上 下
19 / 310
転生した異世界の生活

18 婚約者は早くないですか? 2

しおりを挟む
「あれ、ここは……そうでした。王都へと行く途中で……きゃっ」

「ううん? 誰?」

「あ、あの……ミーアです」

「ミーア? えーと……うわっああ」

 俺は飛び起き、ベッドから飛び出した。ミーアは恥ずかしそうに、布団で体を隠している。
 そんな仕草もかわいいっじゃなくて。俺寝てた? 一緒に?
 俺の声が聞こえたからなのか、後ろの扉は開かれると、困った顔をしている父上と俺を睨みつける男の姿があった。

「やぁ、おはようアレス君」

「お、おはようございます」

「ミーアが世話になったね。私は、クーバル・シルラーン。君の隣に寝ていたミーアの父だ」

 俺の前に腰をかがめると、ガッチリと両肩を捕まれ親指が食い込んでいた。
 目を見開いたまま、鼻が当たりそうなほど近い近い、肩が砕ける。
 しかし、ここで痛いとか言えば何されるかもわからない。

「ミーア。無事で良かった」

「お、お父様」

 さっきまでとは違い、とても優しい顔をしていた……が、俺をまた見ると顔つきが変わる。
 こ、殺されるんじゃないのかな?

「私は! このアレス! 君と、少し話が! あるので失礼するよ」

「は、はい。アレス様。ありがとうございました」

「いえ……いだっ」

 俺は、肩を掴まれたまま持ち上げられ、荷物のように脇に挟まれた。
 抵抗もなくじっとしていると、ソファへ降ろされる。

 開放されたのも束の間で、さっきよりも少しは離れているが、クーバルさんは眉間にシワを寄せじっと睨みつけている。
 視線をずらしても態々俺の前まで顔を近づけてくる。

「クーバル。私の息子が怯えているじゃないか」

「大丈夫だ。殺そうかどうしようか迷っているところだ、気にするな」

 わ、笑えねぇ……
 俺は何もしていない、何もしていないよと言いたい。
 怖くて声も出ないけど……

「それこそ大問題になるからね。それよりもアレス、昨日はお手柄だったね。私も父親として嬉しいよ」

「い、いえ。僕はただ……」

「ただ、何かね?」

 一々突っかからないでくれよ。
 父上の前で殺すとか何考えているんだこの人は……ミーアの父親らしいのだけど、きっと母親に似たんだろうな。

「彼は、シルラーン伯爵家当主、クーバル・シルラーン。古い私の友人でもあるんだよ」

「はじめまして、アレス・ローバンです。ミーアのお父さんですよね」

「そうだよ。ほらクーバル。いつまでもそんな事をしてないで、アレスにお礼を言うんだね」

 ようやく対面のソファへと腰を下ろしてくれた。
 俺はほっと胸を撫で下ろすことが出来た。

「アレス君。ミーアを助けてくれたことは感謝している……ありがとう」

「偶然居合わせただけですが、無事助け出せてよかったです」

「無事だと? ミーアを傷物にしておいて無事だと?」

 傷物……? 何処か怪我をしていたというのだろうか?

「嫁入り前の娘と閨を共にしておいて、無事だと言い張るつもりか?」

「ち、父上」

「ミーアを助けたまでなら、私も褒められるのだがね。まさか、一緒に同じベッドで寝るなんてね。君はどう責任を取るつもりなのかな?」

 一緒って……俺も疲れていたからつい手を握っている間に……
 子供が一緒に寝るぐらい、一体何の問題になるんだ?

「僕は決して疚しいことなんてしません」

「つまり、アレスくん。君は、ミーアが婚約者だと不服というわけか?」

「責任をとって結婚するのが妥当だよね」

 まってまって。おかしくない? その話の飛び方は!

「結婚!? いくら何でも話が飛びすぎていて……ですが、責任を取れと仰るのであれば従います」

 貴族ならこういう所はしっかりと守らなければいけない。
 何もなかったにしても、何もしていないは通用しないのだろう。
 だとしても……こんな子供に婚約者をあてがうのもどうかと思うのだけど?

「手を握る以外何もしておりませんが、このことで責任を取れというのなら取ります。ですが、ミーアが納得しないのであればこの話はなかったことにして頂きたく思います」

 そう言うと、二人は目を合わせ二人して吹き出すように笑っていた。
 一頻り笑った後、二人は別の所を見ていた。その視線を追っていくと、部屋の入口には頬を赤くしたミーアの姿があった。

「ということだが、ミーア。お前はどう思う……」

「これは、聞くまでもなさそうだね」

 二人に言い寄られミーアは、耳まで真赤にして恥ずかしそうに俺をチラチラと見ていた。
 何度目かには俺とバッチリ目が合い、一歩後ろへと下がられてしまう。

「ミーア。えっと……」

「末永く、よろしくお願いします。アレス様」

 そう言い残して、ミーアは何処かへ走り出していった。

「ミーアのことよろしく頼んだぞ。アレス、いや、我が息子よ」

 魔獣の件は別として……クーバルさんはがははと嬉しそうに笑っている。父上も嬉しそうに笑っている。
 この脅しは二人によって仕組まれていたのではないのだろうか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

元天才貴族、今やリモートで最強冒険者!

しらかめこう
ファンタジー
魔法技術が発展した異世界。 そんな世界にあるシャルトルーズ王国という国に冒険者ギルドがあった。 強者ぞろいの冒険者が数多く所属するそのギルドで現在唯一、最高ランクであるSSランクに到達している冒険者がいた。 ───彼の名は「オルタナ」 漆黒のコートに仮面をつけた謎多き冒険者である。彼の素顔を見た者は誰もおらず、どういった人物なのかも知る者は少ない。 だがしかし彼は誰もが認める圧倒的な力を有しており、冒険者になって僅か4年で勇者や英雄レベルのSSランクに到達していた。 そんな彼だが、実は・・・ 『前世の知識を持っている元貴族だった?!」 とある事情で貴族の地位を失い、母親とともに命を狙われることとなった彼。そんな彼は生活費と魔法の研究開発資金を稼ぐため冒険者をしようとするが、自分の正体が周囲に知られてはいけないので自身で開発した特殊な遠隔操作が出来るゴーレムを使って自宅からリモートで冒険者をすることに! そんな最強リモート冒険者が行く、異世界でのリモート冒険物語!! 毎日20時30分更新予定です!!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

不遇幼女とハートフルなもふもふスローライフを目指します! ~転生前の【努力値】で異世界無双~

epina
ファンタジー
彼方高志(カナタ タカシ)は異世界に転生した直後に女の子の悲鳴を聞く。 助け出した幼女から事情を聴くと、家族に奴隷として売られてしまって、帰る場所がないという。 タカシは転生して得た力で、幼女の保護者になると決意する。 おいしいものをいっしょに食べたり、きれいな服を買ってあげたり。 やがてふたりはいろんな試練を乗り越えて、さまざまなもふもふたちに囲まれながら、のんびり旅をするようになる。 これはAIサポートによって異世界転生した男が、世界で一番不幸な幼女を、世界で一番幸せにするまでの物語。

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...