公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透

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強者討伐 失われた武器

226 腹が減ると機嫌が悪い 1

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 見覚えのある冒険者が三人。
 何というタイミングの悪さだ……よりにもよって俺が知っている相手が来るなんて想像もしてなかった。
 それでいて、このヘンタイと顔見知りなのか、仲良く挨拶までしていやがる。

「よいしょっと」

 父上に頼まれて、ダンジョンを攻略していた。そして、コアを破壊しダンジョンの外に投げ出された時、同じくダンジョンに居た連中。あの時といい、今といい、四六時中監視しているというのか?

「心配していたんだよ。アレスがここに運び込まれてさ」

 つまり、俺の存在は最初からバレていたということか。

「まぁ、運んだのはこの俺なんだがなっ!」

 豪快にケインが笑っているが、助けて貰ったのはいいが……何で俺が目が覚めた段階でお前たちが居ないんだよ!
 アルルはわざとらしく、人差し指を頬に当てて「あら、私にはイースって言ってたわよ」なんてほざいている。
 アーチェはあの時と同じようにケラケラと笑っている。

「もしかしなくても、ヘーバイン公爵が?」

 アーチェは、「そうだよ」と言って隠す気もないらしい。
 あの人なら俺に対して監視は付けるか……俺が何をしていたというのもきっと理解しているんだろうな。

「はいはい、俺がわるぅございました。それじゃ、俺も目が覚めたことだし、今から公爵家に戻るのか?」

「何を言ってるの。今は怪我を治すのが先でしょ?」

「そうそう」

 他の二人も、アーチェに同意するかのように頷いている。
 怪我と言っても、これだけ動けるのなら問題はないと思うのだが?
 別に歩くわけ……あー、レフリアからも言われてたよな。人前では飛ぶなって……普通なら歩くか馬車を使うよな。そういう感覚が抜けすぎている気がする。

「手っ取り早くポーションか、回復魔法を使うしか無いか」

「ポーションはともかくとして、回復魔法って……あのね、そんな簡単なものじゃないのよ?」

 この世界の回復魔法はゲームと比べて、時間はかかるし何より魔力の消費が凄まじい。
 とはいえ、ポーションは魔法に比べるとかなり劣る。
 それに種類も一つだけしか無く、一度に大量の服用も禁止されている。

「今は少し休みなさいな」

「そうだよ。休息も大事」

 アーチェの言い分からして、回復魔法を専門に使っている診療所のようなものはないみたいだな。
 ミーアがいてくれればこの程度怪我、数日もあれば治してくれるのだけどな。お小言も当然言われそうだけど……。

「休息か……」

 少しだけ静まっていた腹の虫が再び騒ぎ始めている。
 休めというのだから、食うもん食って寝るものだろう。

「そうまで言うのなら、まずは飯をだな……」

 少し離れた所にいるチェルに視線を送るが、話は聞こえていたようで両手をクロスさせバツを表している。
 我儘なやつだな……そっちがその気なら、別の場所で食えばいいだけだ。
 美味さに固執した所で、腹を満たせないのなら意味がない。
 腰を上げ、外へと行こうとすると、ウィルとケインが立ち塞がる。
 二人の肩を押しのけ、進もうとしてもまた立ち塞がる。

「何処に行くんだ?」

「ここはダメのようだから、別の所に行こうかと」

「そんな事させるわけ無いだろ? 頼むから大人しくしていてくれ」

 俺は皆に取り囲まれ、ここから出さないつもりらしい……こっちもいい加減、我慢の限界なんだ。

「チェルちゃん。少しでいいから何か作ってくれないかしら。この様子だと何をするかわからないみたいなのよ」

「ですが……本当に大丈夫なのですか?」

「仕方がないでしょ。アレス君、もう少しだけ待ってあげて。ほら席に座って」

 作るというのなら別にいいか……俺が席につくと、皆も同じテーブルの椅子に座っていた。
 しばらく待っていると、あの親父が幾つかの料理をテーブルに並べるが、俺の前に置かれていた物は量が半分もない。
 三人は口を揃えて「おっかねぇ」と呟いている。

「これ以上はダメだ。明日の朝にでもなればもう少し増やしてやる」

「まだ何も言っていないだろ?」

 俺の視線に気がついた連中は、腕で料理を守り食べ始めている。
 どれだけ信用がないんだ?
 まあ、半分……八割は奪おうとも考えたけど。
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