沢田くんはおしゃべり2

ゆづ

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第2章 沢田くんとサバイバル

小野田くんと叔父さん

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 * * *

 トンネル内で沢田空と佐藤景子が何者かに追われ、大ピンチを迎えていた頃からほんの少しだけ時間は遡る。


 ビーチからキャッキャウフフな笑い声が聞こえる中、ヤシの木からぶら下がった二人──空の叔父と小野田は太陽に焼かれて消耗していた。

「あ~喉渇いたな~。空、早く来てくれないかな~!」
 叔父さんは退屈そうにボソボソ呟く。
「もしかして、今頃沢田も罠にかかっているんじゃ……⁉︎」
 小野田は心配そうにぶつぶつ呟く。

「まあまあ、気にするな、金髪くん。空は昔っからドジで間抜けで陸のいたずらには100パーの確率で引っかかっていたけど、大丈夫だろ!」
「今の話のどこに大丈夫だと思える要素があるんですか?」
「ちっちゃいことは気にするなって! あーそれにしても暑ちい~!」

 心配だ。
 小野田の不安は膨らむ一方だった。

「ちくしょう! 沢田の大親友である俺が沢田の足を引っ張ってどうするんだよ! 今頃あいつは俺の助けを待っているに違いないのに!」
「気にすんなって。きっとあいつは彼女とイチャイチャしながら楽しくやってるよ!」
「いや、沢田は俺と似て不器用で無口で伝えたいことの1/3も伝わらない純情な感情でじれったいハートがもどかしいほど痛くて誤解されやすい性格だから、いつあの子に愛想尽かされてもおかしくない! やっぱり俺がサポートしてやらなくちゃ……うおおおおおお~~!!」

 小野田は勝手に使命を燃やし、網を掴んで左右にひっぱった。

「おいおい、何言ってるか分かんねーけど無駄な抵抗はやめろって。こんな頑丈な網を手で破れるわけないって。そんなことできたらヒグマかツキノワグマかホッキョクグマよ?」

 全部クマだな。っていうツッコミをする人間はこの場にいなかった。

「うおおおおお~~!! 沢田は俺が、た、す、け、る、ん、だ~~!!」

 足も使いながら小野田が一つの網目を極限まで引っ張った結果、ブチブチッと音を立てて網が切れた。

「やったー!」
「嘘だろ⁉︎」

 破れた箇所から両足を突き出し、小野田は地上に降りる。そして、ヤシの木の下でまだぶら下がっている叔父さんを振り返り、不気味な笑顔(本人は爽やかに笑っているつもり)を見せた。


「それじゃ、俺は沢田を助けに行くんで!」
「待て、金髪くん!」
「すみません、叔父さんのことは後で必ず助け出すので!」
「バーカ、そんなちっちゃいことは気にするなよ!」

 叔父さんは笑顔でピースをした。


「それよりビール2本、持ってきて!」


 さっきのピースはビールの本数を示していたのかと気づく前に、小野田は空の救出へと向かっていった。


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