沢田くんはおしゃべり

ゆづ

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第2章 沢田くんとお友達から

沢田くんと謎の両親

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 小野田くんを追い出すことを諦めた沢田くんは、私たちを自分の部屋まで案内してくれた。

「ここ……【俺の部屋、何もなくて恥ずかしい】」

 沢田くんがドアを開ける。
 そう言えば私、男の子の部屋に入るの初めてだ。どんな部屋なんだろう、ワクワクしちゃう。
 そんな私の目に飛び込んできたのは、謎の民族が愛用していそうな細長い怪しげなお面だった。


「え?」


 その数、実に20個以上。壁一面にズラッとお面が勢揃いしている。
 何だこれ。呪われそうなんですけど!!


【……つまらない部屋でごめんね、佐藤さん。面白いものは何もないよ】


 いやいや、つまらないことはない。ものすごく興味がひかれる部屋だよ!!


「何だこれ! お前んち、呪われそうだな!!【怖えよ~~!! 何だよこのお面、どこで手に入るんだよ!! 現地感がすごいな!!】」

 小野田くん、あなたは私の代弁者か。

「別に【呪われないよ。父ちゃんが仕事で行った国のお土産が溜まっているだけ】」
「お土産品かなあ? お父さんから?」
「……うん」
「へえ~。お父さん、何やってる人?」


 私が何気なく尋ねると、沢田くんは恥ずかしそうに目を逸らした。


「……吟遊詩人」



 吟遊詩人⁉︎

 何それ、RPGに出てくる職業みたいなんだけど⁉︎
 私は驚いて沢田くんを二度見した。すると、小野田くんが怖い顔で沢田くんの胸ぐらを掴んだ。

「おい、ふざけんなよ沢田! それはゲームの職業だろ? お前の父ちゃん、世界を救う旅にでも出てんのか?【吟遊詩人なんて初期は役に立たねえんだよ! どうしてもっていうならスーパースターへの転職目指せ! 頑張れ、沢田父!!】」

「……!【うわあああん。゚(゚´Д`゚)゚。本当のことなのに、何なんだよこの人! 俺の父ちゃんの職業疑う前に、自分のあらくれキャラを直してよ! このままだと間違いなく牢獄行きの囚人だよー!!】」


 ド○クエやってる人にしか分からない会話が見事に心の中で戦わされている。


「ちょっと、小野田くん! 沢田くんは病人なんだからもっと優しく!」
 私が止めに入ると、小野田くんはやっと沢田くんから手を離した。


「大丈夫? 沢田くん」
「うん【佐藤さん……やっぱり天使】」

 沢田くんはキラキラした瞳で私を見つめた。病気で弱っているせいか、頬が赤くて目が潤んでいてもう可愛いったらない。


「それにしても、吟遊詩人って本当にいるんだね。初めて知った」
「うん……【みんなびっくりする】」
「やっぱり、世界中を旅してるの?」
「うん。今は日本にいるけど……すぐにいなくなる【放浪癖がすごくて、急にいなくなるんだ……。気がつくと帰ってきて、俺の部屋にお面だけ置いていってまたいなくなる、みたいな】」


 沢田くんのお父さんはずいぶん破天荒な人のようだ。沢田くんも大変だろう。


「そんなに旅ばっかしていて、金はどうしてるんだよ? 歌なんか歌ったって稼げねえだろ?」
「……分かんないけど、うちは母ちゃんが稼いでるから……」
「ヒモかよ。情けねえなあ【可哀想な沢田(;ω;)】」


 小野田くん、言動と心の声の不一致が過ぎる。

「じゃあ、沢田くんのお母さんはどんな仕事してるの?」
 私はフォローのつもりで尋ねてみた。

 すると再び沢田くんは恥ずかしそうに私から目を逸らして言った。



「……女王」



 ちょっと待て。
 吟遊詩人より衝撃的なの、来たんですけどーーー!!!




 


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