沢田くんはおしゃべり

ゆづ

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第6章 沢田くんと夏の恋花火

沢田くんと願いの短冊

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「あ、あのー……感動の再会中にすみません」
 声をかけると、二人はようやく離れて私に気づく。

「あ、あ、あ、あ、どうも。ありがとうございました。お母さん、こ、この子が例の……」
「ああ、お父さんを駅で拾ってくれた子ね? どうぞ中へ。空は今ちょっといないけど、お茶でも飲んで行ってね」

 にっこり笑う沢田くんのお母さんの言葉に、私は驚いた。

「えっ? 沢田くん、いないんですか⁉︎」

「ええ。ほんとにさっきまでいたんだけど、急に家を飛び出して行っちゃって。どうしても行かなくちゃいけないところがあるとかなんとか。せっかく親子で水入らずだと思ったのにねえ。本当に困った子だわ」

 まあ、どうぞどうぞと勧められ、私は沢田家のリビングにお邪魔した。
「うわあ……」

 そこには、七夕なのになぜかでっかいクリスマスツリーが飾られていて、枝には呪いのように赤い短冊がいっぱいぶら下がっていた。

 異様な光景が沢田くんちっていえば沢田くんちらしいけど。


「驚かせてごめんなさいねえ。これ、みんな空が書いたのよ」
 呆れたように沢田くんのお母さんが笑う。


「……見てもいいですか?」
「ええ、どうぞー」

 沢田くんの願い事が気になる。
 私はゆっくりとツリーに近づいて、その中の一つの短冊を手に取った。
 するとそこには──。


『佐藤さんと毎日会えますように』


 沢田くんの字ではっきりと書かれた、私の名前。
 驚いて心臓が止まるかと思った。
 まさかと思って慌てて他の短冊も見ると、
 

『佐藤さんが浴衣でみんなと楽しんでいますように』
『佐藤さんがリンゴあめを食べて喜んでいますように』
『佐藤さんが綺麗な花火を見られますように』
『佐藤さんがいっぱい笑っておしゃべりをしていますように』
 

 あっちも、こっちも、私の名前ばっかり。
 自分のことは何ひとつ書かないで。


『明日、佐藤さんと仲直りできますように』
『佐藤さんがまたいつものように笑ってくれますように』
『佐藤さんにもう一度好きって言えますように』

  
 こんなの、涙が出ちゃうよ、沢田くん。


『佐藤さんが幸せになりますように』


 短冊全部、私のことで。
 喉が苦しい。


「びっくりしたでしょー?」
 明るい声に振り向くと、沢田くんのお母さんがお盆に麦茶を乗せて立っていた。


「あの子、よっぽどこの佐藤さんって子が好きみたい。普段は無口な子なのに……心の中はいつもこんなにおしゃべりだったのね」




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