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強者出現
162 姉上はやっぱり姉上 1
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昨日の話だと思っていたのだが。俺が目が覚めたのは、あの日から二日程経っていた。
姉上と一緒に居た、あの二人が俺の手当をしてくれたらしい。
ロロさんは俺の身の回りを、リッツさんが怪我を治してくれたようだ。
「その二人って、あの時の?」
「そうよ。あの二人は翌日には回復していたからね。アレスのおかげで助かったわ」
結果的に俺の方が助けられていると思う。
お礼を言いたいのに……顔を覚えていないんだよな。
姉上に言えば教えてくれるのだろうけど。何を言われるのかが怖い。
そんな姉でも、義兄さんは穏やかな人で、あの姉上とも上手くいっているのが不思議だった。 父上みたいな腹黒さも感じることもなかったし、本当にいい人だった。
姉上の本性を理解していないとか……そんなことはないよな?
「アレス、いま失礼なことを考えていなかった?」
「姉上は何時見てもきれいな人です」
「心にもない言葉をありがとうね」
昔であればこれで、ごまかせていたのだけど、さすがにもう無理か。
俺の周りに居る女性陣は、俺を殴ることに躊躇というものがなさすぎる。
今回の事は、あのダンジョンに今までとは別の魔物が出現したということで調査していたらしい。
あの異形の魔物が何なのかということらしいが、姿からしてアイツと関わっている可能性が高い。
召喚か、眷属と言ったところだろう。
危険はあったが、父上からの話がなければ、今こうして姉上と話すことすら出来ないままだったかもしれない。
ただ、他の問題もでてきたのだが……あのまま放置するわけにもいかないよな。
気になることもあるし。
「姉上。父上に手紙を送ってもらえるかな? 当分は帰れないって」
「アレス!? 本気なの?」
姉上は『帰れない』の意味を理解してくれたようだ。
父上に言われた目的は既に果たしている。
これは公爵家にいる者としての責務だと思っている。俺の独善であり、家族や仲間にどう思われようとも構わない。
以前の事もあり、攻略は民にとっての安心だ。それに、アイツを野放しというわけにもいかない。
「アイツを放置は出来ない。貴族としてなら当然だろう? 誰も入れないままだと、その先どうなるかは分かるだろ?」
「ダンジョンの暴走ね。そんな事になれば、最悪この辺り一帯は壊滅する」
「ならアイツに対抗できるのは?」
「それは……」
増えすぎた魔物は外へと溢れ出す。
ある程度の駆除をしていたら溢れては来ないだろう。
しかし、そんな事が何時まで可能なんだ? アイツに出会えば、確実に死者は増える。
姉上も強いと思うけど、俺が難なく倒せる魔物になんとか対抗できている程度。
そして、アイツに対抗できるのは、きっと俺ぐらいだ……自惚れているわけでもなく、これが現実だった。
とはいえ、魔法が効かないのだから物理で戦うほかない。
「今から行くわけじゃないよ。少し訓練してから挑むつもり。当然だけど、姉上は連れていけないよ?」
「アレスが勝てない相手を、私がどうにかできるはずないでしょ」
姉上は意外と現実的な考えをするんだな。
事ある度に俺を連れ回していただけの記憶しか……というか、それ以外の記憶がない?
姉上は、俺を見て何かを察したのか、立て掛けていた俺の剣へと手が伸びている。
「あ、姉上」
「どうしたの? 私はただ倒れそうだから手に取っただけよ?」
そう言って、鞘をつけたまま。
剣先を胸に当てていた。
「それとも、昔のことでもじっくりと話し合いましょうか? 私が高等部あたりの頃から」
そう不敵に笑う姉上を見て、視線は姉上からずれてしまう。
何を考えていたのかバレている? じっくりは話し合いたくない。
そんな事を考えていると、見透かされたようにクスクスと笑う姉上。
「それで? どうするつもりなの? 今の貴方が万全になったとして、勝てる相手なの?」
勝てるかと言われると分からない。
持っていた剣を渡してくる。兄上から貰った剣。この剣はお下がりで、兄上が父上を負かした時に使った剣だった。
「その剣を大切にしているようだけど。貴方にあった武器じゃないのは分かっているのよね? 剣はそれに拘る必要はないのよ?」
兄上が大事にしていたもので、この世界の事をまだ知らない俺は、たまたま訪れた兄上から飾られていたこれをせがんだ。
当時は大きかった剣は、今はとても小さく感じる。これはお守りであり本来戦いに使うべきものじゃない。
あの時、俺は初めてこの剣を使わざるを得なかった。
アイツは俺の得意とする魔法が効かないのだから、勝てるのかと言われると見込みは限りなく薄い。
しかし、決定打がないわけでもない。要は、使いこなせれば良いのだから。
「今まであまり使ってなかった。使わなかった魔法があるんだけど。それを使いこなせれば、多分倒せる。と思う」
「思うって……他の冒険者達に招集を掛けましょう」
そうなると犠牲者を出すだけにしかならない。
タシムドリアンでの出来事がいい例だ。冒険者の多くは、大半が上層で、中層ともなるとほんの一握りしか居ない。
姉上と一緒に居た、あの二人が俺の手当をしてくれたらしい。
ロロさんは俺の身の回りを、リッツさんが怪我を治してくれたようだ。
「その二人って、あの時の?」
「そうよ。あの二人は翌日には回復していたからね。アレスのおかげで助かったわ」
結果的に俺の方が助けられていると思う。
お礼を言いたいのに……顔を覚えていないんだよな。
姉上に言えば教えてくれるのだろうけど。何を言われるのかが怖い。
そんな姉でも、義兄さんは穏やかな人で、あの姉上とも上手くいっているのが不思議だった。 父上みたいな腹黒さも感じることもなかったし、本当にいい人だった。
姉上の本性を理解していないとか……そんなことはないよな?
「アレス、いま失礼なことを考えていなかった?」
「姉上は何時見てもきれいな人です」
「心にもない言葉をありがとうね」
昔であればこれで、ごまかせていたのだけど、さすがにもう無理か。
俺の周りに居る女性陣は、俺を殴ることに躊躇というものがなさすぎる。
今回の事は、あのダンジョンに今までとは別の魔物が出現したということで調査していたらしい。
あの異形の魔物が何なのかということらしいが、姿からしてアイツと関わっている可能性が高い。
召喚か、眷属と言ったところだろう。
危険はあったが、父上からの話がなければ、今こうして姉上と話すことすら出来ないままだったかもしれない。
ただ、他の問題もでてきたのだが……あのまま放置するわけにもいかないよな。
気になることもあるし。
「姉上。父上に手紙を送ってもらえるかな? 当分は帰れないって」
「アレス!? 本気なの?」
姉上は『帰れない』の意味を理解してくれたようだ。
父上に言われた目的は既に果たしている。
これは公爵家にいる者としての責務だと思っている。俺の独善であり、家族や仲間にどう思われようとも構わない。
以前の事もあり、攻略は民にとっての安心だ。それに、アイツを野放しというわけにもいかない。
「アイツを放置は出来ない。貴族としてなら当然だろう? 誰も入れないままだと、その先どうなるかは分かるだろ?」
「ダンジョンの暴走ね。そんな事になれば、最悪この辺り一帯は壊滅する」
「ならアイツに対抗できるのは?」
「それは……」
増えすぎた魔物は外へと溢れ出す。
ある程度の駆除をしていたら溢れては来ないだろう。
しかし、そんな事が何時まで可能なんだ? アイツに出会えば、確実に死者は増える。
姉上も強いと思うけど、俺が難なく倒せる魔物になんとか対抗できている程度。
そして、アイツに対抗できるのは、きっと俺ぐらいだ……自惚れているわけでもなく、これが現実だった。
とはいえ、魔法が効かないのだから物理で戦うほかない。
「今から行くわけじゃないよ。少し訓練してから挑むつもり。当然だけど、姉上は連れていけないよ?」
「アレスが勝てない相手を、私がどうにかできるはずないでしょ」
姉上は意外と現実的な考えをするんだな。
事ある度に俺を連れ回していただけの記憶しか……というか、それ以外の記憶がない?
姉上は、俺を見て何かを察したのか、立て掛けていた俺の剣へと手が伸びている。
「あ、姉上」
「どうしたの? 私はただ倒れそうだから手に取っただけよ?」
そう言って、鞘をつけたまま。
剣先を胸に当てていた。
「それとも、昔のことでもじっくりと話し合いましょうか? 私が高等部あたりの頃から」
そう不敵に笑う姉上を見て、視線は姉上からずれてしまう。
何を考えていたのかバレている? じっくりは話し合いたくない。
そんな事を考えていると、見透かされたようにクスクスと笑う姉上。
「それで? どうするつもりなの? 今の貴方が万全になったとして、勝てる相手なの?」
勝てるかと言われると分からない。
持っていた剣を渡してくる。兄上から貰った剣。この剣はお下がりで、兄上が父上を負かした時に使った剣だった。
「その剣を大切にしているようだけど。貴方にあった武器じゃないのは分かっているのよね? 剣はそれに拘る必要はないのよ?」
兄上が大事にしていたもので、この世界の事をまだ知らない俺は、たまたま訪れた兄上から飾られていたこれをせがんだ。
当時は大きかった剣は、今はとても小さく感じる。これはお守りであり本来戦いに使うべきものじゃない。
あの時、俺は初めてこの剣を使わざるを得なかった。
アイツは俺の得意とする魔法が効かないのだから、勝てるのかと言われると見込みは限りなく薄い。
しかし、決定打がないわけでもない。要は、使いこなせれば良いのだから。
「今まであまり使ってなかった。使わなかった魔法があるんだけど。それを使いこなせれば、多分倒せる。と思う」
「思うって……他の冒険者達に招集を掛けましょう」
そうなると犠牲者を出すだけにしかならない。
タシムドリアンでの出来事がいい例だ。冒険者の多くは、大半が上層で、中層ともなるとほんの一握りしか居ない。
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