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ラカトリア学園 高等部

147 折れる心 2

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 あの日からずっと一人で居れば、ミーア達の様子を見なければ……だが、関与さえしていなければ、今頃どうなっていたのかわからない。
 あのまま逃げられたのかもしれない。あるいは……

『過去が変えられないのなら、これからを変えていけばいい』

 我ながら何とも馬鹿なことを言ったもんだ。今の俺は過去にとらわれ、反省でも教訓でもなく、後悔を繰り返している。
 あの時の彼女と何も変わらない。

「ああ、やっぱり来るんだな……ミーア」

 扉の前には、三人の反応がある。あの後どうなったのか、今はそんな事を考える気力も残っていない。
 静かにドアが開き、ミーアは少しだけ顔を出し部屋の様子を探っているが、それを見ていた俺と目が合い、いつもの笑顔を見せてくれる。

「アレス様。お目覚めになられたのですね」

「ああ。おはよう」

「おはようございます」

「おはよう」

 二人は心なしか元気が無さそうに見えた。
 俺が意識を失った後、それぞれ後悔をしていたのだろう。
 しかし、掛ける言葉が出てこない。

 元気がないのも、目を腫らす事になったのも全部俺のせいだと言うのに……。
 泥沼に仕立てのは俺なのに、何故ここに敢えて三人で来るのだろうか? 心配だから? 俺に好意を持っているから?
 俺の視線に二人は怖じ気付いている。
 しかし、ミーアだけはそんな事も気にせず俺の所までやってきた。

「どうしたんだ?」

「私達は、街の復興のお手伝いをするつもりです。アレス様は如何なされますか?」

 何時ものように、何時もと変わらないように、けれど彼女は自然を装っている。
 明るい声で振る舞う。たとえ、手を伸ばし、頭や頬を撫でとすれば拒むこともなく受け入れるのだろう。
 怯えた二人とは違って……それは、ミーアが主人公であり、アレスはただの攻略者によるものだ。
 これだけミーアが俺に対して臆する事が無いのは、決別しようとしていたあの日から、ミーアの心を強くしてしまったのだろう。

「父上に今日はゆっくりしてろと言われた」

「そうだったのですね。お疲れの所失礼しました。レフリア様には私からお伝えします」

「ああ。分かった」

「それでは、後でまた伺います」

 彼女達が退室して、一人になるとベッドの中へ潜り込み何もする気が起こらない。
 頭の中に渦巻いているのは、過去の後悔ばかりだった。たら、ればを繰り返し、答えなんて見つかりもしないのに、考えを止めることが出来なかった。

 そして、何もかもから逃げるように眠りへと入っていった。
 夕方にミーアが訪れ、街の現状や今必要なものと細かく説明されたが、俺はただ生返事を繰り返した。
 夕食を運んできたり、就寝前にもわざわざ挨拶へやってくる。
 今の俺に何を望んでいるのだろうか?

「アレス。朝だよ」

「ハルトか……お前に起こされるとは、何のようなんだ?」

 俺はやっぱり馬鹿だな。何でミーアのことを考えていたんだ。
 他の誰でもこうしてやってくることは、それが当たり前のことだろう?
 今になって何を期待していると言うんだ?

「せっかく起こして上げたのにさ。皆、食堂で待っているよ」

「分かったよ」

 考えようによっては、ハルトに起こされるというのは、俺と会うのが気まずいそう考えるのが妥当だろう。
 俺もどう向き合えば良いのかわからない。
 重い足取りで、ハルトの後ろを歩いていた。

「おはようございます。アレス様」

 ミーアは昨日と変わらず、二人からもいつものような挨拶を受け、席に案内される。
 しかし、何故ミーアが来なかったのかを考えている自分に苛立ちすら感じる。
 エプロンを付け、食堂のテーブルに朝食を並べる彼女の姿を見て、安堵している自分が堪らなく情けない。

「今日は随分と辛気臭い顔をしているわね」

「レフリア様? そのような発言お控え頂きたいですわ」

 レフリアに対して、メアリは睨みを効かせ反論している。
 突然の言葉にたじろぐレフリアは、ミーアに助けを求めるかのように視線を流していたが、微笑んで返しただけだった。

「ご、ごめん、なさい。だって、ね?」

「アレスとはいつもこんな感じだから、許して貰えないかな?」

「そうですか……何も知らず申し訳ございません」

「メアリもこの程度、気にすることはないだろ? 俺のような醜態は忌避される所を、レフリアはわざわざ話しかけてくれるだけでも立派だろ?」

 俺がそう言うと、食堂には乾いた音が鳴り響いた。
 
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