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転生した異世界の生活

26 飛び級試験 3

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 アレスは元々氷と風の魔法に適性がある。それはゲームでの話であって、適性がなくても俺には他の属性を使うことが出来ていた。
 土魔法、アースバインドで足を縛っていた所に、さらにアースウォールで胸の深さまで囲い込む。
 身動きが取れなくなったので、父上もため息を付き、両手を上げ剣をそのまま落としていた。

「これが狙いでもあったのかな?」

「あと二つほど考えてました。あの一戦しか知りませんでしたので、攻撃はブロックで、最悪の場合は広範囲魔法まで使うつもりです」

「やれやれ、セドラは魔法に関して、君に教えることはないとは思っていたのだけど?」

 知識がある俺にとっては、魔力があれば一部の魔法を除き大抵は扱える。
 ただゲームとは違い、現実であれば経験がかなり重要だと思った。

 MPさえあれば発動できる魔法でも、発動するのに時間がかかる。だから、初級魔法を当たり前のようにいつでも発動できる訓練もしていた。
 同じ魔法を使い続けることで、瞬時に発動できる。慣れのようなものだ。

「ところでだ私が魔物だとして、下半身を動けなくしてどういう攻撃をするつもりだったのかな?」

「風魔法による斬撃です、このようなものです」

 エアスラッシュ。
 風魔法を地面に向けて放つと風の刃で切り裂かれていく。
 慣れる段階で新しく思いついたのが、一回の魔法の斬撃は一回。
 だけどそれを一度の魔法で二撃三撃と増やすことが出来た。

「これほどとは……アレス、私の負けだよ。こんなにも早く負けるとは思わなかったよ」

「今度は俺の勝ちでいいですか? 前回みたいに、不意打ちしてくるのですか?」

「ああ、アレス。君の勝ちだよ。だからこの魔法を解いてくれ」

 風を纏いつつ、土魔法を解くと父上はその場に座り剣を収めた。

「やれやれ、信用ないな。けれど本当に強くなったね、あの時のことを考えると嬉しいよ。君はもう一人前の大人だね」

「ありがとうございます」

 試合を見に来ていた母上には抱きつかれ、息子自慢をしながら屋敷へと強制連行された。



「旦那様も負けてしまわれましたか……」

 アークはそのまま地面に横になって空を見上げていた。
 セドラも、目線を空へと向ける。
 果てしなく続く、青い空。

「こんなにも有望な子供たちで、私は嬉しいよ」

 アレスの成長は目覚ましい何かを感じていた。

「私も全力で手合わせができて、良かったですよ」

 ただ阻止したいと、そう願いつつも、その成長がどこまで続くのかも見届けたい。
 そんな気持ちもわずかながらにある。

「セドラ……まさかとは思うけど。本気でやったのかい?」

「はい。そして、負けました」

 全力は出していた。
 アレスはせっかく元気になったというのに、わざわざ死地に行くなど認めたくはなかった。
 しかし、その強さはセドラの考えを遥かに超えた所にある。

「そういうことは早く言って欲しかったよ。セドラ……いや、兄さん、いつもあの子を見守ってくれてあがとう」

「あの子は強い。しかし、こんなにも早く手を離れてしまうとは……アークが負けるとは思いもよらなかった」

「大丈夫。あの子はきっと、楽しい人生を歩んでくれるよ」

 子供とは思えないあの強さ。
 我が子の成長に喜びを感じ、剣ではなく、魔法を使うアレスがどんな成長を遂げるのか心躍る思いだった。 

「そうだな……それにしても、ソフィの奴。アレスを連れてどうするつもりだ?」

「こらこら、執事さん。私の息子を呼び捨てにしたらだめだよ。君は伯父である前に執事なんだから」

「そうでございましたな。参りましょう旦那様」

 自室に戻りこれからのことを考えていた。幼い頃病弱だったせいか、ゲームでのアレスは強くはない。
 RPGの典型的な魔法タイプで、HPもミーアより少ない。
 そんなアレスのシナリオから外れた俺は、本当にこれで良かったのだろうかと悩んでいた。

 朝になると、父上から呼び出されて執務室へと向かった。

「失礼します」

「これを君に渡しておく。この近くにある新しいダンジョンの許可証だよ。これがあれば学生でもない君でも、私が許可をしていることになるからね」

「有難うございます。ですが、俺はその場所を知りません」

「アレス、確かに君は強い。だけどその強さを過信してはいけないよ。いいね?」

「はい、自分が強いとも優秀とも思ってはいないです」

 油断すれば、どんな相手でも死ぬかもしれない。どれだけHPがあっても首を切り離されるとそれまでだ。
 それでも俺は行かないといけない。

「明日、私とセドラが付き添い、君の戦い振りを見させてもらうよ。それだと場所も覚えられるだろ?」

「分かりました。それでは失礼します」


 しかし、アークは今になって自分の過ちに苦悩していた。
 ただ純粋に憧れだと思っていたアレスの言葉。
 ダンジョンへ向かう今は、別人にも見える彼の一つ一つの行動が、どこか遠くにいる他人に見えていたからである。

 なぜなら、一人黙々と、当然かのように魔物を討伐する彼の背中を見て、そう感じずにはいられなかった。
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