってきましたので皆で食べましょう」
この後、クロワッサンを食べたマイ、ソニア以外が、無我夢中で食べ尽くしていたのは容易に想像できる。
教会前に着く三人。
一人の女の子がボロボロの門の塀の陰からヒョコっと顔を出す。
その女の子は薄い茶色い髪に、毛先が黒くボブカット風、歳はパッと見七歳ぐらいに見える。
そして、少し鼻が黒く見え、ヒクヒクしている。
最大の違いは、頭の上に垂れた耳が乗っていた。
(あれ!獣人の子じゃない!?)
マイは目をキラキラさせ興味深々である。
セイドに降ろしてもらい教会風の建物に近付く。
「こんにちは!言葉は分かるかな?もし良かったら大人の方とお話したいのだけど?」
マイが優しい声で、小さい獣人の女の子に聞く。
獣人の子は鼻をクンクンして小さく頷く。
そして小さな声で、
「こっち・・」
三人はすんなり教会の敷地内に入る。
「母さん・・誰かキタ・・」
獣人の子が畑で働く初老の女性の元に駆けていく。
初老の女性が顔をあげる。
少し頬がこけて、日焼けはしているが、若い時はとても綺麗だったと伺える。
「あら、セイドにソニアも!お帰り!久しぶりね!いつもお給金から寄付を貰って悪いわね、ありがとう」
初老の女性がセイドとソニアに頭を下げる。
「頭を上げて母さん!全然気にしないで!!」
「そうだよ母さん!俺達が好きでやってるんだから!」
二人が深々と頭を下げる。
目尻には薄っすらと涙を浮かべる。
(久しく来てなっかたけど母さんが元気でよかった・・でも少し痩せすぎ・・)
ソニアは育ての親が、痩せていってる事に敏感に気付き心配していた。
「それで、そこのお嬢様がマイ姫様かな?」
女性はマイに気付いていて、自分から声を掛け、綺麗な敬服のポーズをとる。
「どうぞ普通に接して下さい、今回はお忍びで来ているので、もし宜しければお名前を聞いても?
そしてお時間が有れば、わたしのお話を聞いて下さいませんか?」
マイが女性に親切な物言いで答える。
「分かりましたマイ姫様、私の名前はミルと言います。
皆さん一度教会に戻って、水分を取りましょう」
笑顔で答えるミル、そして畑で作業していた4名の子供達と、マイ達を連れて来てくれた獣人の子供に声を掛ける。
『はーい!』
そしてみんなで教会に入る。
そこは、聖堂は無く、居間ぽい空間(家具等は無い)に奥に扉の無い食堂が見え、寝室だろう部屋が二部屋しか無い。
「狭い所ですけどどうぞ、今白湯を用意しますね。
皆は食堂でお水を飲みましょう」
ミラが三人を案内する。
「母さん、今日は私が用意するから姫さまとお話して!みんな食堂に行きましょ」
ソニアが帽子を取り、バスケットを持って食堂に向かう。
子供達はバスケットの中身が気になっているのか、ぞろぞろ着いて行く。
先程の獣人は中身に気付いている様で、笑顔で我先に入っていった。
(やはり獣人は鼻が利くのね、この感じだと身体能力や、聴覚もかなり良さそう、精神力が人族より少なく感じる)
マイが獣人を特徴を見抜く。
マイの精神力の判別方法は色の感じと、精霊の量で分かる。
子供の場合精神力が駄々洩れなので分かりやすいが、マイの様に上手に隠す事ができる場合は分かりずらい。
騎士達や、ある一定の修練を受けている者は精神力の調整ができるので、一概に精神力が少ないとは判別できない。
マイは精霊を見れる目が有るので、その感覚で相手の得意属性が分かるのだ。
ミラがどうしましょうと言う感じでおろおろする。
「ミラ様どうかしましたか?」
マイが首を傾げながら聞く。
「ここの居間には座る場所すらなく、応接できる場所もございませんのでどうしたものかと・・」
ミラは王族がこんな辺鄙な所に来るとは思っていなかった。
ユリウスが何度も来ているが、あくまで玄関先までしか基本来ない。
この無法地帯に足を踏み入れた王族は、反社会勢力打倒に動いたコルラド王のみである。
ミラが困惑するのもうなずける。
マイはすっと帽子を取り綺麗な金髪がファサっと出る。
マイは首を振り、髪を整え居間の床に座る。
「マイ姫様!この様な場所に座るなんて!」
セイドがマイの行動にビックリし止めようとする。
「いいのセイド、ここで話しましょ、別に王族だから座る場所が決まっている訳では無いでしょ?
わたしが、ここに座りたいからここに座るの、立って話す内容では無いからここで話しましょ」
ミラはびっくりしてあわあわしている。
「ミラ様も座ってください、セイドもね」
マイが二人を座る様に促す。
マイにお願いされるとセイドは聞く事しか出来ず、しぶしぶマイの右後ろに座る。
ミラもコルラド王国の姫を上から見下ろす形になるので、マイの正面に座る。
そして、食堂に入っていたソニアが木の板をおぼんに見立て、ティーポットと4人分のティーカップを持って出てきた。
床に座るマイを見てソニアは、おぼんを落しそうになるが、何とか持ち応える。
「姫さまその様な所に座られましたら汚れてしまいます!」
ソニアがマイを立ってもらおうとするが、マイは立とうとはしない。
「ソニア、わたしがミラ様に会いに来たのよ、そしてお願いが有るのよ?
わたしが合わせるのが当然よ。
ましてやこの服だしね、汚れてもきにしないし
それに、建物は古びているけど掃除は行き届いてるわ
皆で綺麗にしている事が伝わるの、ソニアとセイドの実家だしね」
マイがはにかみながら上目遣いでソニアに伝える。
「姫さま・・本当にありがとうございます・・」
ソニアは笑顔で泣きながら三人に持ってきた紅茶を配る。
セイドとミラも笑顔で目尻に涙を溜めていた。
(マイ姫様は分け隔てなく民に接する事ができる人間なのね)
ミラが心の中でマイに感心する。
マイが食堂の方を見るとヒョコっと焼き菓子を頬張った子供達が顔を出している。
「ミラ様?子供達にも聞いてもらってもいいでしょうか?」
「え?聞いてもいい内容であれば私に断る理由は無いですが・・」
「みんな!こちらに来てわたしのお話聞いてくれない?」
マイが食堂にいる子供達五名を手招きする。
子供たちはおずおずと食堂から出てミラの後ろに並び座る。
「子供たちはこれだけでしょうか?」
マイがミラに問いかける。
「はい、コルラド王達のおかげで大分良くなりましたが、このような子たちが無くなる事は無い事だと思います。
私はこの子たちの母になり、自立していけるように教えて行くのが役目だと思っています」
ミラが正直にマイの目を見て思いを伝える。
マイは黙って頷きながら話を聞いていた。
そして、マイがミラが話し終わった後、ソニアに目配せする。
するとソニアは、持ってきていたバケットから小さい手の平程の袋を取り出しマイに渡す。
マイは袋からビー玉程の透明の玉を取り出す。
「これは、動物から採れる物を綺麗にした物なのだけど、これに属性の精神力を流すと・・」
そう言いマイは、透明な玉に水の精神力を流す。
イメージは空気中の水分を玉にゆっくり流し込む様に入れていく。
すると玉が真っ青に染まる。
マイが精神力を流すのを止める。
「これが水の玉になります。ちょっと呼びにくいのでわたしは、水玉と言っています。
そしてこの玉に水を出ろと想像して、微弱の精神力流すと・・」
玉からスラーと水が出てくる。
それをソニアが、空になったティーポットを即座に出し受ける。
セイド・ミラ・子供たちは驚愕していた。
マイがクスクスと笑いながら声を出す。
「この玉をこちらで作成してもらいたいのです。
この製法は秘匿とし、漏らさないと誓えるのであればこの玉をわたしが買い取ります。
出来れば指輪や、腕輪等に加工出来るといいのだけど、あくまでここの施設のみで作成してほしいの」
セイドとミラはマイの言葉と行動にビックリしていて声が出ない。
子供たちは?マークが出ている。
ソニアだけがうんうんと相槌している。
「細かく説明しますね、ですがここからの説明は他言できない内容となります。
みんなに、少し誓約をしてほしいのです。
ここで聞いたことを、他言しないと言う誓約。
どうします?
一方的なお願いなので、断ってもいいのです。
立場等は気にしないでくださいね」
「私は聞きます。
マイ姫様を信じます。
貴方様は、私達を不幸にするとは思えません、ですが、子供たちには誓約しないでほしいのです。
私は・・」
『ヤダ!!』
子供たちは全員ミラの言葉を拒否する。
獣人の子が答える。
「こ・・こは、みんなの、おうち・・母さんと、一緒だから・・」
子供達がミラを掴み見つめ頷く。
ミラが前に向き直りマイを見据えて答える。
「皆で聞きます」
マイは頭を急に下げる。
「解りました。
一つだけ謝ります。
誓約をすると言うのは、嘘です。
試す様な事を、してしまい御免なさい
ただ、この事が公になると、危険な事になると思います。
それだけは、肝に銘じて置いてください」
またまた皆がビックリする。
一国の姫が、庶民に頭を下げている事に。
今回はソニアもビックリしていた。
(姫さまは、何で誓約をしないのだろう?出来ない訳ではないのに?
でも何か意図があるにきまっています絶対に!)
この国での魔法とは精神力を使うものである。
その精神力を蓄え、発動させる魔法が陣である。
それを、各自に陣を焼きいれる事で縛る事ができるのだ。
奴隷等がその対象だったり、商売人の約束事など多岐に渡る。
騎士達も重要なポストの者は誓約している者が多い。
情報漏洩を防ぐ為である。
ミラが我に返りマイを起こす。
「マイ姫様!顔を上げて下さい。
姫がこんなところで頭を下げるなんてダメですよ!」
子供たちはよく解ってはいない。
王族の意味すら理解していないのだ。
マイは顔を上げミラたちににっこり笑顔で話し出す。
「では、話を進めましょ!
まず、先程の玉の希少性からお話します」
そう言いマイは水玉では無く、透明の方の玉を皆に見せる。
「これは空玉です。
何の属性の精神力も入れていない玉になります。
この玉は今の所、わたししか作れないのが分かっています。
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マイは袋から、濁った何色とも言えない玉を取り出す。
「こちらが、この大陸で採れる動物から出て来る物です。
この玉に動物の精神力が蓄えられています。
なぜこの玉が動物の中に、有るのかは分かっていませんが、わたしの見解ですが、すべての生物に有るのかもしれません。
大きさは様々なのですが、わたし達にもあるかもしれません。
この玉の精神力を吸い取るのですが、とても危険なのであくまで空玉をこちらにお届けします」
そう言いマイは空玉をミラに手渡す。
「ミラ様、これに水入れる感じを、想像して握ってくれますか?
もし体がだるくなったり、疲れる様な事があったらすぐに止めてください。
無理をする必要は何も有りません」
ミラは空玉を握り胸の方に引き寄せ目を閉じる。
10秒程でミラは目を開け大きな溜息を吐きそっと掌を開く。
淡く青いかなと思う程度の玉が出てきた。
「どうかな?」
マイがミラの体調を気遣う。
「少し疲れが来ますが全然大丈夫です。
でも、どの程度まで入れればいいのでしょうか?
マイ姫様がお持ちの真っ青に出来るとは、とても・・」
「一月で毎回回収しに来るので、色は気にしないで下さい
これを皆で作って欲しいのです。
後、水だけでは無く、火や風等も別の空玉に入れて下さい。
そして報酬の件ですが」
マイはソニアに目配せする。
ソニアはそっとミラの前に子袋を置く。
「どうぞ開けて下さいミラ様」
ミラは子袋を拾い上げ袋の中身を見る。
子供たちも興味深々で覗き込む。
ジャラ
中身は金貨が8枚と銀貨が20枚入っている。
この国の通貨単位だと鉄貨10円、銅貨100円、銀貨1000円、金貨が10000円、純金貨100000円ほどの価値である。
これを、コルラド王国、ゼム王国で共通通貨として使用している。
ただ、物価は違う為買える物は各場所により違うのだ。
「これが一個の最低単価になります。
色が濃くなればそれ以上の金額で買い取らせて頂きます。
装飾品にして頂いた物も上乗せで買います。
毎月3個は、引き取るのでこの3倍になります
急に金貨を使うと目を付けられると思い銀貨に分けています。
どうでしょうか?足りますか?
わたしの今頂いてる金額だと、これが限界なのですが・・」
「マイ姫様!これは多すぎです!私たちの生活なんて毎月金貨1枚程なのです。
それが・・毎月30枚程の金貨を貰うなんて・・一日どんなに町で頑張っても銀貨一枚になるかどうかで生活しているのです。
子供達にも協力してもらってもこの程度なのです・・
このような大金・・」
ミラは涙を流してしまう。
色々な感情が渦巻いてしまう。
これまでの子供達の顔や、辛かった事を思い出してしまう。
報われないと何度も思ったことか。
そっとミラに抱き着くセイドとソニア。
「母さん・・姫さまは決して悪気があった訳では無いの!ここの施設を良くしたいと思って、している事なんだよ!」
「母さん、マイ姫様はここの運営を母さんに託したいんです。
もうお金に困ってほしくないと、これからも子供達を育ててほしいと・・」
「わかっているの・・私が悪いのは・・何もできなく沢山の子供達を不幸に・・」
ミラは、自分が何もできなかったと責めていたのだ。
後ろの子供達もミラに抱き着き泣く。
何でか分からないのだが泣く、自分達の育ての親が悲しんでいるのだからと。
(ミラさんは愛されているのね・・ずっと悲しい思いも沢山してきただろうに、それでも子供を育て続けている
こんなに強い人を見たことがないわ!
救わないと)
「わたしね、ここに普通の子供達が、住んで習える学園を作りたいのです。
その為に皆に協力してもらいたいの、それには、資産を増やさないと出来ない・・
皆の力が、わたしには必要なの、わたし何も出来ない、何もしないのは嫌なの!」
マイが感情的に皆に訴える。
皆がマイの言葉に仰天している。
「ミラ様に渡すお金は、ちゃんと計算して出す金額を決めているので是非受け取って下さい。
そして、皆により良い生活をさせて下さい」
「解りました!マイ姫様を応援させて下さい!そして子供達を任せて下さい!」
ミラの瞳に新たな光が宿る。
過去は戻らないが、未来は変えれるのだ。
子供達の瞳にもやる気が見られる。
セイドとソニアも力強く頷く。
「ありがとう・・」
マイが目尻に涙を溜め、笑顔でお礼を伝える。
(よかった・・伝わって)
「一つだけ約束して、無理は絶対にしない事、これだけは守ってね!
ソニア!昼食にしましょ!」
ソニアが待ってましたと言わんばかりにバスケットからナプキンを敷き、大量のクロワッサンが出てくる。
「王城で作ってもらった物を、持ってきましたので皆で食べましょう」
この後、クロワッサンを食べたマイ、ソニア以外が、無我夢中で食べ尽くしていたのは容易に想像できる。
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ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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