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ラカトリア学園 高等部

79 結託した二人 2

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 そう言って俺と目を合わせることもなく、二人は料理を食べ始めた。
 俺も手を合わせ、そのパンは一口で食べ終わってしまう。
 食べた後だから、それほど欲しいとは思わないが……あまりにも虚しさだけが募る。

「アレス様は、先程ハルト様と夕食を食べて来られたのですよね?」

「いや……まあ、そうだけど」

「だったら大丈夫ですよね」

 二人はフォークを置いて黙ったまま俺を見ていた。
 右に左にと視線を移動させ、二人の様子は一向に変化が見られない。

「えっと……ごめん?」

「そうですか」

「それだけなんですね」

 それだけってどういう意味なんだ?
 二人は今かなり不機嫌な顔をしている。
 ミーアとパメラは俺と言うよりも、俺の後ろにあるベッドを見ている気がした。

 あれはパメラが余計なことをしたからであって、俺が悪いということにはならないと思うんだけど?
 もしかして、あのことが原因だというのか?

「その、怒っているのか? ほら、二人が寝た布団で寝られるかって言ったこと」

「アレス様からすれば、私達と距離を取ろうとしているのは存じております。正直あのお言葉は傷つきました」

「いや、あれはだな……」

「あんなに嫌がられるなんて、そんなに私は臭いますか? 」

「だから、そうじゃないんだって。その、アレだよ……分かるだろ?」

 こっちは毎日悶々としているというのに……二人してそんなに落ち込まないでくれよ。

「私達がこちらに赴くのはご迷惑ですか?」

「アレスさんは、私に言えないこともあるみたいだから……もうここに来ないほうが……」

 何でそんな事を?
 いや……俺はそうなることを望んでいた。

「この数日でしたが本当に楽しい毎日でした。ですが、アレス様にとってご不快だったのかもしれません」

 そんなことはなかった。戸惑うばかりだったし、二人といた時間に俺も楽しいと思っていた。
 二人から逃げ出し、俺は一人になるつもりだった。
 それは伝えていることで……そんな事を言われても仕方のないことだ。

 だけど、ミーアの想いに触れて、俺は二人と一緒にいることを望んだ。
 それなのに……この二人が俺の元から離れるというのか?
 でも、それは俺が望んでいたことだ。

 だけど……今はまだ!

「二人共ここに居てください。お願いします」

 頭を下げていると二人は席を立ち俺の頭を撫でていた。
 俺を許してくれたというのだろうか?

「本当にごめん。慣れない生活に戸惑っていたんだ。俺は元々一人で過ごしていた時間が多くてだな」

「ミーア、どうしようか?」

「今日は急なことですので、仕方がないですが……その内に新しい物を用意しましょう」

「何の話なんだ?」

「ベッドの話ですよ?」

 ベッド? どっからそんな話になったんだ?
 戻ってきてからベッドを使っていたが特に問題もなかったと思う。

「大きいのにしようか?」

「それもいいとは思いますが、今はまだ同じ物を用意した方がよろしいのではないかと」

「いやいや、本当に何の話をしているんだ?」

「アレス様が先程仰っていたではありませんか。私達二人にここに居て欲しいと」

「そうだけど……ベッドが……なんで?」

 この二人はとんだ思い違いをしているんじゃないのだろうか?
 二人には居て欲しいとは言ったが、それはただあの話の流れのことであってだ……な。

「もっと大きなベッドがあれば、アレスさんを真ん中にして添い寝が出来るよ?」

「添い寝……」

「うん、添い寝……」

 頬を染めて何言っているんだ!
 馬鹿なのか? 前々から思っていたがパメラは若干馬鹿な子なのか?
 というか、二人にいて欲しいって、二人が此処で暮らすということなのか?

「待て待て待て、少し落ち着け。二人の言いたいことは分かったが、それはまだ早い。というか、それだけは勘弁してくれ」

 独り占めされるのは嫌なくせに、共有するのは良いのか?
 そんな事されたら連日寝れる気すらしてこないぞ……悟りをどうやって開くつもりなんだよ!

「同じベッドでなら、追加は認めるが三人が一緒というのは却下だ」

「つまり交代でアレスさんの隣でということですね?」

「お前はどんだけポジティブ思考なんだ! そっちのベッドの隣に追加するんだよ。俺は離れてていいから、むしろそうじゃないと寝られるわけ無いだろ」

 それから二対一の不利な戦いだったが、少しだけ大きめのベッドを買い、ミーアとパメラが使用することで文句を言われつつもまとまった。
 この二人は最初から俺に言わせるために、こんな事を仕掛けてきたんじゃないだろうな?
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