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第1章 幼少期
閑話☆ 姫の食事改革
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[コルラド王国 王城内部マイの部屋]
アイナの声がマイの部屋から聞こえる。
「今日からちゃんとした食事を食べようね~」
それは、マイがちゃんとした食事を初めて食べる事になった時の事である。
「はい、あーん」
アイナがスープを掬い冷やしてからマイの口に運ぶ。
アイナはマイの食事を自分で食べさせてあげれる時はどんな時も食べさせていた。
昨日までは離乳食(リンゴをすったものやバナナ等果物メイン)だったのだ。
しかし、1口スープを口にするとマイが出してしまう。
(まず!野菜の旨みが全て抜け落ちてる様な味、基本は塩味しかなく、とても食事とは…)
マイは2歳までまともな食事を食べられないでいたのだ…
(これは拷問だわ…これはわたしが食の改革をしないと…)
マイが食事をまともに採らない事が心配でコルラド王やアイナ、ソニア、ユリウス、城中の者が心配して色々な国の食べ物を持っては来るのだが、どれも食べれず。
(素材はいいのに…塩味だけだと飽きるのよ!)
マイはあまり上手く喋れない自分にイライラしながら日々を過ごしていた。
それが原因なのかストレスで泣く事が増え、医者にも月に何度も見てもらう形になっていた。
(ぅー、記憶が有り食べたい物が食べれないストレスってこんなにも辛いなんてこのままじゃ、わたしおかしくなってしまうわ!)
マイは毎日言葉の勉強をする様になり、片言の言葉を1歳半で言えるようになった。
「まま~、わたちを、まんまたえるとこに、つえてって!」
アイナに精一杯の片言で食堂に連れて行って欲しいと訴えたのだ。
「いいわよ!いつもはお部屋で食べてるけどたまには、別の所で食べた方がマイも気分転換になるし美味しく食べれるかもしれないものね!」
アイナもマイが食事をあまり食べない事に、凄く不安があり、このまま何も食べれなくなったらどうしようと言う母親のストレスを感じていたのだ。
[コルラド王国 王城王族専用食堂]
アイナがマイを抱き抱え食堂に入ってくる。
ソニアが先に食堂に来て、給仕や料理長ザック達に事前に、王妃が時間外に来ることを伝えていた為、大騒ぎにはならなかった。
そして給仕の1人が椅子を引き食卓テーブルにアイナを座らせようとする。
「あち!あち!」
マイが厨房の方を指さしそっちに行きたいとぐずり出す。
(あっちの方から料理をする香りがする!あっちが厨房よね!何とか厨房迄ママを誘導しないと!)
「少し厨房を覗いてもよろしいかしら?」
「調理中の厨房は散らかってますよ?王妃様がわざわざご覧になられるような場所では御座いませんよ」
給仕の1人が汚いからとアイナを諭す。
「いく!いくお!!」
マイは精一杯の大声を出して、泣き出した。
「マイが見たいと言ってるし、いつもワガママを言って、色々な料理を出してくださる料理人さん達を労いに伺うわ」
アイナが厨房の方にマイを抱えたまま入っていく。
給仕の1人が厨房に王妃様が入ってくる事を伝えていたので、ザックは王妃様が座られる椅子を急ごしらえで用意していた。
「汚い所にわざわざお越しくださり誠にありがとうございます。料理人一同王族様達の食事を任され恐悦至極に存じます」
ザックと料理人達が厨房で片膝をつき右手を胸の前に当て敬服のポーズでお出迎えをした。
「楽にして下さい、急に来たのですからこちらが感謝をしないといけない立場にあります。ごめんなさいね皆さんの職場にヅケヅケと入ってきてしまい、お忙しい中本当に感謝しています」
アイナは椅子に座る前に痴女の綺麗な礼をする。
「「頭をお上げください!!」」
ザック達は急に綺麗な王妃に頭を下げられとんでもないと必死に直るようお願いする。
アイナはすっと直るとマイの顔を見る。
マイは満面の笑みで厨房の中を観察していた。
「きゃっ!きゃっ!」
(よし!何とか厨房まで来れたわ!これで料理をしてる所を見て何とか味の改革が出来れば!)
マイの笑顔を見た厨房の中の人々は悩殺されているアイナすらも。
((天使がこの厨房に舞い降りたのだ!!))
マイは食事をあまり採らなくなってから笑顔が消えていた。
マイの笑顔が消えてから城の雰囲気が暗くなっていたのだ。
ゼム王やイオ王妃ですら心配して何度も国を明けコルラドに来ていた位だ。
「マイ何が気に入ったのかな?皆さんお仕事の続きをして下さいね。私とマイは邪魔にならないように、しばらく見学させて頂きますので」
アイナはザックの用意した簡易的な椅子に腰掛けマイの顔を伺いながら料理人達の作業を観察している。
アイナも昔は、冒険をコルラド王達としていたので多少の料理は出来る。
イオが姫だからと何も出来ない箱入り娘には育てないと言う方針で、かなり厳しくアイナを育てた為、大抵の事は何でも出来る様になっていた。
ザック達は、感激しながら調理に戻る。
(この2人に最高の料理をお出ししたい!)
料理人魂が燃えている厨房はまさに戦場だ。
ザックが的確に料理人達に指示を出している。
1人の料理人が大寸胴の茹で汁を捨てようとした時。
「あー!あー!ため!!!」
マイが大声で料理人を止める。
「どうしたのマイ?お野菜達を茹でて出たお汁は汚いから投げるのよ?」
(まじか!!旨味成分全部抜けてるやん!!)
マイは心の中で盛大にツッコンでいた。
「まま!おしる、ちって、ちって!」
マイはその茹で汁をくれと駄々をこねる。
食べ物にこんなに好奇心を出した事等なかったマイを知っているアイナはザックに茹で汁を少量貰えるよう頼んだ。
「野菜やお肉等は1度洗ってはいますが、中に虫など入っている事もあるので茹で汁は全て破棄するのが当たり前ですよ?」
王妃の命令なので聞かない訳にはいかないが一応何かあっても困るので念の為声を掛ける。
「おしおあう?」
マイが塩が欲しいと言い出す。
ザックはお皿に塩を少量入れ茹で汁と一緒にアイナとマイに出す。
マイは塩を掴んでパラパラと茹で汁にかけた。
「まま、たえたい!」
飲ませてと催促している。
アイナがそっと茹で汁を少し混ぜ、掬い冷まし。
恐る恐るマイの口に運ぶ。
「マイ美味しくなかったら出していいのだからね」
マイは冷めた茹で汁をすっと飲む。
「うまー!うまー!」
マイは美味しいと目を輝かせアイナに言うのだ。
((うそー!!!))
料理人達はザックも含め仰天している。
「マイ美味しいの?本当に?ぅー…」
アイナは食事をして久しぶりに喜ぶ娘を見て感極まって涙を流していた。
(よかった~マイが何か分からない病気や呪いに掛かってるかと考えて、不安で寝る事も出来なかったのよ、本当に良かったわ!)
「まま、うまよー」
マイがアイナも食べてと勧める。
アイナはスープを掬い恐る恐る飲む。
「うわ!美味しい!」
アイナは今まで食べた食べ物の中で、1番美味しい食べ物ランキングが、一瞬で入れ替わる衝撃を受ける。
それを聞いてザックも茹で汁の入った寸胴からスプーン1杯掬い口に含む。
「う…ま…す…ぎ…る…」
ザックは項垂れ厨房でガクッと両膝をつく。
それもそのはず、今まで自分はこの茹で汁を投げてたと言う衝撃が全身を突き抜ける。
ザックは直ぐに立ち直り料理人達に味見をさせている。
料理人達は食べる度に衝撃でうずくまっている。
「今日これで茹でたのはなんだ?」
ザックが何の食材を茹でたか聞いている。
基本大寸胴では、何でも茹でていた為、それを各料理人から聞いてレシピにしようとしてるのだ。
私は、キャベ(キャベツ)を茹でました。
僕は、イモを茹でました。
俺は、オークの肉を茹でたよ。
私は、ジン(にんじん)をやわらかくなるまで茹でましたよ!
僕は、トメトを茹でたのですが少し割れてしまい中の身が、茹で汁に溶けたと思います。
寸胴を使った料理人達がそれぞれの食材を言っていく。
それをザックは小さい黒板に書いている。
(うんうん、素晴らしい!よく分からない食材が出てきたけど、何となく匂いでどんな食材が入ったスープなのが、わかったから良かったようなものね)
マイが首を上下に揺らしていた。
「王妃様この茹で汁の味を整えて本日の昼食にしようと思うのですがよろしいでしょうか?」
ザックがアイナに茹で汁で料理をさせて欲しいと、しかもそれを王族の昼食に出してもいいかと聞いてくる。
「もちろんよ。マイもとても気に入った様だし是非この茹で汁を使った料理を食べさせて欲しいわ!」
「おねあい!」
アイナとマイは了承する。
「それでは食堂でお待ちしてもらってもよろしいでしょうか?最高の料理にしてお出ししますので」
ザックが厨房の外で待つソニアに2人を席に連れて行って貰うようにお願いする。
(何か色々な事が起こった様だけど何があったのかしら…姫さまも笑顔ですし…待機と命令されたので中の状況が分からなかっただけに歯がゆい、茹で汁って何?)
ソニアは厨房の外で、中の声だけを聞いていた為、何か美味しい物が、できた事だけが分かっている状況だった。
ザックはアイナ達が席に座るのを確認すると料理人達を呼んだ。
「おい、お前らは、こんな美味い茹で汁を飲んだ事は?」
みんなが首を横に振る。
それもそうだ常識的に考えていつも食事を出した後に廃棄するものなのだ。
それを飲もうと思う方が普通ではない。
「マイ姫様はこれが美味しいものと瞬時に理解したのか?ただいい匂いだけにつられて飲んだとも考えられないよな?」
そう、ただいい匂いだから飲むならわざわざ塩を自分で自ら入れて味を整える様な事は絶対に出来ないのだ。
ましてや塩を渡したが、塩がなんなのかも分からない歳なのである。
ザックは自分に言い聞かせるように同僚達に聞く。ひとつの答えが全員に出てる事、そしてそれを全員で共有する為に。
「「マイ姫様は食神の天使様に違いない!!!」」
一同が大いに誤解する。
(あの笑顔で美味しいと言われたい!)
(マイ姫様に美味しいねって褒められたい!)
等、それぞれのマイに対する願望が爆発している。
ザックが手を叩く。
「全員戻ってこい!マイ姫様達に最高の食事を提供するぞ!」
「「おーーー!!」」
ここにマイ姫食の親衛隊が結成されたのは、まだマイは気付いていない。
厨房からとてもいい香りがしてくる。
給仕がアツアツのスープと少し冷ましたマイ用のスープを持って来る。
アイナはマイを膝の上に乗せ少し冷ました方のスープを丁寧に飲ませる。
スープの中身は、先程の茹で汁にイモとトメトを溶かしたスープに、小さくカットした柔らかくなったキャベ、オークの細く切られたお肉、トメトの果肉を入れ少し塩で味を整えた史上初の出汁スープである。
「うま!うーまー!」
(美味しいわ、やっぱり素材の味がかなり決めてね!かなりいい物を使ってるのにその旨み成分を全て捨ててたなんて…わたしがこの王城の食事を改変して行くわ!!)
マイは美味しいと笑顔でアイナに訴えながら心の中では、食の改変を決意するのであった。
マイの笑顔を見ていたソニアと給仕達そして、厨房の奥から除くザック達が、悶絶している。
((マイ姫様可愛すぎです!!この笑顔を未来永劫守る事をここに!!!))
アイナは嬉し泣きをしながらマイにスープを飲ませていた。
その後、適温となった自分のスープを綺麗に美味しいと言いながら完食した。
それから、毎日マイは厨房に来るようになった。
(アイナと来るかソニアと来るか)
ザックはその度に色々な食材や調味料をマイに見せる様になる。
「マイ姫様、今日王城に下ろされた新しい食材と調味料になります」
マイがその食材や調味料を見て嗅ぎ、適当に指を指す。
「こえと、こえを、じゅして、ちゅぎにこえをいえる!」
それをザック達が調理するとあら不思議…絶品の料理になる。
マイはまだ幼く上手にお話は出来ないので、料理人達はマイの行動一つ一つに気を遣い観察している。
最初に出した特性天使のスープ(ザック命名)は特別な日とマイが食べたい時にしか出て来ない特別料理として受け継がれて行く。
今ではハンバーグやパン、パスタやご飯、焼き魚に刺身等色々な料理がマイの改革により王族の料理として出される。
レシピは門外不出の物としてザックとマイが管理をしている。
だが、マイが王都に卸してもいいと言ったレシピは人伝で伝えられる。
これを、姫天使からの贈り物と言う語り草迄付き、王都の飲食店に伝えられている。
マイが食に精通してる事は伝わっていないが、マイの許可が無いと王城の厨房(最高の料理人)からレシピが出て来ない事は認知されていた。
こうして、たった3年半でコルラド王国とゼム王国(ゼムがマイにお願いしてザックからレシピを貰った為)の食文化は他の国を寄せ付けない歴史的食改革が行われたのであった。
(わたしは、この世界の人々に美味しい物で幸せになって貰いたい!)
マイが1つ大きな目標を決めたのであった。
アイナの声がマイの部屋から聞こえる。
「今日からちゃんとした食事を食べようね~」
それは、マイがちゃんとした食事を初めて食べる事になった時の事である。
「はい、あーん」
アイナがスープを掬い冷やしてからマイの口に運ぶ。
アイナはマイの食事を自分で食べさせてあげれる時はどんな時も食べさせていた。
昨日までは離乳食(リンゴをすったものやバナナ等果物メイン)だったのだ。
しかし、1口スープを口にするとマイが出してしまう。
(まず!野菜の旨みが全て抜け落ちてる様な味、基本は塩味しかなく、とても食事とは…)
マイは2歳までまともな食事を食べられないでいたのだ…
(これは拷問だわ…これはわたしが食の改革をしないと…)
マイが食事をまともに採らない事が心配でコルラド王やアイナ、ソニア、ユリウス、城中の者が心配して色々な国の食べ物を持っては来るのだが、どれも食べれず。
(素材はいいのに…塩味だけだと飽きるのよ!)
マイはあまり上手く喋れない自分にイライラしながら日々を過ごしていた。
それが原因なのかストレスで泣く事が増え、医者にも月に何度も見てもらう形になっていた。
(ぅー、記憶が有り食べたい物が食べれないストレスってこんなにも辛いなんてこのままじゃ、わたしおかしくなってしまうわ!)
マイは毎日言葉の勉強をする様になり、片言の言葉を1歳半で言えるようになった。
「まま~、わたちを、まんまたえるとこに、つえてって!」
アイナに精一杯の片言で食堂に連れて行って欲しいと訴えたのだ。
「いいわよ!いつもはお部屋で食べてるけどたまには、別の所で食べた方がマイも気分転換になるし美味しく食べれるかもしれないものね!」
アイナもマイが食事をあまり食べない事に、凄く不安があり、このまま何も食べれなくなったらどうしようと言う母親のストレスを感じていたのだ。
[コルラド王国 王城王族専用食堂]
アイナがマイを抱き抱え食堂に入ってくる。
ソニアが先に食堂に来て、給仕や料理長ザック達に事前に、王妃が時間外に来ることを伝えていた為、大騒ぎにはならなかった。
そして給仕の1人が椅子を引き食卓テーブルにアイナを座らせようとする。
「あち!あち!」
マイが厨房の方を指さしそっちに行きたいとぐずり出す。
(あっちの方から料理をする香りがする!あっちが厨房よね!何とか厨房迄ママを誘導しないと!)
「少し厨房を覗いてもよろしいかしら?」
「調理中の厨房は散らかってますよ?王妃様がわざわざご覧になられるような場所では御座いませんよ」
給仕の1人が汚いからとアイナを諭す。
「いく!いくお!!」
マイは精一杯の大声を出して、泣き出した。
「マイが見たいと言ってるし、いつもワガママを言って、色々な料理を出してくださる料理人さん達を労いに伺うわ」
アイナが厨房の方にマイを抱えたまま入っていく。
給仕の1人が厨房に王妃様が入ってくる事を伝えていたので、ザックは王妃様が座られる椅子を急ごしらえで用意していた。
「汚い所にわざわざお越しくださり誠にありがとうございます。料理人一同王族様達の食事を任され恐悦至極に存じます」
ザックと料理人達が厨房で片膝をつき右手を胸の前に当て敬服のポーズでお出迎えをした。
「楽にして下さい、急に来たのですからこちらが感謝をしないといけない立場にあります。ごめんなさいね皆さんの職場にヅケヅケと入ってきてしまい、お忙しい中本当に感謝しています」
アイナは椅子に座る前に痴女の綺麗な礼をする。
「「頭をお上げください!!」」
ザック達は急に綺麗な王妃に頭を下げられとんでもないと必死に直るようお願いする。
アイナはすっと直るとマイの顔を見る。
マイは満面の笑みで厨房の中を観察していた。
「きゃっ!きゃっ!」
(よし!何とか厨房まで来れたわ!これで料理をしてる所を見て何とか味の改革が出来れば!)
マイの笑顔を見た厨房の中の人々は悩殺されているアイナすらも。
((天使がこの厨房に舞い降りたのだ!!))
マイは食事をあまり採らなくなってから笑顔が消えていた。
マイの笑顔が消えてから城の雰囲気が暗くなっていたのだ。
ゼム王やイオ王妃ですら心配して何度も国を明けコルラドに来ていた位だ。
「マイ何が気に入ったのかな?皆さんお仕事の続きをして下さいね。私とマイは邪魔にならないように、しばらく見学させて頂きますので」
アイナはザックの用意した簡易的な椅子に腰掛けマイの顔を伺いながら料理人達の作業を観察している。
アイナも昔は、冒険をコルラド王達としていたので多少の料理は出来る。
イオが姫だからと何も出来ない箱入り娘には育てないと言う方針で、かなり厳しくアイナを育てた為、大抵の事は何でも出来る様になっていた。
ザック達は、感激しながら調理に戻る。
(この2人に最高の料理をお出ししたい!)
料理人魂が燃えている厨房はまさに戦場だ。
ザックが的確に料理人達に指示を出している。
1人の料理人が大寸胴の茹で汁を捨てようとした時。
「あー!あー!ため!!!」
マイが大声で料理人を止める。
「どうしたのマイ?お野菜達を茹でて出たお汁は汚いから投げるのよ?」
(まじか!!旨味成分全部抜けてるやん!!)
マイは心の中で盛大にツッコンでいた。
「まま!おしる、ちって、ちって!」
マイはその茹で汁をくれと駄々をこねる。
食べ物にこんなに好奇心を出した事等なかったマイを知っているアイナはザックに茹で汁を少量貰えるよう頼んだ。
「野菜やお肉等は1度洗ってはいますが、中に虫など入っている事もあるので茹で汁は全て破棄するのが当たり前ですよ?」
王妃の命令なので聞かない訳にはいかないが一応何かあっても困るので念の為声を掛ける。
「おしおあう?」
マイが塩が欲しいと言い出す。
ザックはお皿に塩を少量入れ茹で汁と一緒にアイナとマイに出す。
マイは塩を掴んでパラパラと茹で汁にかけた。
「まま、たえたい!」
飲ませてと催促している。
アイナがそっと茹で汁を少し混ぜ、掬い冷まし。
恐る恐るマイの口に運ぶ。
「マイ美味しくなかったら出していいのだからね」
マイは冷めた茹で汁をすっと飲む。
「うまー!うまー!」
マイは美味しいと目を輝かせアイナに言うのだ。
((うそー!!!))
料理人達はザックも含め仰天している。
「マイ美味しいの?本当に?ぅー…」
アイナは食事をして久しぶりに喜ぶ娘を見て感極まって涙を流していた。
(よかった~マイが何か分からない病気や呪いに掛かってるかと考えて、不安で寝る事も出来なかったのよ、本当に良かったわ!)
「まま、うまよー」
マイがアイナも食べてと勧める。
アイナはスープを掬い恐る恐る飲む。
「うわ!美味しい!」
アイナは今まで食べた食べ物の中で、1番美味しい食べ物ランキングが、一瞬で入れ替わる衝撃を受ける。
それを聞いてザックも茹で汁の入った寸胴からスプーン1杯掬い口に含む。
「う…ま…す…ぎ…る…」
ザックは項垂れ厨房でガクッと両膝をつく。
それもそのはず、今まで自分はこの茹で汁を投げてたと言う衝撃が全身を突き抜ける。
ザックは直ぐに立ち直り料理人達に味見をさせている。
料理人達は食べる度に衝撃でうずくまっている。
「今日これで茹でたのはなんだ?」
ザックが何の食材を茹でたか聞いている。
基本大寸胴では、何でも茹でていた為、それを各料理人から聞いてレシピにしようとしてるのだ。
私は、キャベ(キャベツ)を茹でました。
僕は、イモを茹でました。
俺は、オークの肉を茹でたよ。
私は、ジン(にんじん)をやわらかくなるまで茹でましたよ!
僕は、トメトを茹でたのですが少し割れてしまい中の身が、茹で汁に溶けたと思います。
寸胴を使った料理人達がそれぞれの食材を言っていく。
それをザックは小さい黒板に書いている。
(うんうん、素晴らしい!よく分からない食材が出てきたけど、何となく匂いでどんな食材が入ったスープなのが、わかったから良かったようなものね)
マイが首を上下に揺らしていた。
「王妃様この茹で汁の味を整えて本日の昼食にしようと思うのですがよろしいでしょうか?」
ザックがアイナに茹で汁で料理をさせて欲しいと、しかもそれを王族の昼食に出してもいいかと聞いてくる。
「もちろんよ。マイもとても気に入った様だし是非この茹で汁を使った料理を食べさせて欲しいわ!」
「おねあい!」
アイナとマイは了承する。
「それでは食堂でお待ちしてもらってもよろしいでしょうか?最高の料理にしてお出ししますので」
ザックが厨房の外で待つソニアに2人を席に連れて行って貰うようにお願いする。
(何か色々な事が起こった様だけど何があったのかしら…姫さまも笑顔ですし…待機と命令されたので中の状況が分からなかっただけに歯がゆい、茹で汁って何?)
ソニアは厨房の外で、中の声だけを聞いていた為、何か美味しい物が、できた事だけが分かっている状況だった。
ザックはアイナ達が席に座るのを確認すると料理人達を呼んだ。
「おい、お前らは、こんな美味い茹で汁を飲んだ事は?」
みんなが首を横に振る。
それもそうだ常識的に考えていつも食事を出した後に廃棄するものなのだ。
それを飲もうと思う方が普通ではない。
「マイ姫様はこれが美味しいものと瞬時に理解したのか?ただいい匂いだけにつられて飲んだとも考えられないよな?」
そう、ただいい匂いだから飲むならわざわざ塩を自分で自ら入れて味を整える様な事は絶対に出来ないのだ。
ましてや塩を渡したが、塩がなんなのかも分からない歳なのである。
ザックは自分に言い聞かせるように同僚達に聞く。ひとつの答えが全員に出てる事、そしてそれを全員で共有する為に。
「「マイ姫様は食神の天使様に違いない!!!」」
一同が大いに誤解する。
(あの笑顔で美味しいと言われたい!)
(マイ姫様に美味しいねって褒められたい!)
等、それぞれのマイに対する願望が爆発している。
ザックが手を叩く。
「全員戻ってこい!マイ姫様達に最高の食事を提供するぞ!」
「「おーーー!!」」
ここにマイ姫食の親衛隊が結成されたのは、まだマイは気付いていない。
厨房からとてもいい香りがしてくる。
給仕がアツアツのスープと少し冷ましたマイ用のスープを持って来る。
アイナはマイを膝の上に乗せ少し冷ました方のスープを丁寧に飲ませる。
スープの中身は、先程の茹で汁にイモとトメトを溶かしたスープに、小さくカットした柔らかくなったキャベ、オークの細く切られたお肉、トメトの果肉を入れ少し塩で味を整えた史上初の出汁スープである。
「うま!うーまー!」
(美味しいわ、やっぱり素材の味がかなり決めてね!かなりいい物を使ってるのにその旨み成分を全て捨ててたなんて…わたしがこの王城の食事を改変して行くわ!!)
マイは美味しいと笑顔でアイナに訴えながら心の中では、食の改変を決意するのであった。
マイの笑顔を見ていたソニアと給仕達そして、厨房の奥から除くザック達が、悶絶している。
((マイ姫様可愛すぎです!!この笑顔を未来永劫守る事をここに!!!))
アイナは嬉し泣きをしながらマイにスープを飲ませていた。
その後、適温となった自分のスープを綺麗に美味しいと言いながら完食した。
それから、毎日マイは厨房に来るようになった。
(アイナと来るかソニアと来るか)
ザックはその度に色々な食材や調味料をマイに見せる様になる。
「マイ姫様、今日王城に下ろされた新しい食材と調味料になります」
マイがその食材や調味料を見て嗅ぎ、適当に指を指す。
「こえと、こえを、じゅして、ちゅぎにこえをいえる!」
それをザック達が調理するとあら不思議…絶品の料理になる。
マイはまだ幼く上手にお話は出来ないので、料理人達はマイの行動一つ一つに気を遣い観察している。
最初に出した特性天使のスープ(ザック命名)は特別な日とマイが食べたい時にしか出て来ない特別料理として受け継がれて行く。
今ではハンバーグやパン、パスタやご飯、焼き魚に刺身等色々な料理がマイの改革により王族の料理として出される。
レシピは門外不出の物としてザックとマイが管理をしている。
だが、マイが王都に卸してもいいと言ったレシピは人伝で伝えられる。
これを、姫天使からの贈り物と言う語り草迄付き、王都の飲食店に伝えられている。
マイが食に精通してる事は伝わっていないが、マイの許可が無いと王城の厨房(最高の料理人)からレシピが出て来ない事は認知されていた。
こうして、たった3年半でコルラド王国とゼム王国(ゼムがマイにお願いしてザックからレシピを貰った為)の食文化は他の国を寄せ付けない歴史的食改革が行われたのであった。
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