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ラカトリア学園 高等部

106 ゲームでない現実の絶望 3

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 これまで行ったことのない街へと行き、箱には多くの食料をいれ、必要になりそうなものを片っ端から購入していく。
 乱雑に入れることに躊躇していたが、几帳面よりも時間が必要だ。

「ドリアン夫人。ご無沙汰しておりました」

「アレス・ローバン様。本日はどうされたのですか?」

「いや、少し気になったので寄っただけだ」

 以前よりも元気になっていた男爵に挨拶を済ませてから、また食料等が入っている箱を並べた。
 恐縮されたが、それも仕方がない事なので諦める他なかった。
 男爵達は俺が置いていった物を、大半を民に与えていたらしく、屋敷では未だ使用人を雇える状況でもない。

 食料を自分達だけ確保しても、どのみち腐っくいくだけだ。
 そうしないということは……期待をしてもいいのだろうと思う。
 暴走の危険も無くなったためか、荒れていた農地も小規模で稼働している。

「ローバン殿には感謝しきれません」

「民あってこその貴族なんですよ。俺はただ、父上の教えに従っただけのこと。男爵もそう思っているから、俺が置いた物を民に与えたのでは?」

「そうでございましたか。しかし、私は多くの民を裏切ってしまった。多くの者が貧しさに飢え、ここを離れたものも多い。残された民に対し……どう償えばよいのか」

 そんな事を嘆いたところで、残っている民の多くは男爵に失望をしているだろう。少しばかりの施しだけでは、この街の解決にはならない。
 今から農地の手入れをしたところで、冬をどう過ごすのかが問題になってくるはずだ。民は誰を責めるのかは考えるまでもない。

 その仲裁に、他の公爵家である俺が、しかも末席がそこまで手を出してくれば、いざこざが生じてくる。
 男爵もそれが分かっているからこそ、俺に対して援助の要請を持ち出すことはなかった。

「あの程度じゃ何も変わらない」

 上空から降り立つも、俺を気に留めようとするものは居ない。
 街の様子は相変わらずで、生きる気力さえ持たないものが壊された建物の中に座っている。
 俺には彼らを救う手立てがないのだ。施しを何時まででも続けたとしても、優先されるべきは生きる希望を持った者に限られてくる。

 この街には多くの建物があり、一体どれほどの遺体が放置されているのかもわからない。
 冬が来る前に疫病が発生する可能性も出てくる。

「お恵みを……貴族様。どうか、お恵みを……」

 一人の女性が、小さな子供を抱え俺の元へとやって来た。
 母親は、やせ細り、歩くのもままならない。
 倒れ込むが、それでも布に包まれていた子供を守ろうと必死になって、かばっていた。
 だけど……その子供はピクリとも動いてはいなかった。

「この子だけでもお救いください」

「貴族様……?」

 女性の声が届いたのか、建物から数多くの飢えに苦しむ者たちが俺の元へとやって来た。
 これがこの街の現状なのか? 
 俺はどれだけこの街が見えていなかったんだ?

 俺が置いていった食料なんて、数日どころか一日分ですら届かない。
 それを誰よりも知るあの男爵は、この状況の中、選んだのだ……この街を残すために。
 少しでもいいから、救える民を救うために……。

 俺に……何ができる?

「くっ。すまない」

 俺は上空へと飛び、彼らから逃げることしか出来なかった。
 この惨状はここだけではない。タシムドリアンに隣接するベセリーア、ミケントも同様な状態だった……。
 そんな中でも必死に生きようと、農地を守り、動けなくなるまであがき続けている。

 ルーヴィア子爵の居る街にやってきた。街は平穏そのもので、多くの人が行き交っている……上空から、見下ろす屋敷。
 ここの街は人々が活気にあふれている。
 そんなまやかしのような光景に、俺自身がこの場所が崩壊した街を想像してしまう。
 この場所に最大魔法を打ち込めば、アイツラは後悔するのかと……。

「ルーヴィア、ロンダリア。民に対する愚行、その報いを思い知らせてやる。そして、この地の公爵家! お前達は……俺が……」
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