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ラカトリア学園 高等部

117 心優しい兄上。だから許して 1

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 ぶらりと屋敷を見て回るが、手入れがまだ行き届いていないから、ホコリとかもそれなりに残っている。
 ああ、なるほどな……。
 窓の外からは小さな畑が見えている。あの畑だけで一体どれだけ苦労をしてきたのだろうか?
 たった四人になってもここを離れることもなく、この場所に居続けていた。

 一階では、ローバンから来た私兵たちが慌ただしくしている。
 そのあたりの状況や、残っている人達の保護などやることは山積みだ。
 そんな中、俺は何もできることもなく、ただ歩き回ることしか出来ない。

 荒れ果てた庭には草が生い茂り、石畳からも草が伸びている。
 これだけの広さであれば、きっと花が好きだったのだろう。花壇の面影は消え、以前ならこのアーチにも花が咲いていたんだろう。

「アレス様?」

「ミーリアか……ここには花でも?」

「はい。もう三年は手入れをしておりません」

 三年か……俺がまだダンジョンに居たときぐらいからか。
 ミーリアは、今年で十七だったよな。俺の先輩として、学園に在籍をしていたのだろうな。
 そんな事をできる状況でなくなっていたのだろう。

「私はこの場所が好きでした。母は、この場所に来ては庭師と一緒になってよく花の手入れをしたり、土を触ったりしておりました」

 ここは、彼女にとって思い出深いものか……一見分かりづらいが、手入れをしようとしていた痕跡のようなものもあるな。
 草を刈っては、途中で止まり、またやってはの繰り返しのようだな。

「もう少しの辛抱だと思う……だけど、俺には確約したことは言えない。俺でなく俺の父上や兄上を信じてくれ」

「いえ、アレス様のことも信じております。私はこれで……」

「ああ」

 ミーリアが立ち去った後も俺は、ここに広がる草を眺めていた。
 風に揺られ、葉が擦れる音が聞こえる。
 手に集めようとする風が、辺りの草を撫でていくだけだ。

 魔力を全力で出しすぎたことによる後遺症なのか、普段から使っていた魔法を作り出すことも出来ない。
 草を風の刃が薙ぎ払い、風によって刈り取った草が巻き上げられ一箇所へと集まると炎によって燃え上がる。
 そんな事は簡単に今までなら出来ていた。

「上手くいかないな」

 風を集め、一箇所に留める。手のひらに集まることもなく、何度も草を撫で続けるだけ。
 草をむしり取り、魔力を集めるが燃え上がることはない。

「どうなっているんだか……」

 魔力糸を伸ばそうにも、形態を維持することもなく、途切れると霧散するだけ。
 俺の調子がこんなだと、せっかく来た貰った父上や兄上のどうやって説明すればいいんだ?
 きっと二人は俺を戦力としてみているはずなのに……このまま何も出来ない、今のように見ているだけなんてありえない。

「これなら……どうだ!」

 集めた魔力は制御されることもなく、圧縮された魔力により大きな音だけが響き渡る。
 俺はそのまま倒れ込んだ。
 制御できなかったことで、さっきの衝撃により手には痛みを感じていた。

「アレス。何をしていた?」

「兄上……魔法の制御の訓練を少し……」

「それで? 失敗でもしたというのか?」

 その言葉通りをまだ理解したくはなかった。
 今まであれだけ自信家だった俺に、魔法が使えないとただのデブでしか無い。
 それだけはどうしても認めたくはなかった。

「大丈夫です。もう少しすれば以前の感覚は戻りますから、俺に構わず戻ってください」

「そう無理をするな。今のお前にできることは、まず休むということだ」

「そんなこと……」

「アレス。君はよくやっている、僕の自慢の弟だよ。昔からむちゃばかりしていたよね。だけどね、僕たちはそんな君が笑っているから嬉しかったんだよ。だからね、今のようなアレスを僕は見たくないんだ」

 兄上はなぜ……何で泣いているんだろうか?
 俺を見たくないってどういうことなんだろうか?

「兄上?」

「アレス、自分を追い詰める必要はもうないはずだろ? 君に大きな負担を掛けたのは申し訳ないと思う。でもね……いま動かないと、アレスを守ることができなくなってしまうんだ」

「俺を守る? 兄上が?」

「僕だけじゃない、父上もだよ。今は僕たちを信じて、もう少しゆっくりと休みなさい。いいね?」

 兄上に促されるまま、手を掴みそのまま俺にあてがわれた部屋へと戻される。
 実質謹慎のようだけど……兄上があんな事を言ってくるとは思わなかった。
 俺は皆からは嫌われているようだった。だけど、俺が笑っているだけで皆が嬉しいとは……。

 俺はそのままベッドに寝転がり、兄上が言っていたことを何度も思い返していた。

「アレス様? お休みなのですか?」

 ミーリアはドアをノックするものの、返事がなかったがゆっくりとドアを開けていく。
 アレスが寝ているのを確認するが……その寝顔から目が離せないでいた。
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