13 / 160
第1章 沢田くんと恋の予感
沢田くんとお礼の品
しおりを挟む【バカなこと考えている場合じゃない】
散々おもしろ脳内劇場を繰り広げた挙句、沢田くんは急に我に返った。
【佐藤さんに、謝らなくちゃ】
チラッと右隣を見てみると、真剣な横顔の沢田くんがいた。ずっと真面目に授業を聞いていたとしか思えない、澄んだ眼差しにキュンとしてしまう……。
謝るのは私の方だ。
ごめんね、沢田くん。
私みたいな名前も顔も普通の女の子が沢田くんと釣り合うわけないのに、勝手に好きになろうとして。
頭、冷やさなくちゃ。
私は沢田くんの声を聞かないように、右側だけ頬杖をつくフリをして耳を塞いだ。
♢
「あ……【あの、佐藤さんっ】」
沢田くんの声が聞こえてきたのは、授業が終わった時のことだった。
ドキッとして振り向くと、ちょっとコワイ顔をした沢田くん。
【あっ、こっち向いた。ヤバい! キンチョーして顔がこわばっちゃうよー。゚(゚´ω`゚)゚。ごめんね、ごめんね、佐藤さんっ_( _´ω`)_ペショ】
ちくしょう。クッソ可愛いな!!
私はニヤニヤしそうになるのを必死で堪える。
「何? 沢田くん」
「これ……【もらって】」
「え?」
沢田くんはコワイ顔をしたまま、私に何かを差し出した。
それは、私が半分こにして沢田くんにあげた消しゴムに、ノートを切り取って作ったのだろうか、フニャフニャの手足がついたマスコットだった。
その手足が、土下座の形に折りたたまれている。
【土下座おじさんを譲ってくれたお礼……伝わるかなあ】
お礼なんだ、これ。言われなかったら分からなかったかも。
でも、素直に嬉しい。
「あ、くれるの? ありがとう! わあ、土下座おじさんそっくりだね! 可愛い~!」
私は大喜びでそれを受け取った。
「ありがとうね、沢田くん! すっごく嬉しい!」
「いや……【佐藤さん、すっごく喜んでる……。良かった、機嫌直ったみたい】」
沢田くんのほっとした心の声が聞こえて、私もほっとする。
【ありがとう、土下座おじさん】
【良かったな、沢田空】
【おじさんのおかげだよ!】
あっまた脳内劇場が始まった。
【やっぱり男は黙って土下座だね、土下座おじさん。佐藤さん、おじさんのこと可愛いって。おじさんの可愛さに嫉妬】
【はっはっは。おじさんが可愛いからって佐藤さんへのプレゼントにおじさんの顔描いちゃダメだろ。まったく、困ったやつだな沢田空よ】
えっ? おじさんの顔?
私はもらった土下座消しゴムを裏返してみた。するとそこには、ゴ◯ゴ13のデュー◯東郷みたいに劇画チックな渋い顔をしたおじさんが土下座という行為に反する不敵な笑みを浮かべていた。
なんだこのアンチテーゼは。
っていうか、沢田くん無駄に絵が上手いんだけど、マジで何者なの──⁉︎
0
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説



サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
燦歌を乗せて
河島アドミ
青春
「燦歌彩月第六作――」その先の言葉は夜に消える。
久慈家の名家である天才画家・久慈色助は大学にも通わず怠惰な毎日をダラダラと過ごす。ある日、久慈家を勘当されホームレス生活がスタートすると、心を奪われる被写体・田中ゆかりに出会う。
第六作を描く。そう心に誓った色助は、己の未熟とホームレス生活を満喫しながら作品へ向き合っていく。
生きづらい君に叫ぶ1分半
小谷杏子
青春
【ドリーム小説大賞応募作】
自分に自信がなく宙ぶらりんで平凡な高校二年生、中崎晴はお気に入りの動画クリエイター「earth」の動画を見るのが好きで、密かにアフレコ動画を投稿している。
「earth」はイラストと電子音楽・過激なメッセージで視聴者を虜にする人気クリエイターだった。
そんなある日、「earth」のイラストとクラスメイトの男子・星川凪の絵画が似ていることに気が付く。
凪に近づき、正体を探ろうと家まで押しかけると、そこにはもう一人の「earth」である蓮見芯太がいた。
イラスト担当の凪、動画担当の芯太。二人の活動を秘密にする代わりに、晴も「earth」のメッセージに声を吹き込む覆面声優に抜擢された。
天才的な凪と、天才に憧れる芯太。二人が秘める思いを知っていき、晴も自信を持ち、諦めていた夢を思い出す。
がむしゃらな夢と苦い青春を詰め込んだ物語です。応援よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる