上 下
173 / 310
強者出現

172 アレスは三人に弱い 1

しおりを挟む
 馬車に揺られ、俺達は会話のない時間が過ぎていた。
 窓の外を見ると、民が行路の雪を取り除いていた。
 彼等は、俺達の馬車を見かけると、頭を下げる者、手伝いをしている子供たちは手を振っていた。

 今できることは、ダンジョンを攻略することだけ。
 俺の行動は、彼等の生活に何か役に立てているのだろうか?
 こんな所までわざわざ来てくれたこの三人には心配ばかりかけているな。
 ここに来るだけでも大変だったはずだ……。

「今回は本当にすまなかった」

 そう口に出しても、誰も何も言わなかった。
 不思議に思い視線を戻すと、ミーアはまっすぐ俺を見ていた。
 メアリもパメラもただ、見ているだけだった。
 俺は直視できず床へと逃げた。

「それは、何についてでしょうか?」

 メアリの口からは何処か冷たさを感じる。
 他の二人も、俺が謝ったことで少しだけ瞼が下がり、空虚な眼差しへと変わっていく。

「は? い、いや、ええっと」

「アレスさん。今のは、何に対しての謝罪だったのですか?」

「それは……だな」

 俺なんかのためにこんな所まで来て、心配をかせさせたからか?
 俺は何に対して謝りたいのだろうか?
 皆には迷惑を掛けている気がして言葉が出た。

「差し出がましいことを申し上げますが」

「メアリ?」

「アレス様は、あの侍女二人とただならぬご関係に? そういうことでございますか?」

 考えていたのはこの三人に心配や迷惑をかけたこと。しかし、想像もしていない事を言われ、俺の思考が完全に停止した。

「お答えできないのですか?」

 メアリはこの期に及んで何をトンデモ発言しているんだよ。俺がそんな事するはずは……もしかして、姉上は余計なことを言ったということなのか?
 二人の視線が一気に変わり、険しいものへと変わっていた。

「ちがっ、何でそんな話に……俺は別に、何もしていない」

 姉上からは夜伽とか言われたが、勿論丁重に断った。
 そもそもあの二人は、俺に対して結構塩対応だったぞ?
 話しかけようにもすすっと居なくなってたし……お礼は結局受け入れて貰えないわで散々だったんだけどな。

「わたくしは何か出来る立場ではございませんでしたので、使用人の真似事をさせて頂いておりました」

「そうだったのか、いろいろとありがとうな」

 そういや目が覚めた時から、メアリだけはメイド服を来ていたな。
 アレはアレで中々に似合っていたけど。
 いやいや、今はそんな話じゃないよな。これ以上余計なことを言って、怒らせるのはまずい気がする。

「なんでも、あのお二人はアレス様に命懸けで助けて頂いたと。それはそれは、何度も言っておりましたので、ああ、これは何かあるなと、わたくし……いえ、わたくしたちはそう思うのですが?」

「無いから! 全く何も……ないからな」

 助けたら恋に落ちるとか、どんなハーレムゲームだよ。
 いや、パメラやメアリも似たようなものか……?
 まともに話をしたって記憶がないのですが? それなのに何でメアリにはそんな事を言うんだよ。新手の嫌がらせなのか?

「アレス様がそう仰るのであれば……」

「ミーア様。お話はこれだけではないのですわ」

 まだ何かあるというのか?
 正直この手の話題はそろそろ終わって欲しいのだけど。

「フィールお姉様から、夜伽にどうだとお誘いもあったとか。これは事実でしょうか?」

「アレスさん……まさか!?」

「アレス様。どうかお答えください」

 ミーア、その笑顔がすごく怖い。さっきまでそんな顔をしてなかったよね?
 メアリさん、もしかしなくても結構怒ってます?
 そもそも姉上がただの冗談を言っただけだから……だいたい俺のようなデブが、なんでこんな事になっているんだ? おかしくないか?

「待て待て、そんな冗談は言われたが、俺は断ったぞ! 本当なんだよ!」

 馬車の中は重い空気で満たされていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

【完結】転生したら登場人物全員がバッドエンドを迎える鬱小説の悪役だった件

2626
ファンタジー
家族を殺した犯人に報復を遂げた後で死んだはずの俺が、ある鬱小説の中の悪役(2歳児)に転生していた。 どうしてだ、何でなんだ!? いや、そんな悠長な台詞を言っている暇はない! ――このままじゃ俺の取り憑いている悪役が闇堕ちする最大最悪の事件が、すぐに起きちまう! 弟のイチ推し小説で、熱心に俺にも布教していたから内容はかなり知っているんだ。 もう二度と家族を失わないために、バッドエンドを回避してやる! 転生×異世界×バッドエンド回避のために悪戦苦闘する「悪役」の物語。

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

前世が最悪の虐待死だったので、今生は思いっきり人生を楽しみます

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー

通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~

フルーツパフェ
ファンタジー
 エレスト神聖国の聖女、ミカディラが没した。  前聖女の転生者としてセシル=エレスティーノがその任を引き継ぐも、政治家達の陰謀により、偽聖女の濡れ衣を着せられて生前でありながら聖女の座を剥奪されてしまう。  死罪を免れたセシルは辺境の村で便利屋を開業することに。  先代より受け継がれた魔力と叡智を使って、治療から未来予知、技術指導まで何でこなす第二の人生が始まった。  弱い立場の人々を救いながらも、彼女は言う。 ――基本は何でもしますが、国家存亡の危機だけはお断りします。それは後任(本物の聖女)に任せますから

処理中です...