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第1章 沢田くんと恋の予感
沢田くんと心の声3
しおりを挟むこんなふうに朝から胃が痛い私だけど、この能力を持ってから唯一楽しみになったことがある。
「おはよう、沢田くん」
それは、隣の席にいる、沢田 空くんにこうして声をかけることだ。
彼はうちのクラスのもう一人のイケメンさんで、茶髪で軽そうな森島くんと違ってしっとりとした黒髪の似合う硬派な男の子だ。
「あ、うん」
彼はチラッと私を見て、素っ気なくボソッとそう言った。
沢田くんはとにかく発語が短く、感情が顔に出ない。
無口でミステリアスで近寄りがたい空気をまとった一匹狼みたいな人だ。
でも私は彼を見るたびニヤニヤしてしまう。
……そろそろくるかな。
【あ、うんってなんだよ。金剛力士像か俺は】
キターーー!!!
ヤバい、一言目からなんか面白い!
私は必死で笑わないように気をつける。けれどもこんなのはまだ序の口だ。沢田くんの本領発揮はこれからだ。
と思った瞬間、第二波が来た。
【いや、阿吽と言えば金剛力士より狛犬の方がメジャーかな。確か、口を開けているやつと閉じているやつがいて、開いてる方が「阿」でメスだって聞いたことあるけど……って、だから何なんだ。こんなこと考えてる場合じゃないんだよ。今、佐藤さんからおはようって言われたのになんで俺は狛犬のこと考えてるんだよ。アホか。このクズ。コミュ障。生きていてごめんなさい。佐藤さんに悪すぎる。ああ、でも佐藤さんは俺のことなんかもう気にしてないよな? こんなクズにスルーされたところで傷ついたりしてないよな? 自意識過剰だよバカ。熱い鉄板の上で正座して土下座しながら詫びろ。って、トネ○ワじゃねえんだから】
うーん、すごい。
「あ、うん」の一言から『カ○ジ』のトネ○ワまでたどり着く?
今日も絶好調のその心の声、ヤバいよ沢田くん!!
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