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ラカトリア学園 高等部
102 貴族とは? 1
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二階の奥にある部屋へと通されたが、そこは執務室ではなく男爵の寝室だった。
しかし、ここだけは他の所とは違い整えられている。
床や壁に至るまで装飾の類はなく、ただ他と比べて綺麗に掃除をされているだけだった。
「こ、このような姿で申し訳ない」
「こちらこそ突然の訪問申し訳ない」
ベッドの上では、上半身だけを起こしかなりやつれている。
やせ細っているのはメイドや執事も同様だった。
メイドに支えられ、かろうじて座っているのかもしれないな。
「失礼した。ローバン公爵家の次男、アレス・ローバンです。事情を知らなかったとは言え、伏せっている所、大変申し訳ない」
「私は、ランドル・ドリアン男爵です。このタシムドリアンを任されております。私のような者に一体何の話があるのですかな?」
「この街はなぜこのようなことに?」
ドリアン男爵は深く息を吐き、首を振りまた深い溜め息をついた。
男爵という立場もあってか、こんな事を招いたのだからそう簡単には答えてはくれそうにもないな。
執事も、同様に視線を反らしている。
「言えない事情というわけか?」
「貴方様がもしローバン家の者だとしても、爵位を持たないお方です。ですので、おいそれと話すつもりはございません。どうか、ご理解頂け無いでしょうか?」
いろんな複雑な事情があるのだろう。それを公爵家の人間とは言え、ここはバセルトン公爵が収めている。
だから、俺はよそ者でしか無いのだろう。
「それもそうだな。話せない事情もあるのだろう……さて、どうしたものか」
この街を立て直すにも、男爵の協力は必要になる。しかし、伯爵がいる以上、その下に属している男爵は表立って行動はできないだろう。
それ以前にその体で無理をさせることもままならないだろうな。
俺が持っている物資だけで、一体どれだけの民が救えるのかすら分からない。
ただ提供するだけでは、何も変わることはないだろう。
生き残っている人達を救うには、人々がここで生きる意味や目的が必要になってくる。
僅かな食料であれば、それを巡って争いも起きる。
そんなことにもなれば……延命という言葉ではなくなってしまう。
父上や兄上なら……こういう場合どうするのだろうか?
俺は冒険者となることが認められたのか、兄上のように領地の事に関して詳しいと言えるだけの教育は受けていない。
ただ、公爵家の人間としての自覚だけは厳しく言われた。
「どうしたものか……」
男爵に仕えるメイドからして、この現状を甘んじているようにも思えない。
メイドは立派な職業だ。俺のような我儘な奴だろうと、俺の身の回りのことは良くしてくれていた。それは、給料を貰うという対価でもある。
索敵は展開していたままだが、相変わらず屋敷周辺には何の反応もなく、この屋敷をメイドが二人と年老いた執事だけ。
この街は何時からこんな事を強いられたのだろう。
「ローバン殿。如何なされましたか?」
「は? いや、どう話せば良いものやらとね。男爵の言われるように、俺には爵位もないただの学生だ。他の領の事とは言え、この現状は何とかしたいとは思う」
「ですが……ローバン公爵様がこのような場に来られるとは思えません」
確かにそうだな。
父上が現状を見れば動くだろうけど……父上でなく兄上にもどうやって説明をすればいいんだ?
貴族のこと、領地のことは全て兄上へと受け継がれる。俺には何も政策というものが思いつかない。
あの二人を動かすには俺だけでは役者不足でしか無い。
「それにはやっぱり、男爵の力が必要なんだ。この現状を変えるためにも、協力をして欲しい」
俺に今出来ることがあるとするのなら、街にいる人の腹を少しばかり満たす程度。
それが助けになるというものではない。餓死の日時をずらした程度に過ぎない。
何人残っているのかも把握はできていない。そればかりか……俺の手元に残っている金もない。
「無知ですまないが、ここの子爵の名前は?」
「子爵様でございますか? この地の子爵様は、ルーヴィア子爵様にございます」
ルーヴィア!?
「しかし、この現状を知らない訳でもありますまい……」
男爵からは、深い溜め息が漏れている。
同時に、俺は目の前が暗くなるのを感じてしまう。
同名はあっても……同姓などありえない。そういうふうにこの世界は成り立っている。
しかし、ここだけは他の所とは違い整えられている。
床や壁に至るまで装飾の類はなく、ただ他と比べて綺麗に掃除をされているだけだった。
「こ、このような姿で申し訳ない」
「こちらこそ突然の訪問申し訳ない」
ベッドの上では、上半身だけを起こしかなりやつれている。
やせ細っているのはメイドや執事も同様だった。
メイドに支えられ、かろうじて座っているのかもしれないな。
「失礼した。ローバン公爵家の次男、アレス・ローバンです。事情を知らなかったとは言え、伏せっている所、大変申し訳ない」
「私は、ランドル・ドリアン男爵です。このタシムドリアンを任されております。私のような者に一体何の話があるのですかな?」
「この街はなぜこのようなことに?」
ドリアン男爵は深く息を吐き、首を振りまた深い溜め息をついた。
男爵という立場もあってか、こんな事を招いたのだからそう簡単には答えてはくれそうにもないな。
執事も、同様に視線を反らしている。
「言えない事情というわけか?」
「貴方様がもしローバン家の者だとしても、爵位を持たないお方です。ですので、おいそれと話すつもりはございません。どうか、ご理解頂け無いでしょうか?」
いろんな複雑な事情があるのだろう。それを公爵家の人間とは言え、ここはバセルトン公爵が収めている。
だから、俺はよそ者でしか無いのだろう。
「それもそうだな。話せない事情もあるのだろう……さて、どうしたものか」
この街を立て直すにも、男爵の協力は必要になる。しかし、伯爵がいる以上、その下に属している男爵は表立って行動はできないだろう。
それ以前にその体で無理をさせることもままならないだろうな。
俺が持っている物資だけで、一体どれだけの民が救えるのかすら分からない。
ただ提供するだけでは、何も変わることはないだろう。
生き残っている人達を救うには、人々がここで生きる意味や目的が必要になってくる。
僅かな食料であれば、それを巡って争いも起きる。
そんなことにもなれば……延命という言葉ではなくなってしまう。
父上や兄上なら……こういう場合どうするのだろうか?
俺は冒険者となることが認められたのか、兄上のように領地の事に関して詳しいと言えるだけの教育は受けていない。
ただ、公爵家の人間としての自覚だけは厳しく言われた。
「どうしたものか……」
男爵に仕えるメイドからして、この現状を甘んじているようにも思えない。
メイドは立派な職業だ。俺のような我儘な奴だろうと、俺の身の回りのことは良くしてくれていた。それは、給料を貰うという対価でもある。
索敵は展開していたままだが、相変わらず屋敷周辺には何の反応もなく、この屋敷をメイドが二人と年老いた執事だけ。
この街は何時からこんな事を強いられたのだろう。
「ローバン殿。如何なされましたか?」
「は? いや、どう話せば良いものやらとね。男爵の言われるように、俺には爵位もないただの学生だ。他の領の事とは言え、この現状は何とかしたいとは思う」
「ですが……ローバン公爵様がこのような場に来られるとは思えません」
確かにそうだな。
父上が現状を見れば動くだろうけど……父上でなく兄上にもどうやって説明をすればいいんだ?
貴族のこと、領地のことは全て兄上へと受け継がれる。俺には何も政策というものが思いつかない。
あの二人を動かすには俺だけでは役者不足でしか無い。
「それにはやっぱり、男爵の力が必要なんだ。この現状を変えるためにも、協力をして欲しい」
俺に今出来ることがあるとするのなら、街にいる人の腹を少しばかり満たす程度。
それが助けになるというものではない。餓死の日時をずらした程度に過ぎない。
何人残っているのかも把握はできていない。そればかりか……俺の手元に残っている金もない。
「無知ですまないが、ここの子爵の名前は?」
「子爵様でございますか? この地の子爵様は、ルーヴィア子爵様にございます」
ルーヴィア!?
「しかし、この現状を知らない訳でもありますまい……」
男爵からは、深い溜め息が漏れている。
同時に、俺は目の前が暗くなるのを感じてしまう。
同名はあっても……同姓などありえない。そういうふうにこの世界は成り立っている。
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