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結末
307 旅立ち 1
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アレスがこの世を去ってから、二年の時が過ぎた。
グルドラリア王国にあった三つの公爵家。
ローバン、バセルトン、ヘーバイン。
三公爵領は統合し、現在では一つの国家に変わっていた。これまで存在し得なかった、グルドラリア王国の敵対国として。
ベファリス王子を始め、中央貴族は公爵家の失墜を目論んでいたが、国家として対立をする形となり、やがて新たな王を推戴して徹底抗戦した。
亡きアレスを今更陥れようとするベファリスに対してアークが黙っているはずもなく、アレスの仲間だったハルト達率いる部隊は、これまでの経験を活かし数多くのダンジョンを攻略した。
ダンジョン攻略者。その効果が絶大なもので、新国家の民は支持を一気に高める。
アレスが残していった、強者の武器は今も尚その力を各地で奮っていた。
ダンジョンに怯えることが無くなった民達のおかげで、国力の差はますます開いていく。
アレスの提案で冒険者専用の学園が設立された。パメラとメアリの指導によりラカトリア学園とは比べようもない質の高さに、歴然の差を見せつけている。
たとえ優秀であっても、最初から学園生だけでダンジョンに挑ませるようなこともなく、既に活躍している冒険者たちを付き添わせ経験を積ませた。
レベルアップという見えない概念を元に、魔物と対抗していく生徒たちは指導を受けながら均等に魔物を倒していくことで、確実な成果を上げていった。
冒険者を志す多くの者がこの学園で教育を受け、またクラン制度が導入された結果、冒険者たちの犠牲者は減っていく。
グルドラリアに属していた元グルーザイド公爵領。
新国家は、数々のダンジョンを制覇し、豊かになっていく一方。
疲弊し続ける領地を見て、ダンジョンの脅威に対抗するため新国家に属することになる。
グルドラリア王国として当然納得できるものではない。
報復のために、兵士が送られるものの、戦力差によって迎え撃たれる。
このようなことになった背景は、三公爵が居なくなったことでグルドラリアでは、これまでのような対策が取れなくなり、ダンジョンにいる魔物の数が増え犠牲者が増え続けていたことにあった。
ハルトとレフリア達によって、グルーザイドのダンジョンが攻略されたのが決定打となって、民を守るため属する方法しか生き残るすべがなかった。
グルーザイドが無くなったことで、グルドラリア王国は更に荒れていく。国交は完全に断絶されているので、食料の供給は絶たれ残されていたダブグレストも、疲弊していく国に見切りをつけた。
これで、全ての元公爵領が一つの国へ変わった。
全方面から、包囲された形となったグルドラリア王国に、新国家に対抗するだけの力は無くなっていた。
アーク達はこれ以上何もすることはなく、グルドラリア王国が滅びゆくさまをただ待ち続けていた。
全ての資源を絶たれた王国周辺では、農地が広がるものの民は貧しい生活を強いられていた。
民は救いを求めて国から離れ、アーク達は困窮する民たちを快く受け入れた。
仕事を与え、まともな生活ができるようにと、何もかも準備を整えていた。
その事実を知ったため更に多くの民がグルドラリアから逃げ出していく。
「陛下! このままでは我がグルドラリア王国は……」
新国家が生まれ、二つの元公爵家が寝返ったこの出来事は、ベファリスが王となってわずか一年の事である。
ダンジョン攻略者という肩書きを使い、王になったことで、三公爵は予てより計画していたことを実行する。新国家を敵に回したことで、国を維持する事ができないほど国力は落ち込んでいた。
「黙れ! お前達の言いたいことぐらい分かっている」
せっかく王になったものの、城から見える王都は以前のタシムドリアンのように荒れ果てていた。
平原に農地を作ったとしても、すぐに実るはずもなくまだ農地とも言えないものばかりだった。
これまで勝手気ままに暮らしてきたベファリスにとって、今のような生活に耐えられるはずもなく何もかもに苛立ちをぶつける。
「随分と、お困りのようですね」
渦を巻いた黒い闇の中から、真っ黒なローブで身を包み顔を隠した者が突如姿を現す。
「貴様は!?」
「嘆かわしいですね。そんなに憎いのですか? あの、アレス・ローバンが」
その言葉を聞き、ベファリスは、目を大きく開き剣を抜く。
ギリッと歯を鳴らしその顔は憎悪へと変わっていく。今もなお、その名前を聞いただけで怒り狂う彼の姿を見て、両手を広げてため息を漏らす。
「本当に情けない人ね」
「無礼者! 衛兵、コヤツをこ、ろ……」
腰を抜かしていたにも関わらず、威勢のある声は最後まで言葉を発することもなく、首が切り落とされて、床に転がった。
また剣を抜こうとした何人もの衛兵全てが、黒い刃によって背中から胸を貫かれていた。
ベファリスは殺されなかったが、剣だけがずたずたに斬られていた。
「お前は一体……」
「まさか、こんな事になるだなんてね、思いもよらなかった。今の貴方は最早害悪でしか無いのよ。さようなら」
そう言い放ち手をかざした先には、黒く何かがうごめくような球体が出現した。
腕を下ろすと球体は床を突き破り、下へ下へと突き進んでいく。その衝撃によって壁に多くの亀裂が入っていた。
「それでは、ごきげんよう……殿下。いえ、今は、陛下でしたね」
そう言い残し、闇に飲まれるとさっきまで居た人物は、ベファリスの前から完全に姿を消した。
最下層まで到達した球体は大爆発を起こしたが、まるで結界が張られたかのように街に被害はなく城だけが崩壊して王宮は姿はただの瓦礫すら残らない荒野に変わる。
「哀れな最後ね」
かつて栄えていた、グルドラリア王国はその王政に幕を下ろすこととなる。
何が起こったのかわからないまま、アーク達は事態の収拾に乗り出し、残っていた民を救済しつつ調査を進めていく。
しかし、何一つとしてわからないまま、何もかも終わっていた。
グルドラリア王国にあった三つの公爵家。
ローバン、バセルトン、ヘーバイン。
三公爵領は統合し、現在では一つの国家に変わっていた。これまで存在し得なかった、グルドラリア王国の敵対国として。
ベファリス王子を始め、中央貴族は公爵家の失墜を目論んでいたが、国家として対立をする形となり、やがて新たな王を推戴して徹底抗戦した。
亡きアレスを今更陥れようとするベファリスに対してアークが黙っているはずもなく、アレスの仲間だったハルト達率いる部隊は、これまでの経験を活かし数多くのダンジョンを攻略した。
ダンジョン攻略者。その効果が絶大なもので、新国家の民は支持を一気に高める。
アレスが残していった、強者の武器は今も尚その力を各地で奮っていた。
ダンジョンに怯えることが無くなった民達のおかげで、国力の差はますます開いていく。
アレスの提案で冒険者専用の学園が設立された。パメラとメアリの指導によりラカトリア学園とは比べようもない質の高さに、歴然の差を見せつけている。
たとえ優秀であっても、最初から学園生だけでダンジョンに挑ませるようなこともなく、既に活躍している冒険者たちを付き添わせ経験を積ませた。
レベルアップという見えない概念を元に、魔物と対抗していく生徒たちは指導を受けながら均等に魔物を倒していくことで、確実な成果を上げていった。
冒険者を志す多くの者がこの学園で教育を受け、またクラン制度が導入された結果、冒険者たちの犠牲者は減っていく。
グルドラリアに属していた元グルーザイド公爵領。
新国家は、数々のダンジョンを制覇し、豊かになっていく一方。
疲弊し続ける領地を見て、ダンジョンの脅威に対抗するため新国家に属することになる。
グルドラリア王国として当然納得できるものではない。
報復のために、兵士が送られるものの、戦力差によって迎え撃たれる。
このようなことになった背景は、三公爵が居なくなったことでグルドラリアでは、これまでのような対策が取れなくなり、ダンジョンにいる魔物の数が増え犠牲者が増え続けていたことにあった。
ハルトとレフリア達によって、グルーザイドのダンジョンが攻略されたのが決定打となって、民を守るため属する方法しか生き残るすべがなかった。
グルーザイドが無くなったことで、グルドラリア王国は更に荒れていく。国交は完全に断絶されているので、食料の供給は絶たれ残されていたダブグレストも、疲弊していく国に見切りをつけた。
これで、全ての元公爵領が一つの国へ変わった。
全方面から、包囲された形となったグルドラリア王国に、新国家に対抗するだけの力は無くなっていた。
アーク達はこれ以上何もすることはなく、グルドラリア王国が滅びゆくさまをただ待ち続けていた。
全ての資源を絶たれた王国周辺では、農地が広がるものの民は貧しい生活を強いられていた。
民は救いを求めて国から離れ、アーク達は困窮する民たちを快く受け入れた。
仕事を与え、まともな生活ができるようにと、何もかも準備を整えていた。
その事実を知ったため更に多くの民がグルドラリアから逃げ出していく。
「陛下! このままでは我がグルドラリア王国は……」
新国家が生まれ、二つの元公爵家が寝返ったこの出来事は、ベファリスが王となってわずか一年の事である。
ダンジョン攻略者という肩書きを使い、王になったことで、三公爵は予てより計画していたことを実行する。新国家を敵に回したことで、国を維持する事ができないほど国力は落ち込んでいた。
「黙れ! お前達の言いたいことぐらい分かっている」
せっかく王になったものの、城から見える王都は以前のタシムドリアンのように荒れ果てていた。
平原に農地を作ったとしても、すぐに実るはずもなくまだ農地とも言えないものばかりだった。
これまで勝手気ままに暮らしてきたベファリスにとって、今のような生活に耐えられるはずもなく何もかもに苛立ちをぶつける。
「随分と、お困りのようですね」
渦を巻いた黒い闇の中から、真っ黒なローブで身を包み顔を隠した者が突如姿を現す。
「貴様は!?」
「嘆かわしいですね。そんなに憎いのですか? あの、アレス・ローバンが」
その言葉を聞き、ベファリスは、目を大きく開き剣を抜く。
ギリッと歯を鳴らしその顔は憎悪へと変わっていく。今もなお、その名前を聞いただけで怒り狂う彼の姿を見て、両手を広げてため息を漏らす。
「本当に情けない人ね」
「無礼者! 衛兵、コヤツをこ、ろ……」
腰を抜かしていたにも関わらず、威勢のある声は最後まで言葉を発することもなく、首が切り落とされて、床に転がった。
また剣を抜こうとした何人もの衛兵全てが、黒い刃によって背中から胸を貫かれていた。
ベファリスは殺されなかったが、剣だけがずたずたに斬られていた。
「お前は一体……」
「まさか、こんな事になるだなんてね、思いもよらなかった。今の貴方は最早害悪でしか無いのよ。さようなら」
そう言い放ち手をかざした先には、黒く何かがうごめくような球体が出現した。
腕を下ろすと球体は床を突き破り、下へ下へと突き進んでいく。その衝撃によって壁に多くの亀裂が入っていた。
「それでは、ごきげんよう……殿下。いえ、今は、陛下でしたね」
そう言い残し、闇に飲まれるとさっきまで居た人物は、ベファリスの前から完全に姿を消した。
最下層まで到達した球体は大爆発を起こしたが、まるで結界が張られたかのように街に被害はなく城だけが崩壊して王宮は姿はただの瓦礫すら残らない荒野に変わる。
「哀れな最後ね」
かつて栄えていた、グルドラリア王国はその王政に幕を下ろすこととなる。
何が起こったのかわからないまま、アーク達は事態の収拾に乗り出し、残っていた民を救済しつつ調査を進めていく。
しかし、何一つとしてわからないまま、何もかも終わっていた。
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