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転生した異世界の生活
23 鬼畜乙女ゲームを生き抜くために 2
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セドラとの訓練が終わり、俺は早速父上の所へと向かった。
「父上。初等部の話なのですが」
「初等部? それがどうしたんだい?」
「飛び級を受けてみたいのです」
「飛び級の試験を? それはまた唐突だね。それにまだ一年以上先の話だけど、何でそんな話になったかな?」
飛び級を受けるには、まずは親の承諾が必要になる。
次に試験もあるのだが、初等部は主に、勉強やマナーと言ったものであまり必要がない。
そんな事をしているよりも、この先のことを考えると今はあまり実感はないのだけど、レベルを上げておいたほうがいい。
「飛び級すれば、初等部は免除され、高等部編入学が可能なんですよね?」
「そのとおりだが……リスクが大きい。止めておいたほうが身のためだよ」
「初等部を飛び級して、三年間みっちりと修業に励みたいんだ」
俺の目的は今から魔物を倒しレベルを上げておくことだった。
独学だったとはいえ、魔法の効果もちゃんと把握しておきたかった。
「高等部を休学して、いつものような事を続けたいと?」
「いえ、飛び級して、ダンジョンへ向かいます」
「なっ。良いかいアレス……ダンジョンは君が思っているよりも危険なところなんだ」
「父上。お願いします。どうしても必要なのです」
アークは大きくため息を吐き額に手を当てている。
家を飛び出し、冒険者となるにも初等部を卒業している必要がある。
しかし、貴族階級は平民用の学園とは違い、王都にある学園に通う。だからこの飛び級制度は貴族のみにしか出来ない。
飛び級ができれば、すぐに冒険者になることも可能だが……学園に通うミーアとの接点が無くなるためそれは避けておきたい。
「本気のようだね。なら、一つ条件をつけよう。飛び級の試験は認めよう」
「有難うございます」
「喜ぶにはまだ早いよ。まずは合格すること、そして、私と戦って勝つこと」
「父上に?」
あの時にやった模擬戦のようなことだろうか?
「もちろん、危険なことを許すのだから一切の手は抜かないよ。私が勝てば、初等部を飛び級していようと、初等部に入ってもらうからね? 分かったかい?」
「はい。分かりました」
それからというものは来る日も来る日も、魔法の強化や戦術を考え実践していた。
剣術では、武器に重りを付け、魔法を使い自身の強化をする。アレスは本来氷と風魔法が主体で、他の属性は使えない。
だけど、試してみたら使えないわけではなかった。そのため新しい魔法属性の開花や、魔法というものへの慣れを磨く。
ミーアが不意にこの家にやってきた。
婚約者なのだから何の問題もなく、むしろ親からすればいい話だろう。
だが、今の俺からすればこの時間すら勿体なく感じていた。
「アレス様。お元気でしたか?」
「はい。ミーアも元気そうで何よりです」
必ず、守ってみせる。
彼女にどう思われようとも、助けることさえできればそれでいい。
「アレス様……その、そんなに見つめられては……あの」
「こうして会っていると、本当にこんな可愛い子が婚約者でいいのかなって」
「まぁ、かわいいだなんて」
左手で口元を隠し、薬指が光る。
ミーアはまだ子供だ、俺が嬉しいとかありえないだろ……それに、本心から俺なんかでいいのだろうか?
だけど、俺はこの世界がゲームだったことを知っている。それが現実になったとしても、変わらないものも多く残っている。
その日は、アルライトを案内し一時に小さな幸せを感じていた。
楽しかったし嬉しい時間だったけど、同時に悲しくもあった。
この世界のミーアは、俺がアレスだから好意を持っているだけに過ぎない。
そういう設定だから、俺なんかの言葉で彼女は頬を染め、恥ずかしそうにしつつも嬉しそうに笑っている。
そんなミーアだから、錯覚を覚えてしまう。
それに元々アレスは、彼女に対して何も思ってはいなかった。
つまり俺じゃなくても、ミーアはきっとその婚約者を大事にするはずだ。
貴族同士での結婚は当たり前でそこに恋なんて生まれるわけがない。
だから……俺は、別の道を模索するしか無い。
「アレス様いかがなされましたか?」
「いえ、二人だけで食事をするなんて初めてでしたから、少し緊張してます」
「私も緊張してます」
今日は本当に二人だけの時間だった。
そう言って笑う彼女は、指輪を親指でそっと撫でていた。
疑いだしていたらきりがないな。
「ミーア、僕は……」
「はい?」
だからこそ……このゲームを終わらせるのは俺一人だけでいい。
ミーアは、安全なところで過ごしてくれればそれでいい。
「俺は初等部を飛び級するつもりでいる。だから俺が呼ばない限り、こっちには来ないで欲しい」
「アレス、様?」
作られた彼女と今の彼女が、今後どう思うかなんて想像もしたくない。
乙女ゲームの主人公はアレスではなくミーアだ。
当時プレイしていたあのミーアが、これからもゲームと同じ様にアレスを思い続け、このまま一緒にいれば、成長した彼女に対して、俺は今の状態を保てなくなりそうだ。
だから、ミーアに今は、近づかないほうがいい。
「ごめんな、ミーア」
ミーアはそれからは口を閉ざした。
「父上。初等部の話なのですが」
「初等部? それがどうしたんだい?」
「飛び級を受けてみたいのです」
「飛び級の試験を? それはまた唐突だね。それにまだ一年以上先の話だけど、何でそんな話になったかな?」
飛び級を受けるには、まずは親の承諾が必要になる。
次に試験もあるのだが、初等部は主に、勉強やマナーと言ったものであまり必要がない。
そんな事をしているよりも、この先のことを考えると今はあまり実感はないのだけど、レベルを上げておいたほうがいい。
「飛び級すれば、初等部は免除され、高等部編入学が可能なんですよね?」
「そのとおりだが……リスクが大きい。止めておいたほうが身のためだよ」
「初等部を飛び級して、三年間みっちりと修業に励みたいんだ」
俺の目的は今から魔物を倒しレベルを上げておくことだった。
独学だったとはいえ、魔法の効果もちゃんと把握しておきたかった。
「高等部を休学して、いつものような事を続けたいと?」
「いえ、飛び級して、ダンジョンへ向かいます」
「なっ。良いかいアレス……ダンジョンは君が思っているよりも危険なところなんだ」
「父上。お願いします。どうしても必要なのです」
アークは大きくため息を吐き額に手を当てている。
家を飛び出し、冒険者となるにも初等部を卒業している必要がある。
しかし、貴族階級は平民用の学園とは違い、王都にある学園に通う。だからこの飛び級制度は貴族のみにしか出来ない。
飛び級ができれば、すぐに冒険者になることも可能だが……学園に通うミーアとの接点が無くなるためそれは避けておきたい。
「本気のようだね。なら、一つ条件をつけよう。飛び級の試験は認めよう」
「有難うございます」
「喜ぶにはまだ早いよ。まずは合格すること、そして、私と戦って勝つこと」
「父上に?」
あの時にやった模擬戦のようなことだろうか?
「もちろん、危険なことを許すのだから一切の手は抜かないよ。私が勝てば、初等部を飛び級していようと、初等部に入ってもらうからね? 分かったかい?」
「はい。分かりました」
それからというものは来る日も来る日も、魔法の強化や戦術を考え実践していた。
剣術では、武器に重りを付け、魔法を使い自身の強化をする。アレスは本来氷と風魔法が主体で、他の属性は使えない。
だけど、試してみたら使えないわけではなかった。そのため新しい魔法属性の開花や、魔法というものへの慣れを磨く。
ミーアが不意にこの家にやってきた。
婚約者なのだから何の問題もなく、むしろ親からすればいい話だろう。
だが、今の俺からすればこの時間すら勿体なく感じていた。
「アレス様。お元気でしたか?」
「はい。ミーアも元気そうで何よりです」
必ず、守ってみせる。
彼女にどう思われようとも、助けることさえできればそれでいい。
「アレス様……その、そんなに見つめられては……あの」
「こうして会っていると、本当にこんな可愛い子が婚約者でいいのかなって」
「まぁ、かわいいだなんて」
左手で口元を隠し、薬指が光る。
ミーアはまだ子供だ、俺が嬉しいとかありえないだろ……それに、本心から俺なんかでいいのだろうか?
だけど、俺はこの世界がゲームだったことを知っている。それが現実になったとしても、変わらないものも多く残っている。
その日は、アルライトを案内し一時に小さな幸せを感じていた。
楽しかったし嬉しい時間だったけど、同時に悲しくもあった。
この世界のミーアは、俺がアレスだから好意を持っているだけに過ぎない。
そういう設定だから、俺なんかの言葉で彼女は頬を染め、恥ずかしそうにしつつも嬉しそうに笑っている。
そんなミーアだから、錯覚を覚えてしまう。
それに元々アレスは、彼女に対して何も思ってはいなかった。
つまり俺じゃなくても、ミーアはきっとその婚約者を大事にするはずだ。
貴族同士での結婚は当たり前でそこに恋なんて生まれるわけがない。
だから……俺は、別の道を模索するしか無い。
「アレス様いかがなされましたか?」
「いえ、二人だけで食事をするなんて初めてでしたから、少し緊張してます」
「私も緊張してます」
今日は本当に二人だけの時間だった。
そう言って笑う彼女は、指輪を親指でそっと撫でていた。
疑いだしていたらきりがないな。
「ミーア、僕は……」
「はい?」
だからこそ……このゲームを終わらせるのは俺一人だけでいい。
ミーアは、安全なところで過ごしてくれればそれでいい。
「俺は初等部を飛び級するつもりでいる。だから俺が呼ばない限り、こっちには来ないで欲しい」
「アレス、様?」
作られた彼女と今の彼女が、今後どう思うかなんて想像もしたくない。
乙女ゲームの主人公はアレスではなくミーアだ。
当時プレイしていたあのミーアが、これからもゲームと同じ様にアレスを思い続け、このまま一緒にいれば、成長した彼女に対して、俺は今の状態を保てなくなりそうだ。
だから、ミーアに今は、近づかないほうがいい。
「ごめんな、ミーア」
ミーアはそれからは口を閉ざした。
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