沢田くんはおしゃべり

ゆづ

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第5章 沢田くんと愛の告白

沢田くんと席替え2

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「おーい! あと、引いてないの沢田と佐藤さんだけだぞ! 早く来いよ!」

 ずっと私の隣にいて。
 そんな私の恥ずかしいセリフの上に、黒板前で叫んだ森島くんの声が被った。

【これからもずっと……なんて言ったんだろう、佐藤さん(・Д・) 語尾だけよく聞き取れなかった】

 沢田くんはキョトンとしている。
 タイミング悪すぎだよ、森島くん。
 でも……きっと、もうタイムリミットはとっくに過ぎていたんだよね。
 森島くんの声で、くじを引き終わったみんなが私たちに注目している。
 言い出せなかった、私の負けだ。
 私は椅子の足を鳴らして立ち上がった。

「ごめん。何でもない。いこっか。沢田くん」
「あ、うん【なんだったんだよー! 気になって仕方ないよ~!。゚(゚´Д`゚)゚。】」

 衆人環視の中で沢田くんと黒板の前に行くと、森島くんがニヤニヤしながら私たちに向かって箱を突き出した。

「残り物には福があるかも?」
「?【服(・Д・)? こんなに小さい箱に?】」

 ふくちがいだよ、沢田くん。

 最後に微妙な笑いを沢田くんからもらって、私はくじを引いた。

 数字は8。

 黒板で確認すると、なんと真ん中の列の一番前、先生と黒板の目の前の席だ。
 どこに福があるの? 最悪なんですけど!
 凹みそうになった、その時だ。


【えええええ~~一番前の席! しかも黒板の目の前だよ!! 居眠りこいたら即バレるよ~~!!。゚(゚´Д`゚)゚。 やっぱ俺ってくじ運ない。佐藤さんとは離れるし、席替えなんて大嫌いだよ~~!!】


 自分の番号を見た沢田くんの叫びに、私はうつむきかけた顔を上げた。
 私も沢田くんも正面の一番前の席。っていうことは……!


【今朝の礼だ。佐藤さんと隣の席にしておいた。ただし一番目立つ席にしておいたから、後ろから見ててイチャイチャしてたら即みんなへ通報すっからな】


 箱を片付けている森島くんからそんな声がする。
 私の頬が自然とゆるむのを感じた。
 
「森島くん」
 私の声に振り向いた森島くんが、意味ありげに口の端を上げた。
「ありがとう」
「何のこと? いいから早く、机を動かしなよ。二人が動かないからあの席の奴らが困ってるよ」
「あっ、そうだね。ごめん」

 満面の笑みを浮かべると、今度は沢田くんの方から声がした。


【佐藤さん、森島くんと仲良さそうに笑っている……! ああっ、もしかして俺、フラれたのか⁉︎ 。゚(゚´Д`゚)゚。 あああ~~~!!!】

 真実を知らない沢田くんだけが悲しみの声を上げる。
 待っててね、沢田くん。
 すぐに沢田くんを笑顔に変えてあげるから。


「早く席替えしよ、沢田くん」
「……うん【佐藤さん、未練なさそうだな……。ぐすん。゚(゚´Д`゚)゚。】」


 こうして私と沢田くんのXデーは終わった。
 でもそれは新たな始まりに過ぎなかった。


「またよろしくね、沢田くん!」
「あ、うん……【また佐藤さんと……!! 俺、一生分の幸運使い果たしたかも!!((((;゚Д゚))))))) でも嬉しい~~~!!。゚(゚´ω`゚)゚。】」

 黒板の前で私と再会した沢田くんは、心のしっぽを全力でパタパタと振った。 
 そんな沢田くんに、私は小さな声で告白する。


「これからも、ずっと私の隣にいてね」


 沢田くんはまたキョトンとした顔をした。

【席の話かな? ずっとって言ってもまた1ヶ月ぐらいしたら席替えになっちゃうのに。可愛いなあ、佐藤さん(*´꒳`*)】


 分かってないなあ、もう。
 でもそんな沢田くんが大好きだよ。


 見つめ合って自然と生まれた私たちの笑顔は、まだ眩しい初夏の夕陽の中で柔らかく溶け合い、ひとつになった。


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