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後編
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《一家3人トリカブトによる中毒 クッキーに混入か》
○○県△△市の路上で、麻月 美湖ちゃん(5)が倒れているのが発見され、更に4時間後、自宅で美湖ちゃんの両親の功さん(45)と優香さん(38)が倒れているのを近所の住民が発見した。美湖ちゃんは発見が早かったため一命を取り留めたが、功さんと優香さんは搬送先の病院で死亡が確認された。
美湖ちゃんが発見されたときに所持していた自家製と思われるクッキーに、毒草として知られるトリカブトのアコニチン系アルカロイドが検出された。両親のいた自宅でも同様のものが見つかったため、何らかの理由によりクッキーにトリカブトが混入したものとして、警察では調べを進めている。
菫はスマホでニュースを読んでいた。
テレビで放映された動画も確認してみる。
アナウンサーがニュースを読み上げる中、事件の現場と思しき路上が映し出される。
両端に見えた住宅街には高級そうな家々が立ち並んでいた。
自分の住まいとは大違いの立派な住宅を見つめながら、父の家を訪ねていった時のことを思い出した。
父が家を出ていったのは、自分が小学生のときだ。
障害を持つ母と自分を捨てて、不倫相手の元へ走って言った父。
それ以来直接会ってはいない。
再び父の姿を見たのは、自分が16歳になってからだった。
母の体調が悪化して働けなくなり、菫の家の元々少ない収入は更に減ってしまった。
そこで菫が自ら赴いて、長らく滞っていた養育費の支払いについて、父に話をつけに行ったのだ。
母に教えてもらった家の近くまで来ると、漠然とした不安が急に強くなった。
電話では埒が明かないからと出向いたが、やはり何年も会っていない子供に金の請求などされたら、歓迎などされないだろう。
見えてきた父の現在の住まいを目の前にしてどう訪ねたらよいものか、二の足を踏んでいた。
悩んでいると、住居から誰か出てきた。
菫は慌てて近くの家の陰に身を隠した。
玄関の戸から小さな女の子が飛び出してきた。
庭のプランターに駆け寄ってしゃがみこみ、喜んでいるようだ。
後から大人の女性が出てきた。
手には透明のビニール袋と鋏を持っている。
ーーあれはまさか。
母から再婚して子供がいるとは聞いていたが。
女性はにこにこと女の子に話しかけ、鋏でプランターの花を採集している。
更に家から出てきた男性を見て、私は目を見開いた。
ーー父だ。
幾分老けてはいたが、面影はしっかりと残っていた。
父は女性と女の子の様子を穏やかな目で背後から見つめている。
菫が見ているそれは、どうみても休日を仲良く過ごす温かい一般家庭だった。
菫の心にどす黒いものが頭をもたげてきた。
人の家庭を壊しておきながら、まるでそんな事などなかったかのように、子ども向けの笑顔を貼り付けて、優しい家庭に収まっているあの不倫相手。
同様に父にも憎しみを禁じ得なかった。
父たちの住んでいるこの家からして、充分に裕福な暮らしをしていることは推察できる。
それなのに菫の養育費はもう何年も支払われていない。
持っているスマホだって自分のアルバイトの給料から料金を払っている。
「あの人も新しい家庭を守ってるんだろうね」と以前母が言っていたが、ならば自分達は守られなくても良い存在だったのか。
とてもじゃないが母のように理解を示すことは出来なかった。
あんな所へ顔を出しに行ったとしても、煙たそうに菫を見る父達の顔しか想像できない。
多少大きな形をしていようと所詮は子供だ。
まともに相手にされず、菫が帰った後自分達の子供に「嫌ねえ、あんな乞食みたいなお姉ちゃんになっちゃ駄目よ?」とーーーー
結局菫は父に会わず家に帰った。
菫は父の再婚相手についてSNS等で調べてみた。
自分のアカウントは持っていないようだったが、知人らしき人物のアカウントを見つけることができた。
『優香さんのお手製クッキーすごい~♪ d(* ̄o ̄) マジ商品な出来栄え☆
このパンジーって食べられるんだって σ(´~`*)ムシャムシャ』
実は美湖ちゃんが菫に気付くまで、菫は何度かあの公園に行っている。
自宅近くの山から摘んでいった青紫色の毒花は、見事に小さい女の子の心を掴んだ。
見た目は美しいと言われるが花粉や蜜にさえ毒のある花。
とはいえ根は漢方にもなるらしいから、切り取った根を磨り潰して花に塗っておいた。
自家製のパンジーを用いていたはずの菓子に、どのように美湖ちゃんが持ち帰った花が混入したのだろうか。
黙って持っていった負い目があるから、親にもばれたくなかったのかもしれない。
一部の花をバラバラにして分からなくしてしまったのかもしれない。
更に残りの花でこっそり飯事などして、その手で母のお菓子作りをーーーー。
果たして警察はここまで調査に来るだろうかと、菫は思った。
菫は花を押し付けたわけでも、騙してあげたわけでもない。
「持って行っちゃ駄目だよ」と忠告していた。
ーーーー「駄目だ」っていったんだけどね。
禁止されるとやりたくなるのが、人間の不思議なところだ。
○○県△△市の路上で、麻月 美湖ちゃん(5)が倒れているのが発見され、更に4時間後、自宅で美湖ちゃんの両親の功さん(45)と優香さん(38)が倒れているのを近所の住民が発見した。美湖ちゃんは発見が早かったため一命を取り留めたが、功さんと優香さんは搬送先の病院で死亡が確認された。
美湖ちゃんが発見されたときに所持していた自家製と思われるクッキーに、毒草として知られるトリカブトのアコニチン系アルカロイドが検出された。両親のいた自宅でも同様のものが見つかったため、何らかの理由によりクッキーにトリカブトが混入したものとして、警察では調べを進めている。
菫はスマホでニュースを読んでいた。
テレビで放映された動画も確認してみる。
アナウンサーがニュースを読み上げる中、事件の現場と思しき路上が映し出される。
両端に見えた住宅街には高級そうな家々が立ち並んでいた。
自分の住まいとは大違いの立派な住宅を見つめながら、父の家を訪ねていった時のことを思い出した。
父が家を出ていったのは、自分が小学生のときだ。
障害を持つ母と自分を捨てて、不倫相手の元へ走って言った父。
それ以来直接会ってはいない。
再び父の姿を見たのは、自分が16歳になってからだった。
母の体調が悪化して働けなくなり、菫の家の元々少ない収入は更に減ってしまった。
そこで菫が自ら赴いて、長らく滞っていた養育費の支払いについて、父に話をつけに行ったのだ。
母に教えてもらった家の近くまで来ると、漠然とした不安が急に強くなった。
電話では埒が明かないからと出向いたが、やはり何年も会っていない子供に金の請求などされたら、歓迎などされないだろう。
見えてきた父の現在の住まいを目の前にしてどう訪ねたらよいものか、二の足を踏んでいた。
悩んでいると、住居から誰か出てきた。
菫は慌てて近くの家の陰に身を隠した。
玄関の戸から小さな女の子が飛び出してきた。
庭のプランターに駆け寄ってしゃがみこみ、喜んでいるようだ。
後から大人の女性が出てきた。
手には透明のビニール袋と鋏を持っている。
ーーあれはまさか。
母から再婚して子供がいるとは聞いていたが。
女性はにこにこと女の子に話しかけ、鋏でプランターの花を採集している。
更に家から出てきた男性を見て、私は目を見開いた。
ーー父だ。
幾分老けてはいたが、面影はしっかりと残っていた。
父は女性と女の子の様子を穏やかな目で背後から見つめている。
菫が見ているそれは、どうみても休日を仲良く過ごす温かい一般家庭だった。
菫の心にどす黒いものが頭をもたげてきた。
人の家庭を壊しておきながら、まるでそんな事などなかったかのように、子ども向けの笑顔を貼り付けて、優しい家庭に収まっているあの不倫相手。
同様に父にも憎しみを禁じ得なかった。
父たちの住んでいるこの家からして、充分に裕福な暮らしをしていることは推察できる。
それなのに菫の養育費はもう何年も支払われていない。
持っているスマホだって自分のアルバイトの給料から料金を払っている。
「あの人も新しい家庭を守ってるんだろうね」と以前母が言っていたが、ならば自分達は守られなくても良い存在だったのか。
とてもじゃないが母のように理解を示すことは出来なかった。
あんな所へ顔を出しに行ったとしても、煙たそうに菫を見る父達の顔しか想像できない。
多少大きな形をしていようと所詮は子供だ。
まともに相手にされず、菫が帰った後自分達の子供に「嫌ねえ、あんな乞食みたいなお姉ちゃんになっちゃ駄目よ?」とーーーー
結局菫は父に会わず家に帰った。
菫は父の再婚相手についてSNS等で調べてみた。
自分のアカウントは持っていないようだったが、知人らしき人物のアカウントを見つけることができた。
『優香さんのお手製クッキーすごい~♪ d(* ̄o ̄) マジ商品な出来栄え☆
このパンジーって食べられるんだって σ(´~`*)ムシャムシャ』
実は美湖ちゃんが菫に気付くまで、菫は何度かあの公園に行っている。
自宅近くの山から摘んでいった青紫色の毒花は、見事に小さい女の子の心を掴んだ。
見た目は美しいと言われるが花粉や蜜にさえ毒のある花。
とはいえ根は漢方にもなるらしいから、切り取った根を磨り潰して花に塗っておいた。
自家製のパンジーを用いていたはずの菓子に、どのように美湖ちゃんが持ち帰った花が混入したのだろうか。
黙って持っていった負い目があるから、親にもばれたくなかったのかもしれない。
一部の花をバラバラにして分からなくしてしまったのかもしれない。
更に残りの花でこっそり飯事などして、その手で母のお菓子作りをーーーー。
果たして警察はここまで調査に来るだろうかと、菫は思った。
菫は花を押し付けたわけでも、騙してあげたわけでもない。
「持って行っちゃ駄目だよ」と忠告していた。
ーーーー「駄目だ」っていったんだけどね。
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