遠い記憶、遠い未来。

haco.

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テレポート

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二人暮らしをはじめて、4年は過ぎていた。
このところの蓮は、どこか虚ろな顔をしていた。

そして今日の朝も、ため息をつきながら起きてきた。

「どうしたの?ため息なんかついて」

「いや、なんかね。ミユは気づかない?」

「なにが?」

「付き合った頃から今の自分との変化というか」

「変化?」

「オレ、歳とらないんだ」

「ん?冗談?」

「冗談に見える?」

「ん?・・・・・・」


ミユは蓮のいっていることがその時は冗談のように見えていた。

休日の土曜日に、彼は必ずどこかに行く癖があった。
いつの間にかいない。

戻って来たときには、どこか汚れている。そしてまた臭い。

「ねえ、いつもどこに行ってるの?」

「動物園?」

ミユはまた質問をした。

「うん。動物園だよ。」

「ミユも来るかい?」

「私。どうも動物園の独特のニオイがダメで・・・」

「よし!ミユを連れて行ってあげる。」

「だから・・・苦手だって、」

蓮はどうしても連れていきたいそうだ。

「じゃあ、一回だけよ」

ミユは弁当を作って支度を始めた。綿生地のワンピースに下にカーキ色のジーンズをはいた。

「汚れないか?」
蓮は不安な目で訴えてくる。

そして、ドアを開けて蓮と手を繋いだ。

「え!」

突然、目の前の景色が変わっていた。
広大な茂みがある、中央の岩場の上に、蓮とミユはいた。

「ここはどこ?」

「アフリカ!サバンナだよ」

「その前に聞きたいわ」

「なに?」

「なぜ、場所が変わっているのよ!」

「テレポート、隠してるつもりはないけど。使えるんだ」

「テレポート?瞬間移動ってこと!信じられない・・・」

「でも、現実だよ。ほら!あそこ!」

蓮が指指す方向を見ると、ライオンの群れが私達を囲んでいた。

「い、いや!」

「大丈夫だよ。襲いはしないよ」

「なんで、平然といられるのよ」

「おいで!」蓮はライオンを誘うが

「やめて!誘わないで!早く日本に戻して!」

ミユは、恐怖におびえているのに


蓮に近づいているライオンは、飛びかかろうとしていた。

「もう、見てられない!」

と言うと。

「やめろよ!くすぐったいから」と聞こえてきた。

蓮はライオンとじゃれ合っていた。

「なんで・・・」

「だから大丈夫だって言ったろ」

蓮の前ではライオン達は、大人しくなついている。

お腹を出していて、手でさすっていた。

「グルル・・・」

「どうしてなの?」丘の上で怯えながらも話をしていた。

「オレの本体である山内透吾はこの世界の創造主らしい」
「オレはクローンだが、彼の記憶や力はそのまま引き継いでる」

「動物達は、そんなオレの前ではわかるらしい。彼らの創造主だと言うことが」

蓮はライオンとじゃれ合いながら、言った。

「ほんとにそんなことが・・・」
ミユは信じられなかった。

「蓮はずっとここに遊びに来てたんだ」

「まあね」

服が臭い理由は、これだった。

ミユは、彼の過去をもっともっと知りたかった。

「なあ、お腹空いた」

「どこかでご飯にしよう」

「そうね」

 「どこ行きたい?」

「え?」

「どこへでも行けるよ」

「オーロラでもアメリカでもヨーロッパでも」

「普通に日本がいい、私の故郷に」

「どこ?」

「福岡、糸島市に。」

「了解」

蓮は丘の上にまた戻ると手を差し伸べてきた。

「行こう!」

ミユは思っていた。蓮の心にずっと寄り添おうと。
どんな過去があっても、どんな力を持っていようと。

羽角蓮が不老不死であろうと。
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