遠い記憶、遠い未来。

haco.

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記録ノートに恋焦がれ

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「1985年10月10日」

山内透吾と家族とで同居をすることにした。
私たち、家族は彼の人生を受け入れた。

彼の荷物を中田家に運ぶ作業を今日行なった。

彼と住みたい理由とすれば私の興味なのかもしれない。
彼の歩んできた道はどういったものだったのだろうか。

そんな思いを抱くようになった。

私自身、助けられたのは事実で、意味のない人生を歩んでいた自分と比較してみるととてもちっぽけなものだ。

人の死にも関わりながらも、今の昭和まで生きてきたのだから。
関わってきた人物たちは、どういった思いで亡くなっていったのだろうか。

先日の話の中で彼は「清原初雨」という女性についてを少し教えてもらった。
彼の人生を知ったうえで共にしてきたが、身分の違いから生まれた禁断の恋だった。

それでも彼を愛して、逃亡を図った。

彼は後悔をしていたと語っていた。共にしてきたせいで初雨は亡くならずに済んでいたのかもしれない。

時代が変わっていくともに、いくつもそういった経験をしてきたのだろう。

すべての荷物を運び終わると、彼の部屋を紹介してあげた。


「1985年10月13日」

彼は、居座ることでなにか職を探すと言い始めた。

私にとっては確かにそうするべきだと思った。

一緒に住むのだから、家賃はもらわないといけない。

今日、面接をする先は、近所の配送業のトラック運転手を希望していた。

驚いたことに、彼の履歴を見てみると、

「海技士資格」
「船橋当直3級海技士」
「運行管理補助者」
「クレーン運転士」
などさまざまな資格を持っている。

見た目も若いから、面接しても採用されやすいだろう。

「1985年10月14日」

私の使わなくなったスーツを彼に貸してあげた。
午前中に、配送業1件面接しに行く。

夕方に帰ってくると、驚いたことにスーツが少し、ボロついていた。
少し、生々しい匂いも立ち込める。
どこに行ったのか、問い出させてみると、面接後にアフリカまで行ったと言っていた。
テレポート使えるからどこへでもいけるのは、いいがちゃんと連絡してほしいものだ。

結果を聞くと、「採用」したとのことだ。


「1985年10月15日」

休日ということもあり、彼の採用祝いも兼ねて夕方に外出をしにいった。

代官山の小道を歩きながら、彼は懐かしいなあと言いながら、
歩きながら小洒落た店で飲食をしにいった。

今までいろんな場所を転々としていたのだろう。
話を聞けば、日本を一周するぐらいは行ったと言っていた。

目的の店を見つけると、足早となる。
店内に入るとまっしろのコンクリート剤を使った壁になっている。
木材との相性が良いのか、ナチュラル雑貨など置いてもよさそうな雰囲気があった。
六人ほど座れるテーブルに座り、注文をするとオーナーの男性は彼を見るなり、驚いていた。

話を聞いてみると、昔の顔なじみだそうだ。

透吾自身、オーナーと学生の頃に遊んでいた友だそうだ。
オーナーの歳は45だと言っていた。

まず見た目だけで言うなら、お兄ちゃんと弟だ。

「全然、変わらないな」というが、それは当たり前というべきだろうか。

彼は、もっといるのだろう、人生で会ってきた人達が。

少し安心した自分がいた。


             ※

一旦、ノートを閉じると、さすがに目が疲れていることにセイカは、気づいた。
気づけばもう、23時になっている。

公園から見る、満天の星空を見て、自然のプラネタリウムを見ているようなものだった。

御湯を沸かして粉コーヒーを溶かして、星空を眺めながら見とれていた。


それでも頭の中では彼のことを考えていた。
山内透吾の過去を見るたびに芽生えてくるものがあった。

「早く、彼に会いたい・・・」

焚き火は少しづつ火を弱めながら、セイカが眠りにつくまで灯し続けていた。
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